161 王の涙を、女王は抱きしめて
「俺……ヴァルターを傷つけちゃったんだ。だんだん王としての判断ばかりで、嫌な奴になってるって……」
グリモワールから突然夫ーーアルフレードが戻ってきて泣き始める。
「どうしたの??」
ヴァルトシュタインの王になってほしいとヘルマンとヴァルターに伝えた時の、二人の話を打ち明けるアルフレードを、ヴィオラはぎゅっと抱きしめてよしよし。
拳を震わせながら、心の中では
「ヴァルターをとっちめてやろうかしら」
と怒りがわいていた。
「アルフレードは、間違ってないと思うのよ」
「でも……俺はヴァルターの気持ちも考えられなくて。弟としてじゃなくて、国や自分に都合がいいことばかり考えてしまった……
ヴィオラは、アルフレードの頬を両手で挟みぷしゅっと圧力をかける。
流石のアルフレードも不細工顔になる。
「な、にゃにするの??」
「その自己犠牲的な発言を妻で女王の私は封じているのよ。もっともらしいことをヴァルターは言ってるけど、いつもの逃げなのよ。だって、王になってもいいよ、とか中身を考えてくれる人は選んで、とかアルフレードに罪悪感や責任を押し付けてる言葉よ。」
ヴィオラは手を離して、アルフレードの涙を拭いてやる。
「アルフレードだって、本当はグリモワールの王になる予定じゃなかったじゃないの。もっとわたしとイチャイチャしたり、子供たちと過ごしたいわよ!!考えなくていいなら、国のことなんて考えたくないわよ。アルフレードが悲しむことじゃないのよ」
ヴィオラは、爛れた目に唇をつけて、ぎゅっと抱きしめた。
「あなたが賢くて、何でもできるからって、みんな私のアルフレードを利用しすぎよ。」
アルフレードがべそべそ泣くのは落ち着いた。
「良かった。一人で悩まずよくここまで戻ってきてくれたわ。でも、私だってグリモワールの王妃なのに、二人が小さいから移動が出来ないってあなたに甘えてるのよ。
来年は、私もグリモワールにいくわ。セバスティアンもだいぶ大きくなったし、グリモワールで過ごす時間も増やさないとね」
今の予定では、セバスティアンがオリヴィアンを継いで、エドガーがグリモワールの予定だ。
「そこまでしなくて大丈夫だよ。ヴィオラがわかってくれただけでいいんだ。それに、ちょっと俺も冷静になったよ。ヴァルターは久しぶりに話したら、すごく冷静で、大人になってたんだけど...なんていうのかな、生きる希望みたいなものがなくて、むしろ死に場所を探しているような感じがしたんだ。俺がそこまで追い詰めたのかなって」
「あなたがここにきた時なんて、リアルにいつ死んでもおかしくない状態だったでしょう。人質だったのよ。あなたは、私のこと以外では何でも我慢しちゃうんだから」
「子供のことでも我慢しないよ。だって、俺の家族で、俺の宝物じゃないか。」
アルフレードは、本当に優しい夫で父親だ。
でも、時折愛情に不安を感じると不安定になる。
今回は、弟との関係で不安定なのだろう。
フェリックス王とアンジェリカ王妃の罪は重い。
二人とも息子たちは、心に闇を抱えている。
アルフレードは、自分が持てなかった理想の家族を目指しているのに、グリモワールにいなければならない、
しかも、冬になるとオリヴィアンは雪に閉ざされるから、完全に会えなくなる状態になるのだ。
「ヴァルターは、セレン嬢のこととは別に、過去のことで誰に対しての結婚も諦めてしまってるみたいだった。相手が不幸になるって。
でも、グリモワールで、家督争いで傀儡にされないために廃嫡扱いにしたのに、結局、傀儡になって、レオポルト王に指示してもらいながら、ヴァルトシュタインの王になれなんて、俺も勝手なことを言ったとは思う。」
「廃嫡を取り消してもいいけど……あの戦で傷ついた人たちのことを思うと、簡単には動けないのよね」
今、実質動ける年齢で、ヴァルトシュタインの王位継承はヴィオラかアルフレードかヴァルターだ。
「でも、やっぱりヴァルターの力は必要よ。冬になるとオリヴィアンからヴァルトシュタインに抜けられないのよ。冬のヴァルトシュタインに王が不在になるわ。」
「話し合いをするしかないわね。アルフレードが反省するとしたら、頑張って一人で考えたことね。私たち三人で考えましょう。誰かが考えるじゃなくて、俺は考えられないではなくて継承権を持った私たちがみんなで考えないとね。」
アルフレードは、こくんと頷く。
「さて、アルフレード?久しぶりだから、私からの出陣を受け入れてくれるかしら?」
「いいの?」
「だって、誰が王になるか?もだけど、ヴァルターが結婚する気がないなら、もう一人いてもいいわよね。」
「そりゃ、何人いてもいいさ。」
すでに、アルフレードは嬉しそうだ。
だが、珍しく今回押し倒されたのはヴィオラだ。
「まだ、出陣してないわよ?」
「先に反撃したいんだけどダメ?」
「ダメじゃないわ、大歓迎よ」
二人は笑って唇を重ね始める。
久しぶりにあって顔を見て、抱きしめ合うだけでこんなに心が癒されるなんて...
吐息が重なり、出陣と反撃を繰り返す。
ただ確かめ合うように、二人の夜は静かに更けていった。




