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【完結】政略婚の向こう側〜この二人どうなるの〜  作者: かんあずき


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163/191

163 罪を抱いた王子と、短髪の令嬢

セレンとヴァルターは、かつてのヴィオラとアルフレードのように同じ建物で生活するようになった。


ヘルマンが試しにヴァルターにヴァレンティア城で自然にやっていたエスコートをやらせると、やはり完璧。

それどころか宮廷舞踊なんて、美しく洗練されていて、素人でもわかるうまさだ。


ヘルマンも仕事上しなければならないので覚えているが、この優雅で品が良いのは血なのか?練習の成果なのか?間違いなくアルフレードより上だ。


「何でこれを普段やらない?」

「普段やったら浮くだろ?みんな一般人はあんな距離感じゃないだろ。好意ある人はむしろ触れてくる人が多いし、役に立たない」

「そんなことないだろう。あれをやられたら落ちるやつは多いさ。」


セレンも、同居し始めて、ヴァルターが普通ではないことに気づき始めていた。

まるで貴族の教科書みたいな面もあるかと思ったら、普通に付き合ってもない男女の距離感がカップルの密着のような近さだったりする。


「こうなったら、やれることをすべて出せ!!」


ヘルマンの指示で、分かったことは、まさかの剣は弱いが、弓はうまい。

芸術品の目利きができる。

しかも女性の嗜みの刺繍も得意。

また、オリヴィアンを含む4国以外の、遠く離れた他の外国語まで話せた。


「母上から教え込まれたから、エスコートやダンスは一通りできる。あと弓は痛くないから比較的好きな練習だっただけだ。馬は落馬したら痛いし、剣も痛いから嫌い」


それを聞いたヘルマンは脱力する。

オリヴィアンは山が少ないので、狩猟目的の弓が多い。

だから、目立たなかったがまさかそんな特技がーー


「何言ってるんだ!剣ができなくても、弓が得意ならそれでいい。戦争が続くから誤解されるが、王には、貴族とやりあえる社交性だって同じぐらい大事だぞ。」



アンジェリカの教育は女性視点だから、女性のような教養が多い。それに気づかなかったーー

ヘルマンは愕然とした。


ーー


「実は本当の親子じゃなくて、事情があって預かってるんだ」


ヘルマンからそう言われたセレンは驚いたが、毎日行く墓参りでは、ヴァルターは母親の墓だというし、ヘルマンは大切そうに花を供えているし...


(好きだった人の息子を育てているのかしらね。)


首を傾げる。


だが、先程のヘルマンとヴァルターのやりとりから、ヴァルターの出来ることは、まるで自分が受けた淑女教育みたいだと驚いた。


「刺繍、私よりうまいわ」

「そうかな?亡くなった母上に習ってた」

「ヘルマンが持っているハンカチよね。お母様、すごい方なのね」

「わからない。母上以外の刺繍みたことないし」

「男の人だからなかなか見る機会ないわよね。」

「うーん、誰か来ても俺は会うことがなかったから」

「そうなの?」

「そう」


人とほとんど会わない。男女の距離感がわからない。

これだけ出来る宮廷舞踊や社交マナーも披露したことがない。


「外は嫌いなの?」

「昔は出たくて仕方なかったけど、今は自由に出られるようになってあまり出たくなくなったかな」

「そうなの?」

「そう」


なんていうか、ヴァルターは、他の一般的な男性とは違う。

いや、ヘルマンも一般的な男性と違う。

セレンも髪を短くしてしまったり、海軍に入ろうとしたりして普通ではない女性だ。

しかし、提督の家ではカツラも被らなくていいと言われ気楽に過ごす。


「この家は居心地がいいわ。だから出たくない気持ちもわかるわ」


セレンが同意するとヴァルターも嬉しそうにする。

全く生きてきた環境は違うはずなのに、王家の堅苦しさや生活の細かな価値観の話も弾むし、剣の訓練の話も、ヴァルターはすごいと言ってくれる。


「普通は、女の人は剣なんて持たないのよ」

「でも、俺も針仕事が得意だから普通じゃないんだ」


噛み合わないようで噛み合う不思議さがヴァルターにはある。


「ねえ、ヴァルターのお母様って貴族なの?だとしたら、本当のお父様は貴族?」


そう聞いた時だけは、ヴァルターは悲しそうな顔をした。


「僕の家族は、ヘルマンだけだよ。本当の両親のことは、言えないし、言いたくないんだ」


しばらくの沈黙があった。傷つけたんだろうと感じる。


「分かった。誰にでも聞かれたくないことはあるよね。」


セレンは頷いて聴くのをやめた。

没落した貴族の息子かもしれないーー言いたくないことは聞いちゃダメだわ。

だが、セレンはヴァルターのことは嫌いではなかった。

ヴァルターは手を触れたり、抱きつくことが時々ある。


普通の距離感とは違うが、そこにいやらしさはみられない。

どちらかというと、喜んだ時に思わず手を握る、びっくりした時にだきつくといった家族の距離感のような気がしていた。



ーーー


一方でヴァルターは、恋愛感情とは異なりセレンに関心がとてもあった。


自分を利用しようとしたアンジェリカやクレアとも違う。兄嫁で王であるヴィオラとも違う。


こうしろと言ってくることもなく、触れたからと言って、勘違いしてより強い関係を求めてくることも、怒ることもない。

似たような子供時代を過ごしているから、会話も弾む。


なにより、ヘルマンと二人の会話にセレンが入るだけで、ほっとするぐらい明るくなる。


(それなのに、結婚できないだけで彼女の人生は壊れていくんだよな)


結婚だけでいいなら、自分にはそれが出来る身分はある。

でも、俺に関われば白い目で見られる過去までついてくる。


今の自分にとって、ヘルマンは誰よりも信頼できる。

だが、容赦なく拳は飛ぶし、怒鳴るし、俺に声をかけてくる女性たちを根こそぎ攫っていくし、俺が知ってるだけの現在の交際女性は両手では済まない。

そんな女性と付き合い香水はプンプンさせて帰るくせに、体を洗って母親の墓参りを毎日する。


「きっと母上は、その他、大勢の女のひとりじゃなくて、一人だけ大事にしてくれる人に愛されたかったタイプだと思うぞ」


そう言ったら、ヘルマンは悲しそうな顔をしたからもう言わない。

ただ、夫も兄も息子も母上のことを愛してはいない。

ヘルマンだけは、愛していることは伝わってくるが、その他大勢の一人として母上を愛してたんだろう。俺が母に抱えているのは、罪悪感だけだ。


クレア王妃の「王にしてあげる」という甘言の意味の重さがわからず言葉にして目の前で刺されてしまった。あれがなければ刺されてないし、クレア王妃も死ななかったのだ。

手を出したわけじゃないのに、俺の手は血塗られている。


ジュリアン王に対しては、恨みはあるが、あの狂気に満ちた目を見た時、俺にはこうはなれないし、敵討ちなんて無理だと感じた。

今でも恐怖に支配される。


だが、それなのに、恐怖があるのに、俺はもう死ぬことは怖くないという相反する気持ちがあった。

いやむしろ、死なせてほしいとすら思っている。


それなら、戦に出て、いけるところまでいって散ればいい。

ヴァルターは生きることに意義が見出せなかった












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