138 嫉妬と愛と、新緑の誓い
春から新緑になり、完全に雪も溶けたころ、アルフレードとヴィオラはまもなくオリヴィアンに向かい進軍した。
アンジェリカの死を知って一月も経たない。
だが、婚姻のビラの効果もありオリヴィアンのあちこちで、ヴァルトシュタイン兵に向けた暴動が起き始めていた。
冬の時期が終わるのに、この春からの農作物の輸出入の目処も立たない。仕込みもできない。国を守る兵もいない。
指揮するものがいない。
「早い奪還の方がいいわね。冬までにきちんと備蓄を蓄えて暖かい冬を過ごさせてあげたい」
ヴィオラはアルフレードに呟く。
このの冬は蓄えがなく、食べるものや暖かくするための資源の確保もできず悲惨だったようだ
私たちは、エドガー王が選りすぐった兵と一緒にグリモワール北部拠点に到着していた。
ここで初めて、アルフレードの妻、ヴィオラを見る者ばかりだ。だが、中部のガスパーから恐ろしいほど妻も腕が立つという話は聞いていた 。
だが、可愛らしいというか、むさ苦しい男だらけの騎士団に入っていた子羊というようにしか見えない。
ヴィオラ姫はまだ18歳。
北部騎士団の騎士が色めき立つのはわかる。
ヴィオラ姫は、やはり姫だけあって普段から手入れもされて、美人だし、騎士団では嗅いだことのない良い香りもする。
騎士たちは、一斉に狼になる。
だが、同時に、共に動くアルフレードの嫉妬深さを知っているガスパーは、真っ青になる。
(やめとけ!!お前たちほんとやめとけ!オリヴィアンに行く前に殺されるぞ!!)
ヴィオラは北部のダリオン騎士団長やリュカ副団長に挨拶を行う。
エドガー王とも話をして、北部では騎士団の動きに特徴があり、飛び道具を使うものが増えるのでよく見て学ぶように言われていた。
そのため、いよいよ騎士団の練習に参加して、しっかり剣を交えて、むしろ奪還前に騎士団員と親交を深めておくように言われている。
だが...
「その前に...ヴィオラは一日ゆっくり休んで。移動が大変だったでしょ。」
セバスティアンと別れることになり、仕方ないとはいえ強制的に断乳になる。
ずっと泣きながら、最後の授乳を済ませていたが1週間以上飲ませないと止まってしまうという。
飲んでもらえないものは手で絞るしかなく、それが原因で熱が出る日があったのだ。
侍女が馬車で追いかけてくれるので、また搾乳を手伝ってもらう予定だ。
「そうね。今無理してもいいことにならないわよね。」
ヴィオラが首を振る
「そうそう、僕も騎士団の様子を祖父から頼まれて気になってたんだ。先に一人一人の力量を把握したいから、明日以降ね」
アルフレードはヴィオラの頬に触れ、肩を抱き、そっと騎士団員の目から隠す。
流石にヴィオラも気づく
「そんなこと言って!戦いの時に私から目を背けられたら困るの。アルフレード、その牽制はやめてちょうだい。そんなこと続けたら、口きいてあげないわよ」
ヴィオラがキッと睨みつけると、しゅんとするがアルフレードは絶対わかってないな。
ため息をつく。
困ってはいるが、憎めないし、女としてはやはり嬉しい。
「わかってるよ。ちゃんとわかってるから、僕だけ見てて。いいね」
アルフレードの束縛は、ただの嫉妬じゃない。
失ったものの痛みから生まれた、不安そのものだ。
それが分かっているから厳しく言えない。
ヴィオラは微笑む。
困ったことにアルフレードの束縛愛は必ず男性の集まる場面で発動される。
綺麗な顔立ちで、力もあり、決断力もある、努力もし続ける。周囲は敵わないと思っている。
だが、努力しても決して戻ることのない片目とその周辺の爛れは、勲章のように見せていても、男として魅力的にはならないことをアルフレードは知っていた。
特にグリモワールで貴族と語らう場面が増えてくると、女性たちの目は、少し恐れを抱くような目に変わることを経験することが増える。
あくまでもヴィオラだけが、気にしないでくれるのだ。
夏には、「眼帯が蒸れて痒くならない?」
冬には「爛れに痛みが増してない?」
心配をしてし続けてくれるのはヴィオラだけだ。
だから、男性が集まる前ではアルフレードの不安感は膨れてしまう。
そして、この戦いも本当に前に出したくない。
人が倒れ傷つき、血に塗れ、死ぬ姿を大半の貴族が見ることなく終わるのに、どうしてそんな汚い世界を見せなければならないのか...
嫌でたまらない。
アルフレード自身、ヴィオラを男性の目から隠そうとしてしまうのは、無意識の言動で気をつけなければと思っていたのだ。
しかし
「わかったわ。私は、いつもあなたしか見てないのだから、あなたも私以外みないでね。」
騎士団のみんなの前で、そう言われてしまうと不安感がプシュッと消えていく。
最近、アルフレードはヴィオラに上手に手のひらで転がされるようになってきている。だが、それが不思議と心地よく感じていた。




