159 帰り道の馬車で
グリモワールの王城から、ヴァレンティアの王城まで、落ち着いたら外装でクッションの良い馬車がヘルマン、ヴァルター、セレンを乗せて走る。
グリモワールの王城を離れると、ヴァルターの表情がほっとしたような寂しそうな顔になるのを目にしながらも、ヘルマンは無表情を装う。
ーーー
「やっぱり馬車が一番だ!」
「そうか?馬なら早く帰れるのに」
「早く帰って、何が待ってるんだよ。俺は仕事はしたくないんだ」
「ヴァルトシュタインに行ってきた報告を墓にするに決まってるじゃないか。」
「俺が母上の代わりに答えてやるよ。勝手に行ったんだから、いちいち報告なんて聞きたくもないわよ。ここにいないんだから死んでないんでしょっ!て言ってるな」
「そっくりな顔で言われると、本当に言われているようで傷つくだろ」
そんなヴァルターとヘルマンの二人のやりとりを、ぼんやりと眺めるのはセレンだ。
そのセレンは、侍女アンナの手で、ヴァレンティア城にいくのだなという美しい身なりになって、エスコートするヴァルターの顔も赤くなっていたのだが...
(そこで、なぜ、綺麗だとか、口説き文句をいれない)
イライラして思わず、セレンをヘルマンが褒めまくる始末だった。
ヴァルターは頷くのみ。
鍛え直しだなーーーヘルマンは心に誓う。
だが、ヴァレンティアに近づくにつれて、だんだん元気がなくなっている。普段にはなく着飾って、ふつうの女性なら喜びそうなものなのに、むしろ曇っていく表情を強調してしまう。
ヴァルターとヘルマンは顔を見合わせ、心配そうに言った。
「ヴァレンティアに戻りたくないなら、なんか方法はないかヴィオラ女王に相談してみようか?ヴィオラ女王は今でも剣を振り回しているから、君が肩身の狭い思いはしなくてすむよ」
「俺のところに嫁に来い。3人で一緒に暮らそう」
「だから、ヘルマンの年齢考えろって!!」
わいわい騒ぐ二人に、セレンは涙ぐむ。
「ありがとう。二人とも。大丈夫、私、良い思い出になったわ。最後に大きな仕事をさせてもらって、踏ん切りがついたの。海軍やめてきちんと縁談を受けるわ。」
「でも、それ嫌だったんだろ!」
ヴァルターからしたら、自分よりも動けて剣も強い人間が、女性で未婚というだけで周りから白い目で見られなければならないことが衝撃だった。
「君がダメなら、俺はダメ以下じゃないか。なあ、ヘルマン、なんか手を考えてくれよ。」
ヴァルターは情けない声を出す。
「だから、そこはお前が考えて、どう思うか?って聞くところだろう。ヴィオラ女王とアルフレード王とレオポルト王は、色々考えた結論だったんだろう。俺もみんなと一緒に提案はしたぞ。お前がそれ以外を望んだ。それだけだ」
セレンが首を傾げる。
「何のこと?」
「王たちが君と僕が結婚したらどうかと思ってるらしいんだけど、君は王族の良い血筋だろう。俺みたいなのと一緒にしたらダメだって言ったんだよ」
「えっ!!」
セレンが目を丸くする。
「でも、提督の息子さんなら勧める理由もわかるわ。だってうちの父も騎士団長ですもの。」
いや、父は元グリモワールの王様です。しかも、アルフレード王とエドガー王を殺そうとしましたとはいえない。
「と、とにかく、君みたいな素晴らしい人には、ふさわしい人がいるって言いたかったんだ」
ヴァルターが力説すると、セレンは目に涙をためてしまった。
「みんなからよく社交界で言われる常套句なのよ。あなたみたいな強い方にはもっと強い方が現れるでしょうなとか、王の血族なのだから、いつでもよい縁談がおありでしょうにって。」
ヴァルターはヘルマンに目で助けを求める。
ヘルマンはやれやれとため息をつく。
「セレン、許してやってくれ。社交界では嫌味や社交辞令だらけかもしれないが、ヴァルターの良さはそれができないところだ。本当に君には良い人がいるはずだといいたいんだよ。数日過ごしたから、こいつのことはわかるだろ」
「おい、それはフォローかよ!」
ヴァルターは慌ててヘルマンに詰め寄るが、セレンは、少し動きを止めて思案する。
「そうね、ヴァルターだったわね」
セレンのくすくす笑い始める姿にヴァルターはほっとする。
「とにかく、努力している自分を卑下しなかったっていいじゃないか。俺は事情があって君との縁談は難しいけど、でももし、そうじゃなかったら喜んで受けると思う。」
「それはお前にも言える事だ」
ヘルマンが、ふうーっと、ヴァルターの肩を叩き、優しい目でみる。
「お前の努力を笑う奴がいたら、俺がぶん殴って歩いてやる。なにも自分の努力を卑下しなくてもいい。」
それを聞いたヴァルターは、ヘルマンの手が肩に置かれた瞬間、胸の奥がぐっと熱くなる。
堪えようとしても、こみ上げる涙は止まらなかった。
「な、なに?なんかよくわからないんだけど、なんで泣いてるの?大丈夫よ。何がわからないけど、きっとヴァルターも大丈夫よ!」
今度慌てるのはセレンだ。
大丈夫だよと答え、ヘルマンは笑いながら考える。
普通に、血のことなど深く考えなければ、意外といい組み合わせなんだがな...ヴァルターからしたら、生涯俺みたいに自由な独身の方が気楽なのかもしれないが。
「セレン、ヴァルター、二人とも普通に友達として仲良く交流してみないか?お前たちが良いカップルになるかは知らないが、良い友人にはなれると思うぞ。で、うちの海軍の炊事の仕事を頼めないかな?身分の高い人にさせることじゃないけど、うちのやつらにはヴァルターの女だって言っておけば女性が心配する危険なこともないだろうし」
ヘルマンの提案に、ヴァルターとセレンはそれならと頷く。
「じゃあ、それでいこう」
ヘルマンは思う。
外堀は埋めた。
船の奴らに二人は出来てるって伝えれば、それはもう本当に出来ているという既成事実。
二人で仲良く普通に街を歩けば、外部の人間はカップルが仲良くデートしているとしか思わない。
男女が意識せず、ふと、俺たちって仲良しじゃないかと気づいた時には、それはカップル成立だ!!
俺、すごくないか?
よし、アンジェリカの墓参りでは、これも報告しよう。
ヘルマンはニンマリほくそ笑んだ。




