180 謝罪という名の傲慢
ヴィオラはあの日からずっと何が悪かったのか自問自答していた
ヴァルターに会えさえすれば――。
謝れば、きっと許してくれる。そう信じていた。
でも、現実はあまりに冷たかった。
父・セバスティアン王の時のように国を落ち着かせたい。
それだけなのに、どうしてすべてが裏目に出るのだろう。
ヴァルターに面会を求めても、レオポルト王は「状態が不安定だ」と言って取り次いでくれない。
口実だってことはわかっている。
ヘルマンやエドガー様には会わせているのに、私とアルフレードだけは、門前払いだ。
ヴァルターなら、ちゃんと話せばわかってくれる。
リチャード団長が敬愛していた王や王妃が亡くなり行き場のない抱えた怒りも、仲間を失った騎士たちの悔しさも。
ヴァルターは最初は文句をいうけど、いつも受け入れてくれているもの。
……そう信じたかった。
けれど肝心のリチャードが、私の言葉なんて聞こうともしなかった。
子供の頃から、アルフレードや私の剣を導いてくれた、あの優しいリチャードが、もうどこにもいないみたいで。
「なぜ……こんなことになってしまったの」
オリヴィアンを奪還するまで一緒に頑張っていた気持ちは同じだったはずなのに。
ヴァルトシュタインに屈したふりまでして、私達を信じてくれていたのに。
彼の痛みは、お父様とお母様が亡くなった私には、痛いほどわかるのに。
それなのに、誰も話を聞いてくれない。
リチャードも、海軍のヘルマンも、そして――ヴァルターまでも。
海軍と騎士団の仲は最悪だ。
海軍にいたヴァルターは、すでに海軍の仲間だった。
だから騎士団からヴァルターを守れなかった海軍兵の悔しさが、憎しみに変わっていく。
ヘルマンにヴァルターの様子を教えてほしい、会わせてほしい、ヴァルターは許してくれているのか聞いてほしいと頼む。
でも、私が何を言っても、「自分で面会を依頼したらいい」としか言わない。
それが受け入れられないから困っているのに...
「……ねえ、私達は仲間じゃなかったの?」
どうして、みんな離れていくの。
もう一度、話し合えばわかり合えるはずなのに。
そう思っていた矢先――ヴァルターがセレンと結婚するという知らせが届いた。
(ああ、よかった……無事に治ったのね)
いや、違う。
本当は、胸の奥がざらりと痛んだ。
祝いたいのに、素直に喜べなかった。
「式で会って、ヴァルターと少し話をしよう。」
アルフレードとそう決めた。
でも、セレンの家から断られた
「おめでたい席に水を差すわけにはいかない」と。
(あんなにも、二人を応援してきたのに……)
結婚に水なんて差すわけがない。
みんながいるときにきちんと謝罪して、受け入れてもらおうと思っているだけなのに...
確かに、私達は間違えた。
けれど、彼はもう怪我が治ったから結婚式をあげるのだ。
謝りたいと言っているのに――なぜ、歩み寄ってくれないの?
私は、信頼していた臣下を庇った。それが、そんなに罪なの?
「……私、何が間違ってるの?」
昔、ヘルマンは言った。
“ヴィオラは危うい。でもみんなとの意見が集まりやすい。それを取り入れることが出来るのが王の資質だ”って。
私はリチャードの悔しさを理解している。
その上で、間違いを伝えようとしている。
それじゃ、駄目なの?
子どもたちの泣き声で、思考が途切れた。
最近、ピリピリしているのが伝わっているんだ。
母親失格だなって、思う。
「うまくいかない時は、すべてがうまくいかないなあ……」
小さくつぶやくと、アルフレードが帰ってきた。
彼は、私よりずっと冷静に動いてくれている。
「とにかくヴァルターに会って、話を聞いて分かってもらわないと次に進めないわ。グリモワール王の勅命で帰国命令をだしてもらおうかしら」
私は思案する。
だが、アルフレードにそれを告げると、きっぱりと断られた。
「ヴィオラ、俺達は、今まで頑張れば誰かがその頑張りを拾い上げてくれていた。それが当たり前だと思いすぎていたんだ。もう一度一緒に考えないか?
ヴァルターが許してくれるはずだとどうして思った?俺達がその態度や考えだったら、ヴァルターが許さなければ、俺達は許さないことを納得できないんじゃないか?謝罪ってそうじゃないよ。」
「だ、だって、ヴァルターが許してくれないとこれからどうするの?リチャードは、ヴァルターのことを確かに恨んでいるわ。だけど誤りを理解する時間が必要よ。練習中は監視して、ヴァルターが同じような目に合わない約束をしたらいいじゃないの?話し合いを繰り返して溝を埋めていきましょうよ」
アルフレードは、私の目をちゃんと見て首を振った。
「夫ではなく、王配の意見として聞いてほしい。今リチャードが聞く耳をもたなくて暴走しているなら、それはオリヴィアンにとって危険なことなんだよ。王の意見を聞かない騎士団がどれだけ危険かわかるよね。それは時間をかけて話し合うというものではないんだ」
悲しげに私に告げる。
「どうしてアルフレード、私の気持ちを分かってくれないの?弟だから、庇っているの?だって、だってリチャードは私達が帰ってくるのを待っていてくれたのよ。目の前でお父様とお母様が亡くなっているのをみて苦しんだのよ。どうして?ヴァルターのことだって、受け入れられるまでには時間もかかるわよ」
声が震える。
私は何度も聞く。
「僕だってリチャードには感謝している。でも、やったことは犯罪だ。僕達は、信頼している人なら犯罪を犯していいと言っているのと同じなんだ。もし息子たちがヴァルターと同じ状態で、悪くないのに尊厳を傷つける方法で暴行されていたら許せるかい?王が信頼している人だから、向こうが納得するまで時間はかかるけど許せるよねって、王に言われたら、君はその王についていこうと思うかい?」
私はがつんと頭を殴られたような気持ちになった。




