156 教会の懺悔と山越えの騒動
活動し始める鉱夫の動きにまみれて、早朝宿屋をあとにして、北部に移動していく。
だが、再び兵の数が増えていく。
そして、身なりが汚れた国民を、街のはずれのあちこちで目にする。
「この先は、国境方向か?」
ヘルマンは、駅で馬を返して北部の街の教会を目指す。
「教会?」
「ああ、ちょっと祈りを捧げてみようじゃないか」
北部の街は、中部より更に小さい。
鉱夫もいない。
教会も小さかったが、祈りを捧げているものは多い。
「これは...」
ヴァルターが眉を顰めるのも無理はない。
これから国境を抜けようとするものたちが神に祈っている。
「お三方は?」
神官らしき人に声をかけられ、ヘルマンは悲しそうに伝える。
「商会を営んでここまできましたが、思ったような売れ行きにはならず、引き返そうと思っているところですが。」
「そうでしたか。これからどちらの国へ?」
「いや、もうしばらくこの国でお役に立ちたいと思い、神に祈りを捧げにきたのです」
「なるほど。神が引き合わせてくださると思いますので祈りを捧げましょう」
「はい」
セレンは、祈っているふりをしながら、教会の中の人を確認する。大体10人は神官がいる。
(多すぎない??)
同様に他の神官も、祈りに来た人たちに同じような問いかけをしている。
ヴァルターも、神官と他の人がどんな会話をしているのか耳にする。
「生活がもうできない...」
「他の国に旅立つことを神に許してもらおうと思う」
「お腹が空いてしまって...」
「仕事がないんです」
そんな悩みのために来たと告げると、部屋の片隅にある木製の懺悔室に案内される。
だが...
(純粋に神にお仕えする神官なのかどうだか...)
なぜなら、神官に懺悔室を勧められたものたちは、戻ってこない。
ゾッとする。
5分に一人のペースで入っていくのに、出てこない。
(ここで他国に逃げる奴を捕まえているんだな)
人生を賭けて国越えする前に神に祈りを捧げるのは良くあることだ。自分の生まれ故郷を捨てる判断をしたことを懺悔するものもいるだろう。
ヘルマンを見て、そっと三人は教会を後にする。
「もう十分だな。王都に戻りたくないから、山越えするぞ。セレンは、男の格好で頑張れるな?」
セレンは頷いた。
ーーー
「酷い目にあった!!山岳民族が襲ってくるなんて聞いてないぞ!」
ヴァルターは、グリモワールについて安全が確認できてほっとした。だが同時に怒りも湧く。
「心の準備ってあるだろ!なんで、突然切り捨てられそうになるところからがスタートなんだよ。しかも、セレンはヴァレンティアの王族関係者だぞ!
「アルフレードに許可証をもらって行っても良かったが、ヴァルトシュタインでガサ入れでもあったら一発アウトだからな。」
ヘルマンも疲れた顔は隠せない。
「二人はいいよ。剣が強いから。だけど、俺は弱いんだよ」
ヴァルターが叫ぶ。
「でも、逃げ足が一番早いから上手く攻撃を避けてたじゃないですか。」
セレンは残念なほどに、慰めにならない慰めをかける。
「しかも、虫がたくさんいるし、噛まれるし。」
ヴァルターの白い肌には、虫刺されの跡が残っている。ら
そして、恨み節をぶつけても、ヘルマンはどこ吹く風。
「いつも二人はこんな喧嘩を?」
セレンはおかしくなって聞いてみる。
「いつもだよ。今回、ほんとにセレンがいてくれて良かったよ。もう、ずっといてほしいよ。ほんとに!」
ヴァルターはヘルマンを睨む。
「そうか、じゃあ、セレン!俺かヴァルターと結婚したらいい。煩わしいヴァレンティアの視線もカット、こんな日々はどうだい?」
ヘルマンは、再びセレンの肩に手を回そうとして、そのままその手を腰の方に...の前にヴァルターが引き剥がして間に入る。
「ヘルマンはおかしいだろ!どうみても親子だ!するなら俺だろ!!」
「そうか、じゃあ二人で結婚前提で交際してみたらいい。」
「へ??」
「え??」
二人はこのおっさん何言ってる?と顔を見合わせた。




