148 王の務め、夫の願い
「同盟の話し合いなんだけどね...」
ヴィオラは、アルフレードに執務室で声をかけた。
アルフレードは困ったように、ヴィオラを見つめる。
家の中に職場があるような状態だ。
放置したら、いつまでも仕事をしてしまう。
「ヴィオラ、今日はもう部屋に戻ってご飯を食べて寝よう。同盟の話し合いは俺が参加するよ。グリモワールの次期王だし、オリヴィアンの王配でもあるし、連邦制になるなら、その時は王として立ちたいと思っているから」
アルフレードは、ヴィオラがセバスティアン王とリリス王妃が亡くなった悲しみから立ち直れず、仕事をすることで、早く忘れようとしているように見えた。
だから、少しでも休ませようと日々攻防である。
そういう自身も、セバスティアン王、リリス王妃、アンジェリカがされた仕打ちを見て、初めて王になりたいと強い決意を固めていた。
ジュリアン王のような人がこの大陸を支配したら、不幸な人が増える一方だと思うようになったことがきっかけだ。
みんなの理不尽な死は、二人の考えや生活を変えてしまっていた。
「それ、、アルフレードだけではなくて私も参加できないかしら?」
「ただでさえ、仕事量が多いでしょ。国同士の合意のようなものは、王はすでに決定事項を署名をするぐらいが仕事だよ」
「ヴァレンティアときちんとこれからは会話をしたいの。お父様から婚約破棄の話は聞いたことがなかったの。お母様は知っていたのかどうかわからない。だけど、お父様は、ヴァレンティアからの信頼を失ってしまったのよね。きちんと、話をするって大事なんじゃないかしら?」
アルフレードは、ため息をついた。
少しでも負担を減らしたいと思っているのに、自ら仕事を増やしてしまう。
自分も仕事を増やしているが、ヴィオラが抱えている責任を思えば俺の仕事は小さい。
「ヴィオラ、まずは相手の真意を聞いてくるよ。オリヴィアンからの同盟を断ってきた段階で、オリヴィアンからの提案の三国同盟を選ぶぐらいならヴァルトシュタインに飲み込まれた方がいいと思うほどの気持ちがあるだろう。でも今回、グリモワールから提案の三国同盟なら考えてもらえるというのには何か理由があると思うんだ。」
と言っても聞かなくても大体はわかっている。
私怨もあるだろうが、オリヴィアン...というよりセバスティアン王を信用できないと思ったからだろう。
その娘は別と考えるのか、その娘を見て拒否感を強くするのかわからない。
まずは王配の自分がクッションになる方がいい。
そして、自分が信頼してもらえたら、その上でヴィオラだろう。
しょんぼりしているヴィオラの机を片付けて、侍女に声をかけて食事を準備してもらう
だが、そのダイニングルームも、かつていた人たちがいない。いつも、ドアを開けたら一番奥にセバスティアン王が、その横にリリス王妃がいた。
こじんまりとした部屋で、王家なのにヴィオラとアルフレードが入ると給餌をする人が通るスペースがあるかどうかのような部屋なのに、二人になるとポツンと置かれたような気持ちになる。
リリス王妃がいかに家庭的で温かい空気を作り出そうと努力していたのかがわかるのだ。
「お母様も、お父様にはみんなで食事をする時間だけは作ってねってよく言ってたわ。いつもここで顔をあわせていたからあまり意識はしなかったけど、お父様も働き詰めだったのよね。」
「リリス王妃はいつも、王の体調を気遣っていたからね。俺は今リリス王妃と同じ立場だから、やっぱりヴィオラの体調を気にしてしまうな。」
「そうね。気をつけるわ」
「あと、セバスティアンを1才になったら連れて帰ろうと思う。そろそろ外の世界を認識させ始める頃だし、ガラス張りの部屋っていうのも限界があるだろう」
アンジェリカも、エドガーも病に過敏だけど、いつまでも一つのところに閉じ込めることはできない。
もう少ししたら、自力でどこまでも歩いて行こうとする歳だ。
「ヴィオラ以来、赤ちゃんを育てる体制になってないから、乳母や育児経験のある侍女が欲しいし、男の子だから侍従も探していきたいんだ。だから、君が時間を作る習慣を作ってくれないと、セバスティアンにも寂しい思いをさせてしまうよ。王の仕事も育児もみんなで分担できても、母は一人だからね。」
「そうね」
ヴィオラはやっと、明るい表情を見せる。
この寂しくなったダイニングルームも、セバスティアンの賑やかな声が響けばまた雰囲気が明るくなるかもしれない。
「あと...君が落ち着いたらだけど。次の子も考えないか?」
アルフレードが、赤くなる。
仕事に追われて、考える時間をなくそうとしていた。
帰ったら、そのまま倒れ込む生活が続いている。
「そ、そういえば...最近そういう雰囲気じゃないわよね」
最近どころか...
初夜の儀で、もはや逃げ場がない状態になったアルフレード。
二度目の夜は、アンナの策略で再び逃げ場がなくなったアルフレード。
三度目は...ああ、私が食欲を優先したわ。
あれ??
いくらなんでも私たち夫婦関係破綻してない?
アルフレードは真っ赤になる。
「だって、オリヴィアン奪還までは、子供作ったらダメだと思ったんだよ。だけど、いざ奪還したら仕事まみれだろ。
落ち着いたら...って今も言ったけど、絶対落ち着かない気がしてさ」
「それもだけど...私、お誘いを受けたのが初めてな気がするんだけど。アルフレードってかなり奥手なのね」
ヴィオラは目を丸くする。
ヘルマンが育てているヴァルターは、最近王都で、女性から人気だという。
身分は伏せているので身分狙いではない。
ヘルマンが事もあろうに女の子の口説き方、関わり方から指導しているのだ。
そして、カッコよく見せたいからという理由で剣技を磨いている。
当然剣は下手だが、そこがまた母性をくすぐるそうだ。
そして、練習で手にマメもでき、すぐ辞めそうになるが、その手当を誰がするかで女性が喧嘩するっていうんだから、たくさんマメを作らないといけないらしい。
ヘルマンしかできない指導だわーー
だけど、本当に兄弟なのかしら?
この女性への積極性の違いがすごいわね
「そ、その。私のことを好きなのは知ってるけど、あなたにとって私は魅力的かしら?」
念のために聞いてみる。
アルフレードはきょとんとして
「ヴィオラの魅力を語れっていうなら一晩かけて語れるよ」
アルフレードは当然とばかりに鼻息荒く、自信を持って言う。
そうかーー真面目なんだよね。アルフレードは。
で、真面目に考えすぎると、手すら出せなくなるのね。
「うーん、一晩かけて魅力を語るなら、お誘いを受けて一晩愛される方がいいかな」
ヴィオラが、くすっと笑うと、アルフレードは真っ赤になって、ティーポットから注ぐ紅茶が、コップからドバドバ溢れていた。
本当に、純情なのねーーー
その様子を見て、あまりにおかしくて、久しぶりにヴィオラは心から笑ったのだった。




