143 奪った先に、何が残る
「じゃあ、侵略して勢いが良かったのは最初だけ?」
私ーーヴィオラは机を叩いて叫んだ。
「いろいろ話を聞いていたらそうではないかと思っていたが、すごくグリモワール侵略と似ているな」
アルフレードも眉を吊り上げ、唇を噛んだ。
知的と言うより、派手なパフォーマンスが好き、ひけらかしたい、そんな性格に近い。
「奪うまでは考えていても、その先この国をどうしていきたいというビジョンがないんだろうな」
アルフレードがため息をつくが、その通りなのだ。
こんなふうに俺は奪った!領土を広げた!ではその先は??と言う感じだ。
誰もやらない作戦は、多くの犠牲があるからだ。
そんなこともわからない。
「子供が、これが欲しいと言って駄々をこねるけど、手に入れてしまうと遊ばないというのと似ているわよ」
私は悔しさを滲ませた。
ーーこんな杜撰な侵略に多くの命が犠牲になってしまったの......
「セバスティアンを早く連れてきたいわね。」
「グリモワール南部みたいに、衛生状態が悪いわけでもないし、焼け出された人もごくわずかだからなんとかなりそうだな。」
私たちは、気を取り直して未来を見つめようとしていた。
ーーー
私たちは、リチャード副団長を騎士団長に、マクシミリアン宰相は、平民となっていたが再び宰相に戻していた。
その二人は、セバスティアンをオリヴィアンで育てたいと告げるとパッと明るくなる。
「未来のオリヴィアンの継承者か」
「王の名前を引き継ぐなんて、先が楽しみだ」
そう言い合いながら笑顔になったが、ふっと影を落とした。
セバスティアン王とリリス王妃は国民に愛されていた。
だが、遺体が運び出され、何事もなくヴァルトシュタイン兵が侵略した時は、上が変わっただけかと国民の多くは思ったようで、当初は大きな反発もなかったらしい。
「セバスティアン様を育てるには、セキュリティが万全とは言えないんだ。前回の侵略の時に騎士団から多くの犠牲を払ってしまった。グリモワールに守り続けてもらっている今、ここで育てられるだろうか?」
「半年ぐらいしてでしょうか?次の冬のための指示も出ないし、作った作物が流通できなくなる。魚が手に入らなくなる。提督もいませんから、海軍も回す人がいない。
そんなことをしてるうちに、物価が高騰しまして、どんどん治安が悪くなったんですよ」
「ヴァルトシュタインの海軍が指示し始めましたけど、言うことを聞かない水夫や海軍兵が多すぎてね。」
そんな感じに、オリヴィアンの国民の生活の苦しさから、ヴァルトシュタインへの反発が日増しに大きくなっていったという。
アルフレードは、苦笑いをした。
「海の男に肩書きは通用しないからな。拳を交えて語り合う世界だけど、君主をやられて提督がいなくなれば、海の上では悲惨だろうな。殺すと言われたら、逆に海の上で殺しかねない。」
私は目を丸くした。
だが、アルフレードは私をみて昔の遠い記憶を話してきた。
「ほら、海軍訓練から帰ってきて顔がボコボコだったことがあっただろ。海って拳が普通に飛ぶし、俺もやり返してた。
驚いたセバスティアン王が、状況をヘルマン提督にきいたけど、どこ吹く風だったなあ。
そのぐらい、海の世界は、王に従うだけではない彼らの世界があるんだよ。その代わり交易も諜報活動も、軍事もこなすありがたい存在だけどね」
そんなことをいわれたら、あった気がする。
お母様と慌ててアルフレードのボコボコの顔を冷やしたのだわ。
「でもこれからはヘルマンが戻れば海軍兵の統率はなんとかなるわね。」
ヴィオラは、ヘルマンが味方で良かったとほっとする。
女たらしだが、仕事は確かだ。
「まずは国内のヴァルトシュタインの残党を片付けた方がいいわね。それと平行して食料の供給計画をたてないと。」
「グリモワールの協力をもらって、セバスティアンの顔見せだけは早期に実施しよう」
「騎士団の再編成と新たな育成もね」
やらなくてはいけないことが多い。
悔しくても最初はグリモワールの協力ももらわなければならない。
ーーだけど、早くセバスティアンを連れて帰ろう。
完全復興を待っていたら、セバスティアンは親のいないようなものだ。
もっともアンナによく懐いているし、エドガー王も赤ちゃんのいまからでもいろいろ仕込みたいらしいが。
アルフレードからみんなに提案があった。
「ヴァルトシュタインの捕虜は、グリモワールの捕虜と合わせて人質交換をしようと思うんだけど、どうかな?」
「交換内容は?」
「セバスティアン王とリリス王妃、そしてアンジェリカの遺体引渡しだ。もう白骨化しているとは思うが...」
アルフレードは3人の遺体を戻したかった。
セバスティアン王とリリス王妃をここで埋葬してあげたい。
きっと国民も二人を悼みたいと思うに違いない。
アンジェリカはグリモワールにとっては悪でしかない。
だが、どこか静かな場所に埋葬してやりたいと思っていた。
「アンジェリカ王妃ですか?」
会議室が一瞬静まる。
リチャードが眉間に皺を寄せ、マクシミリアンも顎に手を当てた。
しかし、今までの経過を話し、セバスティアンを守って育ててくれたことを伝えると驚かれる。
「あのヘルマンですら、形無しだったのよ」
ヴィオラも笑いながら伝えると、さらに驚かれた。
紛争中の今、兵は喉から手が出るほど欲しいはずだ。
遺体に思い入れがあるとは思えない。
「ジュリアンなら、歯ぎしりしても受け入れるだろうさ」
アルフレードは視線を落とさず答えた。




