13 駆け引きの王子、学び舎にて
セバスティアン王は、俺――アルフレードに、他の貴族の子息たちと同じ学びの場を与えてくれた。
剣術の稽古もあるが、座学が特に面白い。
ここオリヴィアンは資源豊かで小国ゆえに狙われやすいが、巧みに周辺国と同盟を結び、長く生き延びてきた。学ぶことは多い。
俺は決して天才ではない。
だからこそ、授業は全力で吸収する。
「……ああ、またドミニク先生の顔が浮かぶ」
苦笑いが漏れる。
剣術の教育指南役のドミニクは、姫ヴィオラの師でもあり、性別や身分、年齢に関係なく教える人物だ。素直なヴィオラは、先生の志をそのまま吸収している。
模擬戦でわざと負けることもある。
もちろんドミニクには見抜かれている。
立場のあるものに手加減しても、その場は問題ない。
しかし後で必ず特訓が待っていた。
「根性を叩き直すぞ」と言われ、夜まで打ち込まれる。……まあ、ありがたい鍛錬ではある。
問題は所謂、陰湿系の貴族の坊っちゃんたちだ。
彼らには優越感を与えておいた方がいい。
磨き抜かれた服を着た彼らの前で、“偶然”を装って眼帯を落とすと……
「っ……」
俺の右目を見た瞬間、息を呑んで固まる者が多い。
(醜い、可哀想だと思えばいい。それで余計な嫌がらせは減る)
それでも絡んでくるどうでもいい家の子息には、拳で黙ってもらった。
「グリモワールの第一王子に殴られた」と騒いでも、俺を訴えられるわけがない。
人質であっても、将来の王か、王配となる可能性がある身だ。手を出したほうが立場を失う。
セバスティアンも、表向きは俺を庇ってくれる――少なくとも表向きは。
***
戦術の授業では、地形や気候をどう活かすかを学ぶ。
川を挟んだ戦を題材に、引退した元軍師ゼノスが教鞭を取る。
「もし、川を挟んで睨み合いになったとする。君たちならどう戦う?」
十二歳から十五歳の同じ部屋の子供たちは、正面突破や数で押す案ばかりだ。
俺は手を挙げて尋ねる。
「この川の幅、流れは? 時間帯や天候、地形の特徴も知りたいです」
周囲は静まり返った。
ゼノスは馬鹿にしたように笑う。
「そこまで考えなくてよい」
だが俺は首を振る。
「霧が出るなら包囲も可能です。雨が降れば川の地形を利用して損害を減らせます。浅く見えても急流が潜んでいることもある。無理に攻めるより撤退し、後日動いた方が良い場合もあります」
ゼノスは表情を引き締め、顎髭を撫でながらじっと俺を見た。
(十二歳にしては視点が上すぎる……飛び級で上のクラスでも学ばせたいが、周囲の反応もあるな)
結局、授業は無難にまとめられ、過去の戦例を交えて説明される。
ゼノスはじっとその後のアルフレードの反応をみていた。
だが、誇ることなく、やや控えめに席に戻る。
周囲の子供たちは、私とこの子の駆け引きには気づかない。
この子は、私がこの場では、無難にまとめようとした様子を感じ取っている。
ゼノスの頭の片隅には、ある思いが残る。
(セバスティアン王の許可さえあれば、個別に鍛えても面白い存在になる――この子が本当に王、あるいは王配になるなら、戦力として申し分ない)
ゼノスは思案した