166 ずれた告白
「なんか……驚かないっていうか、すごく納得だわ」
セレンは、ヴァルターの出自の告白を聞き終えても、不思議と冷静だった。
今までの不可解な行動の数々が、ようやく一本の線でつながった気がしたのだ。
だが、ヴァルターは過去あったことが全て自分の責任だと背負い込もうとしている。自分を恥じ、自分と関わらない方がいいと思っている。
ヴァレンティアではあの時、父からこう伝えられていた。
「戦争が近づくなら、レオポルト王が首を差し出す。お前たちは逃げろ。俺も王と共にする」と。
あの時、父は本気だった。
オリヴィアンからの同盟を拒み、もし、ヴァルトシュタインから攻められた時は、ヴァレンティアは属国になる覚悟を決めていたのだ。
その裏には――母とオリヴィアンの王との、婚約破棄があった。
「私は、もう、傷ついておりません。どうか国のためになることをなさってください」
母は泣きながら、弟であるレオポルト王と前王である父に同盟を懇願していた。
だが、レオポルト王は静かに首を振った。
「私は、自分が信用できないと思っている人間とは、約束事はできないよ」
――結局、ヴァルトシュタインが攻めたのはオリヴィアンだった。
セレンは自嘲気味に笑った。
「あなたが、そんなに背負い込まなくていいと思うわ。それを言ったら、私はオリヴィアンを見捨てたヴァレンティアの王族、しかも原因になった姫の娘よ」
ヴァルターは、オロオロと視線を彷徨わせた。
どうやら、もっと冷たい目で責められると思っていたらしい。
今から思えばーー
ヘルマンから「せっかくだから二人で街を見てきたらどうだ」と勧められても、オリヴィアンでは王都への外出を嫌がっていた。
グリモワールの王城でも、どこか元気がなかった。
「もしかして、みんなあなたのせいで戦争が起きたと思ってるの?」
「いや……大多数なだけで、みんなじゃないよ」
慌てて訂正する声が、どこか苦しかった。
「でも、俺もそう思ってる。小さい頃、アルフレードに辛くあたったし、そのあと囲われても反発しなかった。結局、学ばなかった俺のせいで、戦争も起きたし、母やヴァルトシュタインの王妃も死んだ。みんな被害にあったんだ」
「何言ってるのよ。グリモワールのとき、あなたまだ十六歳だったじゃない。オリヴィアンのセバスティアン王がうちの母の婚約破棄を拒んだ時なんて、もっとずっと上の歳で、前王妃の言いなりで、断ったって話だったわよ。そんなものよ。それに、あの戦争では、十六歳のあなたは名前を“利用された”だけでしょ?」
セレンの胸の奥が熱くなった。
腹が立つというより、悔しくてたまらない。
――あの時、馬車の中でヴァルターが泣いていた理由が、ようやく分かったからだ。
「確かにヴァルターは頼りないし、決断力はないし、距離感もおかしいし、びびりよ! でもね、それでも戦争の理由をあなたに押し付けるなんておかしい! みんな、自分が王や大切な人を守れなかった罪悪感を、あなたに投げつけてるだけよ!」
セレンは勢いのまま、ヴァルターの両肩を掴んだ。
その手に込めた想いは、怒りでも非難でもなく――“味方”としての気持ちだった。
私にとってヴァルターは、もう家族みたいなものだ。
この距離、この触れ合いで、ようやくそれを伝えられる気がした。
だが、その手を、そっと取ったのはヴァルターの方だった。
「ごめん。これから本題に入ろうと思ってたのに、その言葉は……なんのフォローにもならないよ」
「本題? これがメインディッシュだと思うけど? まさかまだ、デザートになりそうな話が残ってるの?」
セレンは素で言っていた。
さりげなくヴァルターをディスっていることに、まったく気づいていない。
そんな様子を見て、ヴァルターもつい苦笑した。
「今後のことなんだけどね……」
「ああ、そうよね。ヘルマンは気を使ってくれたけど、二人ともいないなら、海軍にはいられないわよね」
やっと慣れてきたところだったのに。
胸が少し痛む。
でも――こんな話を聞かされて、ヴァルターは孤独すぎるわ。なんとかヴァルターのそばにいたい。何か方法はないだろうか。
そうだ!
「私、ヴァレンティアの騎士団に入り直して、あなたをそばで守るわ!」
「……こんな身の上でよければ、俺と結婚してもらえないかな」
二人の声が、まったく同時に重なった。
「えっ!!」
「へっ!!」
沈黙。
次の瞬間、互いに目を丸くして、言葉を失う。
何かがおかしい。
噛み合ってない。
お互い、呆然とーーでも時間が経つと、ここまでの噛み合わなさに思わず笑いそうになった。




