105 甘いキスと、苦い誤解
「こうやってみると、手を繋いで歩くということが俺たちにはなかったな。」
ヴィオラの手を引き、そっと握る。
改めて、そんなふうに触れると妙に意識してしまう。
「不思議ね。いつも一緒にいたから考えたこともなかった。二人でこうやって街の中を出かけるのって初めてなのよね」
ヴィオラも照れるのか、少し握る手がぎこちない。
結婚するまでは、俺はオリヴィアンでは人質でもあった。
あまり積極的に色んなところに行くのは良くないと思っていたし、新婚生活はなかったからな。
最後に海を見たぐらいで、街で一般的なカップルのようなデートはしたことがない。
「移動までは一緒にいられそうなんだ。しばらくは毎日君とこうやって歩きたい。せっかく出て来たけど、市場がもう今日は終わりみたいだな」
二人で手を繋ぎながらお店を見て回る。
片付けに入っているところもあり、せわしない。
遠くに夕暮れのオレンジの空がうっすら見えて、灯りをつける店もあった。
「屋台のものって食べたことあるか?」
アルフレードはヴィオラに確認をする。
姫にすすめてもいいのだろうか?
規格外だから忘れそうだけど、オリヴィアンの一の姫で、将来の王だ。
「ないわ!食べてみたいの。オリヴィアンもあったんだけど、わたしが買い食いするのは流石にお父様もお母様も許してくださらなかったの」
途端にヴィオラの目がキラキラする。
「よかった。じゃあ、買ってみよう」
アルフレードは袋に入った熱々の揚げ菓子を購入する。
外が冷えて来たので、その温かさが心地いい。
ふわふわ袋から揚がる湯気に顔を当ててしまう。
二人で袋を覗き込み、にっこり笑う。
「美味しそう!」
ヴィオラはそっとそれを摘むと、温かさと同時にパラパラと指先に砂糖がつく。それを一口で口に放り込んだ。
「あ、あつっ!!」
「おい、火傷してないか?」
ヴィオラは涙目でコクコク頷く。
「急いで食べるからだ。」
アルフレードも食べるが...
「あっつ!!」
熱々のものを放り込んでくれたらしく、指先もジンジンする。
二人でお互い目が合い笑い合った。
そうだ、俺たちはこんな生活を送りたかった。
こんな人たちがたくさん過ごせる国を作りたいんだ。
「揚げ物久しぶりなのよ。アンジェリカ王妃が、お乳に悪いから揚げ物はダメって」
そういいながらふふっと笑う。
アルフレードは、固まってしまう
「そ、その。謝らないと。あの...母のことだけど」
「聞くわ。」
ヴィオラは面白がっている。
意外だった。
泣いて怒ると思っていた。
しかも、普通に会話に出てくるのが意外だった。
「君を軽んじたと言われたら言い訳できない。セバスティアン王には報告したと思うから...俺にとっては、ヴィオラは王である前に、俺の好きな人だし、妻だし、この間までは彼女のような妹のような立場だったんだ。だから、王として見る前に女性として見てしまう。君は女として見られるのは嫌だと思うけど、俺は好きな人が王になったんであって王になったから好きになったわけじゃないんだ」
せっかくいい雰囲気だったけど、怒るのはわかっている。
「だから、王として頼らないとかじゃなくて、単純に君を傷つけたくなくて言えなかった。俺の母親のことでもあるし」
やっぱりヴィオラが傷つくのは躊躇してしまうんだ。
今回みたいな精神的なものもだが、肉体的な危害も、王である前に愛する人を守りたいと思って盾になるだろう。
ヴィオラは目を見開いて笑う
「ヘルマンの口説いているのをあちこちで見たの。アルフレードは、やっぱり私の好きなアルフレードだわ。ちゃんとわたしに伝わるもの。」
「へ、ヘルマン?」
「すごいのよ。口説く前に触ってるの。触ってるのに、目の前でキスしてて、キスしてるのに口説くのよ。」
ヘルマン!!純情なヴィオラの前でなんてことしてくれるんだ!
ただでさえ、海軍の耳年増訓練で彼女には酷い目に合わせたのに、ヴィオラの恋愛基準までおかしくしないでほしい。
「斬新な言い訳だったから許してあげる。でも、あなたしか使えない言い訳よ。だって、私の好きな人はあなただけなんだから。あなたからは、王である前に女性として見られたいわ」
ヴィオラは、指についた砂糖を舐めながらアルフレードに微笑んだ。
アルフレードは、ヴィオラのその手をそっと取り、ぺろっと舐める
「甘い」
ヴィオラは真っ赤になる
「さ、砂糖なんだから、当たり前じゃない。」
「じゃあ、口は?」
アルフレードは、そばに誰もいないのを確認して、揚げ菓子の袋で顔を隠し、腰に手を当ててそっと唇を合わせる。
その時だった
「あなた!ヘルマンとこの男と二股かけてるわけ??」
「へっ!!」
二人が慌てて離れて声を見ると、数人の女性が目を三角にして怒鳴る。
誰もいないのを確認したのに、あちこちに目があるのがフィレンタだ。恐ろしい。
だ...だれ?
アルフレードもヴィオラもキョトンとする。
「そこの男の子!騙されちゃダメよ!
その子はすでにヘルマンっていう男のものなの。この間プロポーズを受け入れて、子供だって産んでるんだから!!」
「えっ!」
アルフレードが目を見開く。
「涙を流して、喜んでプロポーズ受けてたわよね。それなのにもう浮気?この売女!!」
「ち、ちがいます!この人がわたしの夫です!」
ヴィオラは慌てる。
アルフレードは混乱していた。
「ヘルマンからプロポーズって何?俺聞いてないんだけど」
ヘルマンが、ヴィオラを狙っていることなんて想像もしてなかった。
だけど、冷静に考えたら、ヘルマンは、こんなに可愛いヴィオラを放置するような男じゃない!!
「あの、歩く種馬め!!」
アルフレードの叫び声が響く。
母アンジェリカと同じセリフを俺が吐いていたことなんて、アルフレードは知らなかった。
《歴史背景》
フリテッラという中世フィレンチェで宗教行事やお祭りで出ることがあった砂糖の揚げ菓子で、ドーナツに砂糖をまぶしたようなものでした。
砂糖をまぶすなら熱々ではなかったのではないかと思いましたが、最近屋台で似たような感じで熱々のものを食べたので、あったかもしれないと書いてみました
※当初違う商品名を書いてしまいました。すいません




