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【完結】政略婚の向こう側〜この二人どうなるの〜  作者: かんあずき


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101 婚礼の遺産と、祖父の決断

その頃、俺――アルフレードは、エドガー王に今後の相談をしていた。


机の上には、アンジェリカが婚礼の時に受け取った指輪、宝石の散りばめられたベルトや飾りが並べられている。

光が差し込み、きらりと冷たく光った。


「懐かしいな。ヴァルトシュタインの姫の婚礼に渡す物だからな。国の威信をかけて作らせたんだ」


エドガー王は、宝飾品のひとつを手に取り、指先で軽く撫でた。


「それと短剣。ヴィオラに渡したなら、あれはそのままでいい。代々、グリモワールの王妃に継がせるもんだ」


なんだかんだ言いながらも――アンジェリカはヴィオラにちゃんと“妻の証”を渡していた。ということになる。

まあ、悪口を言いながら手放したって話だから、単に処分したかっただけだろうけど。


……売られなかっただけマシか。


「アンジェリカのものだ。好きにしろ。売ってもいいし、宝石をバラして作り直してもいい」


国宝級の品なのに、エドガー王の声はやけにあっさりしていた。

破綻した夫婦に息子の死――もう執着はないのだろう。


「ヴィオラ姫にも意見を聞いてみたらどうだ?グリモワールの鍛冶職人は腕がいい。指輪やベルトもいいが――あの子、剣が好きなんだろ?立派な剣を贈ればきっと喜ぶぞ」


「……確かに、そうですね」


剣――。

そうだ、オリヴィアンからは持ってこられなかっただろう。

喜ぶ顔を想像すると、少し胸が熱くなる。


話をゆっくりする時間が欲しいんだよな。

イチャイチャしたい気持ちもある。


けど今は、セバスティアンが二、三時間ごとに泣くし、授乳の時間もある。メイドもいるし。

二人きりで話す時間なんて、ほとんどない。


「ヴィオラが剣の練習相手を探しているんです。でも、騎士団は嫌がると思うんです。女性だし、俺の妻だし、しかもオリヴィアンの姫ですから。怪我でもさせたら問題になる」


「ふむ。勝ち気な性格だと聞いたが?」


「はい。誰も引き受けてくれなかったら、猪と戦うって言ってます。しかも、わざと負けるのも嫌いです。産後で体力は落ちてるでしょうが……腕は、なかなかのものです」


「猪!? そりゃあ、また……」


エドガー王は眉を上げ、それからふっと笑った。


「いいじゃないか。――わしが相手をしよう」


「え、祖父上が!?」


「ちょうど中部と北部の視察に行こうと思っていたところだ。実力を見た上で、中部騎士団からわしが相手を選ぶ」


「それって……オリヴィアンの次期王ヴィオラとエドガー王が剣を交えるってことじゃないですか! 一歩間違えば戦争ですよ!」


「心配するな。わしは手加減はしない。本気でやり合う」


……いや、それが一番怖いんだけどな。


「お前はその間、南部で復興支援とヴァルトシュタインの情報を集めろ。アンジェリカが戻った理由がヴァルターのためだとしたら、グリモワールも無関係じゃ済まない。気になっていることもあるんだ」

エドガーは唸りながら俺に伝える。

だが、俺にとって聞き逃せないことがあった。


また――離れ離れになる。


「なんとか、一緒に過ごせませんか」

俺はつい、情けない声を出してしまった。


「俺にとって一番の優先順位は、彼女なんです。彼女だって両親を失って、国を奪われて……その上、子供を産んだばかりなんです。」


「そんな顔をするな。中北部を視察したら、全体の計画を立て直す。オリヴィアンの奪還が本来の目標だろう。私の旧邸が中部にあるからそこを使わせる。騎士団が守っているし、セキュリティも万全だ」


旧邸か……内乱中も落とせなかった場所。

たしかに、安心はできる。

中部への母子の移送は一緒に行ってもいいからと言われ、

「エドガー王の視察が終わったら、絶対、二人と一緒に居させてください」

と念押し。しぶしぶ頷くしかない。


「そういえば、俺の乳母って誰だったかご存知ですか?」


エドガー王は一瞬きょとんとした顔をした。


「アンナじゃないか?侍女頭の。覚えてなかったのか」


「……あまり良くしてもらった記憶はないです」


「小さい頃、お前はアンジェリカよりアンナに懐いていたんだぞ。病の時に降格されたが、その後また、アンジェリカが侍女頭に戻したはずだ」


アンジェリカの息がかかってるってことか?

味方か?敵か?


「……アンナと話してみようと思います。セバスティアンの世話人は、慎重に選ばないと。アンジェリカの件もありますし」


「まさか、アンジェリカが自分で世話してたとはな。孫だから、手を出せなかったのかもしれんが……」


「アンジェリカを理解するのは不可能だと思います」


俺はきっぱりと言った。

そうしないと、心がぐらついてしまいそうだった。


「それと――セバスティアンの洗礼式をしたいと思っています。洗礼を受けないと、いつまで経っても“名前がない子”のままですから」


「洗礼、か……。それはつまり、子供の存在を公にするということになる。狙われるぞ」


「わかっています。あの子は、ヴァルトシュタインとグリモワール、そしてオリヴィアンの血を引いています。一生、狙われることになるでしょう」


口に出すと、胸が重くなる。

成人するまで隠しておきたいくらいだ。


「洗礼は、オリヴィアン奪還の目処を立ててからの方がいいかもしれん。ヴァルトシュタインの内乱が長引くなら、好機もある」


エドガー王の瞳に、戦略家の光が宿っていた。


《歴史背景》

中世ヨーロッパの王侯貴族に送る宝飾品として、一つは宝石がついた結婚指輪、ネックレス、ティアラ、宝石箱などがありましたが、ベルトもその一つだったいう説があります。

ベルトには、女性の純潔や節制の意味もありベルベットに宝石、そして王妃には金銀の糸をつかったものをつけることが格式を表したと言われていました。

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