125 過去と未来を繋ぐ同盟
「エドガー王、この度はセバスティアンの体調のために日程を調整いただき、感謝いたします。」
俺は祖父エドガーとヴィオラと一緒に、オリヴィアンの状況を聞くことと、今後のことについて聞いた
「いや、お前のことがあって、私も子供の発熱はちょっとトラウマなんだ。無事治ってよかった」
エドガー王は辛そうな顔をした。
「アンナも当時の話をしてましたけど、みんなの心にトラウマを残すほど俺の病は酷かったのですね」
俺は、苦笑いする。今ならこうやって当時のことを笑って話せるようになった。
目が見えなくなり、変わり果てた息子の姿を、すぐ受け入れられなかったアンジェリカの気持ちも、今なら少しだけわかる。
といっても、その後がひどかったから、その時までの気持ちならわかると言う感じだが...
「さて、本題だが、ヴァルトシュタインがきな臭くなってるそうだな」
エドガーの目がアルフレードを捉える。
「ジュリアン王とヴァルターを抑えたクレア前王妃の実家とで二分しています。アンジェリカからヘルマンに手紙があり、ヴァルトシュタインからヴァルターを離して、グリモワールで保護してもらおうと思っているようです」
俺はヘルマンからの報告をエドガー王に伝えた。
「ヴァルトシュタインに利用されるぐらいならうちで保護したほうがいいでしょう。ただ、それだとジュリアン王の政権が続きます。
本当はヴァルターにグリモワールの王になって欲しいですけど...」
俺は肩をすくめる。
それを聞き、エドガーはため息をついた。
「ヴァルターはいい話はきかんな。ヴァルトシュタインの王になったとしても傀儡だろう。グリモワールの王としても、フェリックスの二の舞だ。
だが、もし、ヴァルターを奪われたら、クレア王妃は、次に目をつけるとしたらヴィオラ、君だろうね」
「私がですか!!」
ヴィオラは思ってもいなかったと言う顔をして驚く。
だが、ヴィオラが生きていることが分かれば...
オリヴィアンはすでにヴァルトシュタインの一部だ。
クレア王妃からしたら、リリスの忘れ形見だし、女の王なら傀儡にできると王妃の一家も考えるだろう。
さらにセバスティアンも産まれているなら血筋も安泰だ。
「その場合、オリヴィアンは?」
震える声でヴィオラは聞く。
「オリヴィアンはもう戻ってこない。そして、グリモワールの王はアルフレードだが、この二国がお互い無条件で折り合うことはないな。
グリモワールの国民は、家を燃やされて命もなくしたわけだから、謝罪と賠償がないとゆるさないだろう。だが、ヴァルトシュタインは今の情勢で賠償などありえまい。」
「それは!オリヴィアンだって属国になるのは絶対に嫌です。待ってくれている国民に顔負けできません」
ヴィオラは思わず大きな声を出した。
「そして、もしヴィオラがヴァルトシュタインに渡れば、お前たちは、普通に考えて離縁を求められるか、良いことにはなるまい。仮にアルフレードがグリモワールの王にならなくても、クレア王妃からしたらお前は憎きアンジェリカの息子だ。ヴィオラとセバスティアンが手に入れば邪魔でしかない。」
俺は黙り込んだ。
ジュリアンの力が弱くなっている今、ヴァルトシュタインにヴィオラが殺される可能性は少なくなった。
だが、リリス王妃の母から狙われて、今度は俺の命が危ないのか。
「そして、ヴァレンティアはヴァルトシュタインと手を組みたがらないだろうから、グリモワールに助けを求めるだろう。結局は敵対するだろうね」
「どういうことですか?」
俺は、そこにヴァルトシュタインの北、オリヴィアンの西にあるヴァレンティア王国の名が突然出てきて驚く。
オリヴィアンとほぼ同じ規模の小国だ。
だが、オリヴィアンからの同盟依頼を蹴った段階で、ヴァルトシュタインにつくか属国になる気なのだと思っていたが?
「以前ヴァルトシュタインからグリモワール南部が侵略された時に、ヴァレンティアはオリヴィアンと同盟話を蹴ったのは知ってるね。あの時、結んでいたらセバスティアン王と王妃は助かり、オリヴィアンも無事をだったかもしれない。なぜ結ばなかったか知ってるかい?ヴィオラ?」
ヴィオラは少し考える。
「攻められているのはグリモワールだから、しばらく自分のところは安泰と思ったのでしょうか?」
グリモワール南部が攻められた時に、オリヴィアンの中にそんな空気が流れたのだ。
エドガー王には言えないが...
