124 許されぬ過去と抱きしめる未来
ヴィオラは、母のアンジェリカがグリモワールに戻ってきたら断首するということを受け入れているアルフレードにどう声をかけていいのかわからなかった。
本来なら私が一番それを望んでいるはずなのに...
フェリックス王がアルフレードを害したのは、もう15年も前のことだ。
でも、アンジェリカ王妃は夫が我が子を殺そうとしたことを知ってしまい許せなかった。
「もし、素直にフェリックス王を殺したと自首していたらどうなっていたの?」
アルフレードは思案する。
「ヴァルトシュタインはジュリアン王が即位したばかりだったから、アンジェリカが否定しても、エドガー王はヴァルトシュタインの指示を疑っただろうな。
アンジェリカはどっちにしても断首で、祖父上はオリヴィアンと協力して戦争になったんじゃないかな?リリス王妃は、ジュリアン王と関係が良くなかったわけだから」
「それで勝ったとしたら、誰が王になっていたと思う?」
私はアルフレードに尋ねた。
「俺...かな?そのままなら、ヴァルターはグリモワールの継承者で、ヴィオラはオリヴィアン、ジュリアンとアンジェリカがいなければ、受け継いでフリーなのは俺だけだもんな。リリス王妃の実家を後ろ盾にしてヴァルトシュタインの王になったんじゃないかな?」
「結局、どうやってもほぼ同じ結末になるのね。それなら、ただ、アンジェリカ王妃は、夫を、フェリックス王を許せば、みんな円満でよかっただけなのかしら。」
「どうだろうな」
アルフレードは静かに首を振る。
「俺は父の死を望んでない。
でも、母上は自分のために父を殺したんだ。
許せないなら離縁すればよかったし、別居してるんだから楽しく人生をやり直すこともできた。
ヴァルターを使って父の権力を削ぐ方法はいくらでもあった。
セバスティアン王とリリス王妃が巻き込まれて死ぬ必要なんて、どこにもなかった」
アルフレードはキッパリと言った。
父親に殺されそうになり、母親を自分の手で殺す。
それは、アルフレードにとって心に大きな傷になるだろう。
「……アルフレード」
私はそっと抱きついた。
「私、苦しくなったり悔しくなったら、きちんとあなたに話すわ。だって、お互い話せば避けられることって、きっとたくさんあるもの」
アルフレードは少し驚いたように息を呑み、強く抱きしめ返してくれた。
だが次の瞬間――。
「本当だぞ。ヴィオラ、俺に言わないこと多すぎる」
急に口調が変わったので、私はきょとんとした。
「ご、ごめん。私、何をあなたにやらかしたかしら?」
アルフレードは、抱きしめたまま告げた。
「まず、セバスティアンの子供は俺の子でもあります。確かにお金はないし、国民の生活を豊かにしたいけど、俺たちの子供に必要なものはきちんと言って欲しい。
銀のガラガラのことも、執事がエドガー王に買って欲しいと頼んだことから発覚したんだぞ。俺はびっくりした」
「えっ!」
「えっ?じゃないよ。俺のものが見つかったからそのまま使うことにしたけど、きちんとしたものを与えてやらなければ、リリス王妃みたいにきちんと教育させてないといわれたり、周りからもそんなに国力がないのかと思わせてしまう。だから、自分一人で抱えない。一緒にどうするか考えるから。」
「そうね。そこまで考え付かなかったわ。私のために、これだけ準備してもらうことだけでも心苦しいの。
自分がお金を稼ぐ手段もないからとにかく、迷惑かけないようにとしか思ってなかった、」
よく考えたらアルフレードはこの国の王位継承者なのだ。
あまりに、倹約しすぎたらそれはそれでエドガー王やアルフレードの顔を潰してしまう。
「でも、銀の食器やコップやスプーンとかは、銀のガラガラと一緒に、俺のものをアンジェリカが大切に保管してたからそれを使おうと思うんだけどいいかな?
本当はオリヴィアンの国の紋章を入れた新しいものを職人に作らせたいけど、どういうことかと噂になるからね。奪還したらオリヴィアンのものを継承させてやろう。」
私は頷いた。
「あと...」
アルフレードが怖い顔をする。
えっ?まだ何かあったかしら??
「俺は妾は作りません。政治的に言われたら、王になるのやめるって暴れます。ヴィオラ以外は無理です。」
「あ...それは」
私は真っ赤になる。
「ヴィオラの出陣は全て受けて立つけどね。
でも、焦ったり、次の子を産まないとって追い詰められているのが理由なら、そんなこと考えられないようにノーマルじゃない対応をさせてもらうけど...」
アルフレードはニヤッと笑う。
「ちょっ、それは……普通は拒みますと言うところでしょ!」
私が慌てて言うと、アルフレードは笑いをこらえきれず吹き出した。
「ダメだよ。ヴィオラは拒んだら絶対俺を押し倒すもんな」
アルフレードは思い出し笑いをして、くすくすと笑う。
恥ずかしい!!
「じ、じゃあ、押し倒されないように、ちゃんと愛してよね!そうじゃないと、また出陣してやるんだから!!」
「わかった」
アルフレードはそう言って、私の唇を奪った。
あの初々しかったファーストキスとは違う
今はもうーー人質の王子と、姫のキスだったものが、すっかり夫と妻の口付けに変わっていた。




