122 戦より手強い!? 王子の初めての風邪
アルフレードは、やっとヴィオラに対して罪悪感なくふたたび夜を過ごせてほっとした。
すっかり出陣と反撃を繰り返してたら気づけば朝じゃないか!
だが...
しまったな。
祖父上が話す前に、色々ヴィオラに知ってもらわないといけないことだらけなんだよ!
予定外の出陣で、大事なことが何も話せてない。
それなのに、目覚めたら朝で、大慌てでヴィオラはセバスティアンの元に行ってしまった。
「ああ...先にヴィオラを頂くのは失敗だった」
俺は頭を抱える。
しかも、ヴィオラは授乳に、セバスティアンの世話に、剣の訓練に、祖父上のお出迎えがあるから身支度まで分刻みスケジュール。
セバスティアンの世話は俺がするとしても、二人きりで話せる時間がない。
アンナに、どこかの時間を短縮してもらうようにお願いするかしかない!
「アンナ、俺ヴィオラと話があるんだけど支度早くできないかな?大事な話なんだよ」
俺は、ヴィオラの支度部屋に行き声をかける。
「アルフレード様、エドガー様は北からお越しになるから早いと思いますよ。昼には到着ですから、無理ですよ。今授乳が済んだばかりですから、これからセバスティアン様のお世話をして、身支度を整えて、お化粧しないと。」
「お世話、俺がするからさ。」
「そう私たちも言いましたよ。でも、昨夜はずっとアルフレード様につきっきりでセバスティアンのそばにいてあげられなかったからって。セバスティアン様も離れようとしませんしね」
ちらっと俺の服装を見る。昨夜のままだ。
お前は何をしている?そんなことを言ってる暇があれば、お前も早くセバスティアンの元へ行け!といわんばかりだ。
アンジェリカがいないと、アンナってこんなに強気に話すメイドだったのか。
追い立てられるようにセバスティアンの部屋に向かうと、廊下の外からでもセバスティアンの泣き声が聞こえてくる。
綺麗に手洗いと酒精で手を消毒してエプロンをつける。
「なんだかもうすっかり慣れてきたな」
ドアをノックして、入るとセバスティアンギャン泣きモードだった。ヴィオラも困っている。
「今日は機嫌悪いな」
俺がセバスティアンを抱き上げると、少し俺を凝視する
そして、泣き止む。
「おっ!俺が抱っこするとやっぱり...」
その瞬間、
わあああああああああああああああああああああん!!
もっとギャン泣きだ。よくそんなに息が続くな。
全身全霊、今の体力全てを使い切って俺は泣く!
そんな、力強い意志を赤ちゃんから感じるとは思わなかった。
「やっぱり、抱きますよ」
ヴィオラが手を伸ばす
「いや、こうなったらセバスティアンと力勝負だ。話したいことが話せてないから、先に支度をしてきてくれ。」
ヴィオラはセバスティアンを気にしているが、泣き止むまで待っていたら今日は支度もできないし、話せる時間も作れない。
俺は「高い高い」をしてみたり、体を「ポンポン」してみたり...
銀のガラガラなんて持たせたら、俺の頭は殴りつけられそうになるし、力強い足で腹を蹴られるし。
「お前、ヤンチャだな。これだけ蹴りがつよかったら、俺に似て剣が強くなりそうだ」
笑顔でセバスティアンに語りかけるが、機嫌の悪い時はこんなに泣くのか?
参ったな。
「やっぱり、昨夜は寂しかったのかな?」
顔を見ると、涙と鼻水で真っ赤だ。
きれいなセバスティアン専用の布を使って顔を拭こうとすると...ん??
「泣いたから??かな?なんか熱くないか?」
セバスティアンの初の発熱だった。
「機嫌が悪いのは、体調が悪いからだな。悪いが、お医者様を。」
高齢のメイドたちが、アンナとヴィオラに連絡したり、体を拭くための薔薇の花びらから抽出した水や薬草を煮出した水を準備し始める。
俺も執事に連絡して、エドガー王が来たら、セバスティアンの体調不良のため、本日の謁見の延期をお願いする。
普通なら許されないだろうが、俺たちにとって、赤ちゃんの病ほど恐ろしいものはない。
執事も頷き、俺とヴィオラはセバスティアンにつきっきりで看病することに決めた。
ーーー
「やっぱり、昨夜はセバスティアンと一緒にいてあげた方が良かった」
ヴィオラは激しく落ち込み、涙ぐんでいる。
「そんなことをいったら、俺も同罪だろ。一人で落ち込むな。」
アルフレードは落ち込むヴィオラを慰める。
少しでも抱っこしてやる方が楽かと思い、冷たい布で汗を拭ったり、ハーブ水で湿布をしたり。
オリヴィアンにいた時は、自分たちが子供で、周りが大人だった。だから、リリス王妃や侍女、侍従にやってあげると言われたら当然のように受け入れていた。
時が経ち、今は俺たちが大人になっている。
今度は、自分たちが子供にしてやる番だ。
王族や貴族なら、育児は乳母や侍女に任せるのが普通だ。
けれど俺たちは――できる限り、自分の手で世話をしてやりたいと思っていた。
だから、人に任せた翌朝に熱を出されたのはこたえた。
やりたい時だけ面倒を見て、本当に大事な時にそばにいなかったような、そんな気がしてしまったのだ。
「何を言いますか?乳母や侍女もおりましたし、昨夜はご機嫌に寝ておられましたよ。熱を生涯出さない人などいませんよ。それに、汗をかいてもう、熱が下がりつつあるのかよく寝てくれているじゃないですか」
医師の見立ては風邪ということだった。
だが、よく気を遣っている貴族でも、風邪で亡くなる子供も多い。
特に初めての風邪だったのでヴィオラとアルフレードの心配も半端なかった。
(やっぱり、自分が流行病になってしまった時のことを思い出すな)
昨日俺がやって来たときに、何か病原菌を持ってきてしまったのではないか?
昨日俺が持ってきた銀のガラガラに何かついていたのではないか?
そんな不安が渦を巻く。
「お二人とも!誰かのせいとか、何かのせいと思うのはやめましょう。誰しも通る道です。毎回誰かのせいにしていたら、心が荒んでしまいますよ。」
アンナが俺たちの前で叱り始める。
はっとヴィオラとアルフレードは顔を見合わせる。
「全部熱湯で消毒できるものはしております。作れるものは毎日使い捨てです。部屋は専用部屋です。エプロンもしています。それでもなるし、そうやって子供は強くなっていくんです。特にアルフレード様はなんでもご自身の経験に結びつけすぎです」
ピシャッというアンナに、高齢のメイドたちもそうそうと頷く。
「心配はしますけどね。でも、こうやって熱を出すのも成長の一環ですよ。」
「セバスティアン様は真っ赤な顔をしてますけど、しっかりお乳も飲めてますからね」
そんな励ましに、少しホッとする。
二人だけだったら、お互いが自分のせいだとに言い合って疲弊していたかもしれない。
「俺たちも親として成長中だな」
そうヴィオラに声をかけると、ヴィオラも泣き笑いする。
俺はセバスティアンを抱っこしながら、ヴィオラの肩を抱き寄せた。




