157 継ぐ者たちと、守る者たち
「大変だったな。そこまでおかしくなってるとは思ってもなかった」
アルフレードは、驚いたように呟いた。
「船に乗って帰った時に狙われたらひとたまりもないし、海軍も力が落ちてるんだろうな。商船が海賊に狙われることも頻繁なようだ。さすがに危険に感じて山を選んだよ」
ヘルマンもため息をつく。
3人は報告も兼ねてまず、グリモワールに立ち寄った。
グリモワールの王城にアルフレードを尋ねる。
ヴァルターは久しぶりの王城で肩を落としてトボトボ廊下を歩いている。王城の使用人の視線が気になるのだ。
王城はヴァルトシュタインが侵略した時に離れたのが最後だから相当久しぶりとなる。
侍女の視線は、嫌な物を見るような顔のものと、アルフレードに似た甘いマスクと凛々しく変わった表情に関心をよせているものと2パターンか。
侍従たちはみんな冷たい目でみている。
ヘルマンは、流石にヴァルターが可哀想になり、早く報告を済ませたらヴァレンティアに行こうと感じる。
一方でセレン嬢は、グリモワールの王城の大きさや室内の洗練された空間に、キョロキョロ視線を彷徨わせ、驚いている。
髪のことがあり、ヘルマンは顔見知りの侍女頭アンナに、軽く事情を説明しておいた。私が対応すると頷かれたから、きっと良いようにしてくれるだろう。
その二人だが、交際を提案してみてもぼかんとしていて、お互い脈は...どうだろうな?
ただ、ヴァルターは彼女の幸せを祈っている感じだったが?
「二人はどうだった?」
アルフレードは、ヴァルターとセレンの様子を聞いた。
「どうって?セレン嬢の剣の練習は少し見たがヴィオラ女王ほどではないが、強いぶるいだと思う。だが、海で使えるかと言われると、どこで使う?って感じだな。
ヴァルターは良くも悪くも変わらない。ヴァルトシュタインで震えて動けないかと思ったが、通常運転のように文句を言いながら動いてるよ。それはそれですごいことだ」
といいつつ、五年であれだけ変わればかなり良いと感じていた。酒に溺れるわけでもないし、もてて、女性との距離感をいつも間違うのに、意外にもトラブルもない。
あのマスクで、交際を申し込まれることも多々あって、本人も女性に関心があっても、深い付き合いはしない。自分の血の重さがわかってきたようである。
「ヘルマン、分かって言ってるだろう。二人は恋仲になりそうか聞いてるんだ」
アルフレードは、こそっと前のめりで小声になる。
「セレン嬢のことは、レオポルト王にも頼まれたんだよ。セレンの母君は、オリヴィアンの政略結婚の破棄で苦しんだだろう。だから、自然な恋愛を望んで見合いや縁組を結ぼうとしない。一方で父親は、騎士団長だから娘には強くなって欲しくて剣を鍛えてしまう」
「ヴァルターは剣は人並みだぞ。婿としてどうなんだ?」
「婿入りじゃない。今回は嫁入りだ。かなりセレンは、ヴァレンティアの貴族の世界でも、海軍でも浮いているらしいし、騎士団は父親のコネで入ったと言われるから所属しにくいらしい。」
「二人が結婚したらオリヴィアンで過ごせるからか」
ヘルマンはため息をつく。
「それなんだが、もしヴァルトシュタインを手中に納めたら、一時的にでも、ヴァルターに継いでもらいたいんだ。そして、ヘルマンにはヴァルトシュタインの海軍提督になってもらいたい」
「いや、それはさすがに」
自分のこともヴァルターのことも両方無理だと話す。
「さすがに俺もグリモワールとオリヴィアンの行き来でもヴィオラや子供と会うのが大変なんだ。子供達も継承権はあるけど、まだ小さすぎる。ヴァルトシュタインを継げるのが、あとはヴァルターだけなんだよ。」
アルフレードが悲鳴を上げる。
アルフレードの優先順位一位は妻で、二位が子供、三位がやっと国になる。
「俺がいないとヴィオラは頑張りすぎちゃうんだから。グリモワールは祖父上が補佐してくれるが、あと何年元気で手伝ってもらえるかはわからないからね」
ヴァルターは廃嫡されているので、グリモワールの継承は無理だった。
「王という性格じゃないのは、アンジェリカの苦労を見ても
今までのエドガー様の反応をみてもわかるだろう。」
「レオポルト王が息子に代替わりするんだよ。だから、ヴァルトシュタインの今後の方向性や手助けはしてくれそうなんだ。だけど、王だけは、王家の血筋がいるんだ。それに、母上もエドガー王も強権的だからには合わなかっただろうが、レオポルト王は違うからヴァルターにはいいと思うんだよ」
「要は傀儡みたいなもんだろ。俺はあいつが幸せな人生を送れるように預かってるんだ。いるって言ったり、いらないっていったりお前もそれで傷ついただろう。あの世でアンジェリカを怒鳴ってやろうと思ってるのに、俺が怒鳴られるじゃないか。しかも、なんで俺がヴァルトシュタインの提督?」
「さすがに、ジュリアンに仕えていたものをそのままトップには置けないよ。これから起こる戦争でどんな被害が起きるかはわからないからね」
「それこそ、ヴァレンティアの提督を頼れ。アルフレード、俺はお前と同じくらいヴァルターを大切に思っている。だから、お前の気持ちはわかるが、ヴァルターを不幸にすると分かっている選択はさせられないよ。俺ができるのはセレン嬢とうまくいくかどうかだけだよ」
アルフレードもきまりの悪そうな顔をする。
「ヘルマンにそう怒られたら、俺も何も言えないか。もう一度ヴィオラと相談してみるよ。」
アルフレードはヴィオラと過ごす時間が減ることで、明らかに落ち込んでいた。




