152 ヴァルトシュタイン潜入指令
ヘルマンとヴァルターは、ヴァルトシュタインに潜伏していた。
そして、そこには、まさかのヴァレンティアの王の姪、つまり婚約破棄されたシャーロット姫の娘と一緒に潜入。娘の名前はセレンという。
あれから五年の時が経ち、三国とヴァルトシュタインには大きな経済格差が生まれ、三国に亡命を希望するものが絶えない。
「アルフレード王、もう私は我慢の限界だよ!!」
レオポルト王は眉間にこれ以上ない皺を寄せる。
アルフレードがグリモワールの王に即位すると同時に、ヴァルトシュタインをなんとかしようと提案してきたのは、まさかのヴァレンティアのレオポルト王だった。
すっかり国同士の行き来も気楽になり、レオポルトの一家とヴィオラとアルフレードの一家は庶民のように交流を繰り返していた。
「自国の国民の生活を維持するだけでも精一杯なのに、うちは食料事情がいいからって亡命者が後をたたない」
「オリヴィアンもです。グリモワールも山越えしてくるものがいますが、山岳民族が守ってくれてます。オリヴィアン経由でグリモワール北部にに渡りたがります。」
「ジュリアン王は、なにやってるんだ?さすがに冬に亡命者の衣食住までは確保するのは大変だよ」
オリヴィアンもヴァレンティアも冬は城門を閉じるし、海は荒れるのであまり出ない。
だから、国民の春までの備蓄を蓄えないといけないのに、三国の中ではヴァレンティアが一番亡命希望者が多くて困っていた。
「とりあえず状況を確認させましょうか?」
アルフレードの顔も曇る。
で、冒頭に戻り選ばれたのがこの三人ーー
「俺?俺ジュリアンに会ったら殺されるよ」
ヴァルターが悲鳴を上げる。
「だから、ジュリアンにあったら殺しそうなヘルマンと一緒に行けばいいじゃないの。海からしか自然な潜伏ができないんだから」
「ヘルマンかよ。あいつ、外出たら俺の女をみんな根こそぎ奪っていくから嫌なんだよ。船は男ばかりでむさ苦しいしさ」
「ヘルマンのたらしぶりは、筋金ですもの。足掻かず、素直に差し出した方がいいわ。」
ヴィオラは、ぶちぶち文句をいうヴァルターにヴァルトシュタイン行きを厳命した。
すでにヴァルトシュタインの貴族から、オリヴィアンに亡命打診がきていたので、こちらもそのツテから潜伏の場所や身分の協力はもらっていた。
ヘルマンは、今でも君主とアン夫人を殺したジュリアンに一矢報いるチャンスはないかと思っているのは知っている。
役割があるなら喜んでいくだろう。
どんなに女の人と過ごしても、オリヴィアンにいる時は毎日のように、ヴァルターと一緒にアン夫人のお墓に行く。
「こいつが、今日も無事に過ごした報告をしてるだけだ」
とヘルマンはいってるけどヴァルターですら気づいている。
「母上が好きってストライクゾーン広すぎだろ。ヘルマン、マゾ気質あるんじゃないか?」
と呆れていた。
だが、普段のヘルマンとは異なり、アンジェリカに対しては、愛も囁くことも、触れ合いもなかったと聞き、ただ唯一与えられた刺繍のハンカチを毎日大切に持ち歩く様子に、本当の愛ってこういうものかもなーーと感じていた。
そんなヴァルターは、「ヴァルトシュタイン行きなんて、絶対ヘルマンは乗り気じゃん」と肩を落とす。
「ヴァルター!!」
「ヴァルター!!遊ぼう!」
セバスティアン六歳と更に生まれた第二王子のエドガー四歳が走ってくる。第二王子はグリモワールのエドガー王から名前をもらった。
だから、エドガーの可愛がり方も半端ではない。
王を退き、二人の教育係としてオリヴィアンまでよく遊びに来る。ついでに、ヴァルターにも教育して帰っていくのである。よってこの二人からするとヴァルターはご学友である。
「遊んでもいいけどさ、俺、姫と遊びたいよぉー!」
「どこの姫と遊ぶのよ。うちは二人とも王子です」
ヴィオラは呆れ顔で、そばにあった紅茶を飲み干した。
最初の頃のヴァルターはヴィオラにまで手を伸ばそうとするので、アンジェリカ方式で、手を払い足を踏みつけていたが、アルフレードに見つかり半殺しの刑にあってからは半径2メートル以内に近づいて来ない。
「あ、でも姫か...今回はむさ苦しくはないかもよ。」
ヴィオラは、ふふっと思い出し、ヴァルターに微笑む。
ヴァレンティアのセレン嬢は、騎士団長の父の影響を受け、かつてのヴィオラのように、剣を振り回していた。
だが、適齢期にもなっても、そんな女性を良いと思ってくれる男性はいなかった。
行き遅れの烙印を押されて、王都で過ごすことが嫌になったため、海外に行くことがある海軍に今は所属していると聞いていた。
だが、海軍に所属したものの、陸以上に男性社会で、女性が海の力仕事なども出来るわけがなく、かと言って王族に連なるので邪険にもできない。
海軍のお荷物になっていることを自覚したセレン嬢が、役に立ちたいと王に希望してきたのだという。
「海軍で、自分の役割を見失ってしまったみたいね。私は姫だったから許されたけど、普通の令嬢となると難しいわよね」
「行き遅れだろうと、お荷物だろうとヘルマンと二人よりよっぽどいい!」
「そうね、ヴァレンティア王の姪なのだから間違えてもヘルマンが手を出さないように見張ってちょうだい」
ヴィオラもなんだかんだ言ってこの二人なら、一生懸命やっている女性に対して嘲りや役立たずと言った傷つける言葉や態度をだす人間ではないことを知っていた。
それに、グリモワールを廃嫡になったものの、ヴァルターの血筋は王家のものだ。
「何かの間違いで恋仲になっても、問題はないわね」
ヴィオラはふふっと呟いた。




