141 鎧の下の甘い時間
「明日は間違いなく筋肉痛ね」
正確にいうと、矢はすごい衝撃と向かってくる恐怖の方が大きく、精神的な疲労だ。
本当の意味で大変なのは、重い鎧をつけて馬に乗り、腕を動かすほうが私の体には堪える。
「普段ならもう少し動けるのに...」
命を守ろうとすればするほど、硬く重い鎧になる。
今まで、相手の力を受け流してやってきた訓練はなんだったの??
自らが鉄の塊をもって、なんとか動かないといけない訓練に変わるなんて!
これなら生まれた時から鎧を着て過ごす訓練をした方がよかったんじゃないのかしら??
アルフレードは、文句を言う私の横で、無言で、ひたすら私の体をクーリングしたり、揉みほぐしたり。
「男性が、しかも成人男性が装着することを想定しているから体にダメージくるのは仕方ない。ヴィオラがオリヴィアンにいた時はまだ17歳だもの。今以上に装着し続けることはできないよ。あれば体ができてからオーダーメイドでつけるものだからね」
昨日の不安定さが嘘のように、淡々とケアを続けるので、なんだか寂しい。
あのヤンデレぶりはどこに??
なんか支えてあげないとダメに思えた使ってしまった母性を返せ!
セバスティアンにもう一回注ぎ込むからーー
そういいたいぐらい、今日はこっちの心が折れてる。
「こんな時に女性である不公平さを感じるなんてね」
うーん、足も腕も震えがくる。
なんだったら、このまま眠りたくなる。
でも、食べないと体がもたない。
「明日には侍女も来てくれるよ。ゆっくり眠るしかないよね」
だけど...ここまでしてくれる男性はいないわよね。
アルフレードは、ベッドでも食べられるように、パンに肉とチーズを挟んでくれている。
淡々としているようで、やっぱり優しい。
この淡々とした時と、甘々の落差に私は弱いのよ。
「アルフレード、私、オリヴィアンを奪還したらプレートメイルで動き回る訓練をするわ。だって、私が王である限り、軍に立つときはあの姿なのよ!ひどいわ!もっとみんなみたいに剣を振り回したり、弓を引くんだと思ってた。お父様も騎士団長も、私になんで剣や弓を使う練習させるのよ!!」
痛くても、横になったままでも文句は言える。
そして、父も騎士団長も、二人とも亡くなっていても、恨み節はあの世にまで伝えたい!
まあまあと宥めながら、アルフレードが体を起こしてくれた。
「はい、文句が多いヴィオラ姫様、食べようね」
「私が文句が多いなら、あなたは一言多いのだわ」
アルフレードを睨みながらも目の前に食べ物があると、体はちゃんと食べますとお腹が動き出す。
私は、作ってくれたパンを口に運び、温かい紅茶を飲んだ。
「美味しい!ぐったりしても食べれるものね」
思わず頬に手を当てて笑顔になる。
「相当力を使ったからお腹は空いているはずだよ」
もぐもぐ食べている私の様子を見て、アルフレードは安心したようだった。
「なんか、昔に戻ったみたいね。子供の頃、まだ、キスすらしてなかった頃よ。アルフレードは、今みたいに甘い言葉は囁いてくれなかったし、一定の距離があるけど優しかったわ」
「今は甘い言葉を囁きながらやさしいんだからお得な夫になっただろ?」
アルフレードはふふっと笑って答える。
その、性能アップでお得になりましたみたいな商品の宣伝文句はなんなんだか?
だが、しばらく沈黙の中もぐもぐ食べ進めていると、アルフレードが口を開いた。
「昨日は悪かった。父と母と、子供時代に綺麗な別れ方してないんだよ。でも愛情に対して期待をしてないから子供の頃は平気だった。でも、オリヴィアンでは、セバスティアン王やリリス王妃やヴィオラ、みんなが優しかっただろう。そこに、まさかの諦めていた母の愛まで感じていたのに、気づいたらヴィオラ一人しかいなくなってしまって、不安になったんだ。ヴィオラがいなくなったら、他の人の方が好きになったって思われたらって日増しに強くなってた」
アルフレードは自分の手を握り合わせ、ベッド端に座り、木の床を見つめながら話した。
「不安はなくなったの?」
私は、思わず食べていた手を止める。
「不安はあるけど、目のことや過去の俺を嫌わないでくれるなら、今の俺を好きになり続けてもらう方がいい。それに...」
アルフレードは私を見てぷっと笑う。
「こんなに動けなくなる姫も、押し倒してくる姫も相手できるのは俺だけかなって」
私は赤くなる。
「まるで、すごい手がかかるみたいじゃないの」
真面目に聞いて損した。
再び、パンをもぐもぐと食べながら文句を伝える。
ちょっとかわいくないかしら?
「ヴィオラは手がかかるよ。でも、これからもずっと、かけさせ続けてよ。」
アルフレードはそのままベッドに横になり下から私を見上げて笑う。
私も、えいっとその横に倒れ込み、腕をアルフレードの首に絡め、唇を重ねる。
アルフレードは目を見開き、そのまま深い口づけにうつる。
そしてそのまま、もつれ込み甘い雰囲気になるかと思ったが...
ぐーーーーっ
「ごめん、動けない。残り食べたいからもう一度起こして」
わたしのお腹が鳴ったのだ。
わたしに罪はない。
まだ少ししか食べてないんだもの。
仕方ないじゃない。
アルフレードは笑いを堪えながら再び起き上がる。
そして、筋肉痛で痛がるヴィオラが座れるように体を支え、ごばんを食べさせたのだった。




