123 王家に隠された系譜
結局、2日間。
熱を出して、汗をかいて、俺たち二人は代わる代わる手当をして、セバスティアン元気復活。
「俺の時って命に関わる病だったから、アンナ一人ですごく大変だったんだな」
隔離された小屋で、禁止された面倒を一人でみる。
なんとか生還したのに、理不尽に侍女を辞めさせられて洗濯担当になる、
俺がすっかり懐いてしまったからアンナを嫌いになったとしても、結局、俺の危機に世話を託した母アンジェリカの気持ちがわかる。
しかも、俺に子供が産まれなければ、乳母のことも思い出さず、アンナに良い思いも無いまま、忘れていたのだ。
報われない奉公だ。
「俺、アンナに感謝してもしきれないよ。今まで俺のためにこんなにしてもらっていたのに忘れててごめん」
アンナは目を見開く。
「嫌ですよ、そんなこと言われたら泣いちゃうじゃないですか」
パシッと俺の胸を叩き、目を潤ませる。
「お医者様の言うことを聞かなきゃ良かった。最初からあなたのそばについてあげられてたら片目も見えなくなることはなかったんじゃないかとずっと後悔でした。今、こうやって再びアルフレード様の子供のお世話ができるなんて私は幸せです」
それを聞いて、俺はセバスティアンを抱っこしながら心が温かくなる。
「あ、祖父上様は?エドガー王はどうなった?」
執事たちに対応を任せたままだった。
「エドガー様にとっては、アルフレード様ぐらい、子供の熱はトラウマですからね。真っ青になっておりました。
そういえば、お二人話し合われることがあるのでしょう。」
そう言われてハッと思い出す。
(俺、やっぱり王になる意識より、父でいたい意識の方が高いんだよな)
「私どもの仕事は、お二人の代わりにセバスティアン様のお世話をすることです。でも、親にはなれませんからね。アンジェリカ様のように動けない時に託してください。
どうか、お二人にしか出来ない仕事をしてください。」
「ありがとう」
「夜だって、夫婦と離して一人部屋で乳母たちと過ごすのはどの方もされていることですよ。罪悪感を感じることではありません」
アンナは俺たちがセバスティアンを預けたことへの罪悪感を感じていることに怒っている。
「ごめん。みんなのことは信頼してるんだ。なんか勝手な時に親の顔をしてしまったような罪悪感があったんだ」
たしかに、失礼だと思う。彼らは精一杯してくれたのに、俺たちがみていたら熱を出さなかったんじゃないかと言っていたようなものだ。
「それならよろしいです。これからもヴィオラ様を磨き上げますので、決してお妾など作ることがないようになさってくださいませ。」
「え?」
「え?じゃありませんよ。ヴィオラ様からしたら、ご自身が妻で子供がいると知っているのはこの国ではこの屋敷のみ。セバスティアン様だって、オリヴィアンの国の子供ですよ。あなた様はグリモワールの王になる方なのですから、誰かから妾の話が出て子供を作れと言われかねないじゃないですか。」
「俺はヴィオラ以外なんて...」
「本人の思い通りにいかないのが政治の世界です。ですから、しっかりご寵愛を受けていることを周りやヴィオラ様にも感じさせて差し上げないといけません」
それがあの出陣か。
「俺の方が、もっと気遣うべきだったな。というか、アンナすごすぎないか?そこまで気づくか?」
「普通なら口なんて出しません。何も言わずに空気のようにしているのが侍女です。でも、お二人は政略結婚なのにこんなに仲睦まじいし、セバスティアン様を可愛がっておられるのですから。この屋敷のものはみんな二人を応援しております」
にっこりアンナは笑う。
そういえば「銀のガラガラを買ってやってくれ」と、執事が王に言うのも普通はない。
遠慮して、国民のことを思うヴィオラは周りから愛されているのだろう。
「大丈夫だよ。妾に割く時間を作るなら、セバスティアンとヴィオラに時間を割くよ」
それを聞いてアンナは頷いた。
ーーー
ヴィオラとエドガー王に会う前に話を詰めなければならない。
一つはリリス王妃の実家のことを知ってもらうことだ。
アンジェリカがヘルマンに送った手紙とヘルマンの調査で、リリス王妃の実家や実母は、成り上がりの家であることがわかった。
「お母様は、アンジェリカ王妃のご実家が公爵家で自分は男爵だから虐められていたんですよね」
「そう聞いてたんだけど、リリス王妃の実家もすでに公爵になってるらしいんだ」
ヴィオラは眉を顰める。
「そんな速い昇爵って聞いたことないんですけど」
「俺がアンジェリカに肩入れしたらよくない気持ちになると思うんだけどね...実は」
リリス王妃は、アンジェリカと2歳差、だがアンジェリカの母が亡くなったのはもっと後なのだ。
「母親の実家の身分の問題だけではなく、妾の子供として産まれて、一緒に勉強したりして同じ城で過ごしていたというのもあったみたいだね。もちろん虐めていたのは許されないだろうが...」
「お母様はそんなことは一言も言わなかったわ」
「最終的にはリリス王妃の母は後妻になっていたし、結婚に合わせて母の実家の身分も侯爵まで引き上がった。わざわざ、妾時代に産まれた子を嫁がせるとはいわないさ。リリス王妃も、ヴァルトシュタイン王家から言わないように言われていたはずだよ。それに前の王妃の亡くなった時期も、内通の罪を隠すために有耶無耶にされたみたいだしね」
だが本題はここからだ
「そのリリス王妃の母と実家が、弟のヴァルターを囲っているらしいんだ。アンジェリカが、連れ出してグリモワールに連れて帰ろうと画策しているらしい。
アンジェリカは断首される覚悟を決めているらしいがヴァルターだけでも助けて欲しいらしい。
君はどう思う?」
ヴィオラは思わず息を止めた。
さらっとアンジェリカは断首と言っているけど...
本当にそれしか道はないの?
アルフレードはそれでいいの?
だって、アルフレードを害したのは父親だったのに。
アンジェリカは許せないけど、王を殺した以外、オリヴィアンを攻めようとも、アルフレードを殺そうともしなかったのに。
ヴィオラは呆然と佇んだ




