111 王の眼が見た“姫騎士”
エドガーは訓練場をでて、ホッと胸を撫で下ろした。
「セバスティアン王、娘をあそこまで鍛え上げていたか。」
ぞっとする。
あれで産後だから力が落ちているって、あんな可憐な娘を普段どれほど鍛えてきたんだ?
しかも足は筋肉が戻っていたし、手には新しいマメがたくさんできていた。体幹のブレもなかったな。
「あれ以上続けたら自分が危なかったな。」
ヴィオラには申し訳ないが、年の功で自分の方が上に見せかけて終わらせた。
力があるわけじゃないが、相手の力を利用しようとするので迂闊にこちらが力を入れられない。
きちんととどめを刺そうとするが、軽くて速いので焦点が定まりにくい。
こっちの集中力が切れるか、あっちの体力が落ちるかという勝負だった。
訓練場を出る時、騎士団長に声をかけた。
「ガスパー副団長には、全力で挑め、決して手を抜くな、お前より強いと伝えろ。彼女にはああ言ったが、ガスパーより腕は上だ」
団長がわずかに目を見開いた。
……気づいていたな。
わしが押されていたことに。
自慢じゃないが、剣の腕はまだまだ落ちちゃいない。
それなのに、あの娘に追い詰められたんだ。
団長も内心では冷や汗をかいてたはず。
ちらっとヴィオラを見た時、団長は頷いた。
けれどその目は、完全に「化け物を見た」って顔をしてたな。
ヘルマン提督はどうだろうな。
わしが姫に押されていたことに気づいていたか?
ヴィオラの行動の甘さには呆れてたようだが、実際に危ういのはこっちの方だった。
まさか、あっさり体を触れさせるとは思わなかった。
……他の騎士団員がいなくてよかった。誤解されたらたまらん。
「だが、この冬に18歳になったばかりだからな。むしろ、当然かもしれん」
アンジェリカのような狡猾さもなく、他の貴族女性のような強かさもない。
セバスティアン王が、アルフレードを婿にしていなかったら、今頃あっさり悪い男に騙されていた可能性もあるタイプだ。
良くも悪くも天真爛漫な人を疑わない純粋な姫だ。
アルフレードがそばから離れたがらない気持ちもわかる。
「屋敷の雰囲気は悪くなかったんだよなあ。執事からも、侍女からも褒める言葉しか聞かないし。人と打ち解け、うまく交流できる性格なのだろうか?」
アンジェリカと同居してもトラブルがなかったぐらいなのだから、相当な社交性だし、使用人の表情がみんな彼女を攻撃から守ってあげたいというより、慈しみの目で守ってあげたいという雰囲気になっていた。
「あれがあの子の持ち味か。アルフレードもヴィオラも、良い王になりそうな二人だな。あの子たちの息子が、どんな成長を遂げるか楽しみだ」
ふふっと思わず笑みが溢れるが、ふとヴァルトシュタインの良くない情報を思い出し、眉を顰める。
ヴィオラの母リリスーーその実母。
故グスタフ王の後妻か。
アルフレードとヴィオラには情報をきちんと伝えた方が良いかもしれんな。
エドガーはヴァルトシュタインのきな臭い動きに頭を悩ませていた。




