167 噛み合わない求婚
私とヴァルターの声が重なった時、私はまさかの人生初のプロポーズをされてしまった!!
さあ!どう答えたら...と思ったのだけど。
「えっ!セレン!俺と一緒に戦場で戦ってくれるの?」
ヴァルターが嬉しそうに、目を輝かせて喜んでいる。
えっ??はこっちのセリフだ!!
その無邪気な笑顔に、私は思わずこめかみを押さえた。
「そこじゃないわ、ヴァルター!普通は、私が一緒に戦場に行くところじゃなくて、結婚を推す場面よ。今あなた、私にプロポーズしたのよ」
ぽかんとするヴァルターを前に、私はくらくらと目眩がする。
まさか人生初のプロポーズが、こんな形で取り消されるとは思わなかった。
「あなた、私と結婚したいから、今の言葉を言ったのよね」
「結婚したいってより……もう少し一緒にいたいと思ったんだ。セレンといると、癒されるし、楽しいし、話もあうし、無理しようとしなくていいんだ」
彼は、まるで告白のように真っ赤になりながら、私から視線を逸らす。
「でも、一緒に戦場にいくなら、一緒にここに帰って来れるよね」
ヴァルターの中で一件落着という感じだ。
ちょっと待って!今までの中でどんな距離感よりすも、一番ズレてるわ。
「あなたね、遠足に行くんじゃないのよ。分かってる?」
私の声が少しだけ震えた。
「戦争にいくのよ。あなたも、私も、死ぬ可能性があるの」
そう言うと、ふたりの間に静かな沈黙が落ちた。
ヴァルターの笑顔が固まり、そのまま悲しそうな表情になる。
「……そうか、そうだよね」
ヴァルターは俯いて、手を握りしめた。
「ヘルマンに言われたんだ。相手の気持ちは一旦おいて、自分が結婚したいのか考えろって。
俺はセレンと一緒に過ごしたいと思ったんだよ。でも、俺と結婚したら周りからもよく思われないし、俺の過去に巻き込まれるだろ。でも、嬉しいって思うのは間違いだよね」
「間違えてはないの」
私は静かに彼を見つめた。
「一緒にいられるってことが嬉しいまでは、間違えてないのよ。でも、結婚の方が普通は比重が高いんじゃないかしら?」
「なんで?」
ヴァルターは小首を傾げ、純粋そのものの目で私を見た。
「なんで!なんでって...」
「ヴァレンティアの騎士団で一緒に動くなら、間違いなく僕は君を信頼するよ。そして、重用したら君はヴァレンティアで居場所も出来るよ。俺と結婚しても、いいことの方が少ない。でも、戦争だから、確かに死ぬ可能性はあるよね。僕のそばなんだから」
そう言って、しょんぼりとしてしまう。
なんだか、大切に思われてるような思われてないような。
思わずため息が漏れた。
「ねえ、もし、私があなたと結婚したい、そしてさらに戦場でもあなたを守るって言ったらどうする?」
「……え?」
ヴァルターのぽかんとした顔に、目が見開かれ、一拍遅れたまばたきがある。口が半開きのまま固まっていた。
「……え??」
これは、そんな選択肢なんて思ってもなかった顔ね。
私は苦笑して立ち上がった。
「よーく考えておいてね。私はちょっとヘルマンさんと話をしてくるわ」
扉の前で振り返ると、ヴァルターはまだ椅子に座ったまま、ぽかんとこちらを見つめていた。
普通なら、馬鹿にしないで!と私は怒ってもおかしくないし、こういうところが彼が損するところなんだけど...
あんまりにも自分を飾ろうとしないし、私が髪を切ろうと剣を握ろうと気にせず、先入観なく、私をみてくれる良さでもあるのよね。
私は決めていた。
ヴァルターが望もうと望むまいと、私は彼の妻になると。
こんな人、他に奥さんが出来ても絶対にいい関係が築けないし、彼には味方が必要だわ。
私は、部屋を出て一呼吸する。
「さて、ヘルマンさんからどういうことか、話を聞こうかしら??」
私の頭の中の答えは合っているのか?
答え合わせに、ヘルマンのところに急ぐのだった。




