151 三国同盟の誓い
三国同盟に向けた話し合いが、ついに始まった。
エドガー王はすでにレオポルト王と何度も書面でやり取りを済ませている。
三国同盟自体は前向きに検討してくれている。だが、連邦制の話はすぐに受け入れてもらえそうにないということだ。
それは、当然のことだとアルフレードも思った。
「正直、三国同盟は前向きだ。ただ、我が国は過去にオリヴィアン国と遺恨があって、長く国交を断絶していたんだよ」
会談初っ端からそう告げたレオポルト王に、アルフレードは冷静に受け止めているように装った。
(最初からかよ!)
そう思ったが、その王の言葉に込められているのは、怒りか、拒絶か、それとも悲しみか――。
「正直申し上げて、私もヴィオラ女王も、前王セバスティアンからは何も聞かされていませんでした。グリモワールのエドガー王から事情を聞き、驚いたところです。特にヴィオラ女王は、自身の両親がそのような失礼な行為を行っていたことを知り、深い悲しみに暮れております」
ヴィオラは関係ないことを強調しよう。
彼女はこの場に来て、罵倒されても構わないくらいの覚悟だったのだから――。
レオポルト王はそれを聞き手を振って否定する。
「いやいや、少なくとも、私はヴィオラ女王には何も不快な気持ちは持っていないよ。ただ、セバスティアン王を私が信頼できるかと聞かれれば答えはノーだった。だから同盟の話は断ったんだ。
あの時は国民全体の命がかかっていた。その時に信じられる人間以外との約束は難しかったんだ」
(やっぱり、セバスティアン王に対しての信頼問題か...
それは侵略されなかったから良かったようなものの、危険な判断だな?)
アルフレードは頷いて質問してみた。
「もし、あの時、ヴァルトシュタインが攻めてきたら、どうするつもりだったのですか?」
レオポルト王は、意外にも穏やかに微笑んで答える。
「その場にならなければわからない。しかし、セバスティアン王と同じように首を差し出すか、全面降伏を選ぶしかなかっただろう。国民の生活と財産を守ることが、私の仕事だからね」
ローランは渋い顔をする。
確かに、グリモワール南部では生活や行き場を失った人々が多い。
エドガー王もフェリックス王も、そして内戦状態にあるジュリアン王も――レオポルトからすれば愚王なのだ。
それをさらっと使者に伝えられるのは、やはり王なのだろう。
そして、信頼できないセバスティアン王と同盟を結んで国民が危ない目にあうぐらいなら、自分の命を差し出すつもりだったんだ
王の覚悟に身震いする。
「私は自分の判断で同盟を結ばなかったことを後悔してはいない。しかし、その判断でセバスティアン王や王妃が亡くなった可能性はある。君たちが私の判断を許せるかどうかは気になっている」
レオポルトはアルフレードから目を離さず、反応をじっと見ている。
アルフレードとヴィオラは夫婦だ。
その二人がいつ結託して、グリモワールとオリヴィアンの二国がヴァレンティアを外すかわからないと告げられているのだ。
自分がどう答えるのか、誤魔化すのか、否定するのか、何かを差し出すのか――全て見定めているのだ。
「オリヴィアンが信頼を失ったことは承知しています。ヴィオラ女王も私も、今後両国の交流を繰り返し、時間をかけて信頼を回復しなければなりません。そのうえで、ヴァレンティアが他国に攻められたとき、グリモワールとオリヴィアンが共に守る――そういう内容であれば、いかがでしょうか?」
アルフレードは自分の出来る誠意を示し、関係改善を図ることが最善だと考えた。
相手は、自分が信頼できるかどうかを見ているのだから。
「一緒にヴァルトシュタインを攻撃してくれ、とは言わないのかい?」
レオポルトが少し意地悪そうに尋ねる。アルフレードは頷いた。
「ジュリアン王は、この侵略を繰り返しているうちに国内から自滅していくでしょう。いつか戦う相手ですが、ヴァルトシュタイン国内で新たな王を望む声が上がらない限り、こちらから侵略や攻撃は考えていません」
しばしの間があった。
レオポルト王は肩をすくめる。
「意外だな。エドガー王の孫で、ジュリアン王の甥だと聞いていたからね。どんな交流を望む?」
ちらりとローランの顔を見て、レオポルトが呟く。
「エドガー王とは違うね?」
ローランは苦笑いする。
どうやらこれが決め手らしい。
レオポルトは意地悪そうな表情から、面白そうにこちらを見る様子に変わった。
少しからかわれているようだ。
「ヴァレンティアには素敵な文化があります。これを求める人はグリモワールやオリヴィアンにも多いでしょう。さらにヴァレンティアの乳製品も魅力的です。
私たちは、三国間で交易を復活させ、国民同士が自由に行き来し、生活を豊かにできる交流を望みます」
レオポルトはクスッと笑った。
「あまり君を困らせると、エドガー王に反撃されそうだな。満点解答だ。ぜひヴィオラ女王にもお会いしたい。私もグリモワールとオリヴィアンを見てみたいよ」
「ヴィオラ女王も、オリヴィアンの国民も歓迎すると思います」
アルフレードがそう話すと笑顔で頷く。
「三国の国民の生活を豊かにするため、国を自由に行き来させ、国民の心の壁を取り払えるなら、いずれ一つの国を目指す連邦制に向かうことも可能だ。
お互いの国を守り合うことで合意しよう。ヴァレンティアだけが動かなければ、結局グリモワールとオリヴィアンの国民からの不満で同盟が解消されかねないからね」
アルフレードもローランも頷いた。
まもなく、グリモワール、オリヴィアン、ヴァレンティアの三国同盟は結ばれた。
他国から攻撃を受けた際、三国は互いに守り合う。
国民は国境を自由に行き来でき、文化や資源の交易によって生活を豊かにする――これが基本の約束だった。
この同盟により、ヴァルトシュタインは大国でありながらも、三国を侵略することが難しい国となった。
その後、内戦は半年ほど続いたが、最終的にジュリアン王が勝利。クレア王妃やその一族は処刑された。
だが、戦争の爪痕は大きく、経済も社会も混乱したまま。国民主導の暴動があちこちで起きはじめるのだった。