「おそらく、セバスティアン王もそう思っただろうね。だが、私はそうは思ってないんだ。」
エドガー王は今度はヴィオラを見つめる。
「セバスティアン王は、過去に、リリス王妃ではなく、本当は、ヴァレンティアの姫を嫁にもらう予定だったんだよ。」
「え?そんな話、初めて聞きました」
ヴィオラの声が上ずる。
「グスタフ王が、オリヴィアンとヴァレンティアの婚姻を阻止するために、リリスと結婚するか、ヴァレンティアの姫と結婚するか迫ったんだよ。
セバスティアン王としては政略結婚だから、大国と婚姻同盟を結ぶほうがいいと思ったのだろう。」
「でも、他の国が知っているぐらい結婚間際だったのにですか?」
政略結婚とはいえ、直前に婚約破棄なんて外聞が悪い。
まるで何か瑕疵があるかのようじゃないか。
「そうだ。だから、直前で婚約破棄され傷物になった娘の父であるヴァレンティアの王からしたら許せなかっただろうね。実際、他国とも婚姻同盟は結ばれることはなかった。
セバスティアン王からしたら、過去のことだと思っただろうがね。人の気持ちはやられた方は忘れない。
婚姻同盟を結んだヴァルトシュタインから攻められて、自分たちに同盟を結んでくれと言われても助ける気にはならなかっただろう」
「そんな」
ヴィオラは口を手で覆う。
結局、みんなが過去にやってきたことのやり返しが、今その血を引いた自分たちに降りかかってきているのだ。
今まで、セバスティアン王とリリス王妃は、ただの被害者だと思っていた。
だが、リリス王妃は妾時代の子であることを隠して、二の姫としてオリヴィアンに嫁いだし、セバスティアン王は一人の女性を傷つけてリリス王妃と結婚したことになる。
その結果が、オリヴィアンと同盟は結べない、信用できないに繋がってしまった。
「だから、そのリリス王妃の娘ヴィオラが王になったら、ヴァレンティアは、ヴァルトシュタインとは手は組まないと思う。グリモワールに同盟を求めてくるだろう、そして、私はその同盟を受けると思う。」
「俺は、ヴィオラを助けるために王になるのであって、ヴィオラが窮地に陥るなら祖父上には申し訳ないですが、グリモワールの王になるつもりはありません、」
「そう言うと思ったよ。だが、先程も伝えたように、ヴァルトシュタインに行っても、アルフレードが王配になれるとは思わないな。殺されるかヴィオラの意思は関係なく離縁だろう。
ジュリアン王を窮地に追い込める一族だ。失礼だが、ヴィオラが守ろうとしても、今の実力では傀儡で終わるよ。君にはしたたかさがないからね」
ヴィオラは唇を噛み締めた。
ヴァルトシュタインでは、守られる王はきっと本当の王にはなれない。
だが、今の自分はオリヴィアンを奪還して、周りに助けてもらいながら、守られながらも、みんなと国を支えていく王になろうと決めたのだ。
言われた通りになるだろうと思い、悔しさが胸に突き刺さった。
「そこで提案だ。私は今ならオリヴィアンは奪還できると思っている。ヴァレンティアとグリモワールが同盟を結び、オリヴィアンとグリモワールも同盟続行なら、三国で連邦国家を作れると思っている。三国集まってしまえばジュリアンもクレア王妃も侵略は無理だ」
「そして、ヴァルトシュタインはいずれ滅びる。それを待つんだ。ジュリアンに跡取りはいない。王妃はいるが、すでに別居だと言う情報だし、クレア王妃のせいか?女性不信で妾の話も聞かない。未来のあの国の王位継承者はグリモワールの王子2人かオリヴィアンの姫、その間に産まれた子しかいないんだからね。つまり将来は4国で連邦国家を作ればいい」
エドガーはにっこりと微笑む。
「どうだい?それなら2人は離れないで済むし、オリヴィアンも奪還できる。戦争もなく平和な未来を次に渡せるんじゃないか?連邦国家の王は、アルフレード、君だよ。」
エドガー王の言葉に、俺は思わず息をのんだ。
平和のために戦わない道――そんな未来がもし、手に入るなら、俺は本気で信じてみたいと思った。




