104 2週間ぶりの帰還
アルフレードは、2週間ぶりにフィレンタに帰って来た。
とりあえず、いろんな長さや重さの剣を持って帰って来ている。ヴィオラの剣の希望を聞いて、鍛治職人を中部に送ろうと思う。
喜んでくれるかな?
そんなワクワクした気持ちだったのに...
今の俺は、ヴィオラになんで謝ろうか、ドアの前でため息をついていた。
フィレンタに帰って早々、まさかヘルマンから、アン夫人がアンジェリカだと伝えてしまったと言われるとは思わなかった。
謝るしかないけど...口だけの謝罪は嫌う。
ヘルマンから経過を聞くと、彼女の言い分はもっともだった。
セバスティアン王になら、アン夫人の正体をすぐに伝えていたはず。ヴィオラには傷つけたくなくて言えなかった。それは、ヴィオラにとってはもっと屈辱的なことだっただろう。
はぁーー
話し合うか...
ドアを開けると...
腕立て伏せをしていた。
もう通常運転なのか、メイドも気にしてない
「た、ただいま。ヴィオラ...」
恐る恐る声をかける。
「...89...90...91...」
迂闊に声をかけてはいけない。
今、彼女は腕立て伏せ100を目指している。
ちらっとセバスティアンをみると、メイド監督の元、手を前に伏せた状態で、ぶんっ!と顔を上げている。
といってもまだ10センチ。
まさに顔を上げた!!と言う感じだ。
「うつ伏せ訓練中です」
こっちも練習中か!
なんとなく座ることが許されない空気が支配している。
必死でヴィオラとセバスティアンの訓練を力を入れて見つめる。
ただ、100を待つのみだ!
「...98...99...100!!!」
セバスティアンも、パタンと首が床につきそうになるところをメイドから仰向けに返される。
ゔぅーーー!
不満そうだ。セバスティアンはまだやりたいらしい。
一方でこっちは、床にばったりへたり込むヴィオラに、お疲れ様の声をかける。
「あら、アルフレード。帰って来たのね」
ヴィオラは滴る汗を拭いながら、豪快に紅茶を飲む。
「ただいま、ある程度話を詰めて来たよ。2週間ですごく体が締まってきたな」
お世辞ではない。
顔つきも違うし、背中の締まり方が明らかに違う。
「少し外に出て、刺激になったみたい。」
「今日は出たの?よかったら外を歩かないか?剣のサンプルも持って帰ったからみてほしいし」
「二人でデートなんて初めてね。嬉しいわ。授乳して汗を流してからだから1時間は待ってね」
ヴィオラは機嫌良くニコニコしている。
じゃあ後で...そう言いながらそわそわ玄関で行ったり来たりする。
から元気だろうか?怒りの前の静けさ?
少し心配になるけど、そうに見えない。
言われてみたら、デートか。
オリヴィアンでは、デートというのはなかった。
強いて言えば、最後に海を見に行ったが、二度と会えない未来を思ってたわけでデートとは程遠い。
二人で動く時は、必要に応じて動く移動だ。
その代わり、二人で勉強していたし、剣の訓練をしていたから、海軍訓練以外は、四六時中一緒にいた。
どうしよう?
ヘルマンを参考にしていいんだろうか?
うーん?素早いんだよな。手を握った時にはすでに腰に手が回っていて、手が動くと思っていたら肩を抱いていて、相手の唇は俺のもの...だからな。
どうやってあの技術を習得したんだ?
初夜の儀に失敗したし、あれは参考にしないほうがいいな。
自然体でいこう。
うん。そうだ!
産後に負担をかけるわけにいかないから、初夜の儀以降はそういう関係は控えている。
キスも帰って来た夜に一回きり。
そして、これから、また別居だろ。
オリヴィアンを奪還できたら、ヴィオラとセバスティアンと三人でゆっくりできるのかな。
オリヴィアンの時みたいに、みんなで朝食を食べて、毎朝訓練をしたり国民と触れ合って日々を過ごしたいな。
でも、俺もグリモワールの王にならないといけない。
そうすると、もう一人後継者がいるのか。
義務感で子供を作ったり育てるのは嫌だな。
俺やヴァルターみたいになってしまう。
悶々と考えるだけで、時が経つのは早い。
「アルフレード、お待たせ!」
扉の向こうから、澄んだ声。
振り向いた俺の視界に、青のワンピースを着たヴィオラが現れた。
髪をまとめ、ほのかに香水が香る。
「……綺麗だ」
思わず口に出ていた。
「ふふ、ありがとう。フィレンタの服なの」
「似合ってる。君は凛としてるから、こういう色が映える」
ヴィオラは少し照れくさそうに笑った。
俺も自然と笑い返す。
なんだ、ヘルマンの真似をしようとか考えなくていいのか。
俺はホッとした。
「行こうか」
「ええ。お散歩と……デートね」
二人は肩を並べ、ゆっくりと玄関を出た。
潮風の香るフィレンタの街が、穏やかに迎えてくれる。
次の瞬間――アルフレードの心は、久しぶりに軽かった。




