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斎藤家、ダンジョンと化す

「これ、お前ん家じゃね?」


 昼食後の眠気と格闘している最中、前の座席に座る笠原は振り返り自身のスマホを見せてきた。そこに映っている映像を見て、俺の眠気は一瞬で吹き飛ぶ。


 それは、SNSに投稿されている動画だった。そこに映っているのは紛れもなく俺の家。総二階ののっぺりとした外観に、二十年近い築年数を感じさせる外壁の汚れ。歪んだ郵便ポストから庭先の家庭菜園に至るまで、どこをどう見ても俺の家だった。


 そんな見慣れた我が家が、アホみたいに光り輝いている。


 今の時代を生きる人で、この光を知らない者はいない。これは――ダンジョン化の光だ。


 20XX年7月。世界各地で発生した謎の光は、光源となった箇所にダンジョンを出現させた。そこではゲームさながらにモンスターが発生し、普通の人では足を踏み入ることすら許されない魔鏡と化す。


 スカイツリーに大阪城、某夢の国に至るまで、ここ数年でありとあらゆる場所がダンジョンと化している。そして今回白羽の矢がたったのが、俺の家というわけだ。何がどうしてそうなった?


「斎藤! お前ん家ダンジョン化してるからはよ帰れ!」


 教室に飛び込むなり、担任がそう促す。その一言で放心状態から我に返った俺は、鞄を引っ掴んで教室を飛び出した。


 家までは徒歩十分。朝はギリギリまで惰眠を貪りたい派である俺は、近さのみで高校を選んだのだ。走れば五分ほどで帰ることができる。


 家がダンジョン化したらどうなるの? 俺の部屋は? ゲーム機は壊れてない? ネット回線繋げられるの? そのまま暮らせるの? ――中にいた、家族はどうなっている?


 脳裏を過る様々な不安を置き去りにするように、俺はひたすらに走った。到着した自宅の前には、野次馬や報道陣などが群がっている。


「通してください! 俺ん家です!」


 肩で息をしながら人混みを掻き分けようとすると、周囲が俺に注目した。


「この家の方ですか? ぜひお話を」


 レポーターが向けてきたマイクを跳ねのけ、あちこちでシャッター音を鳴らしているスマホに顔を写されまいと庇いながら、人混みを抜け出した俺は玄関を乱暴に開けて中に飛び込んだ。


「おかえり、創也(そうや)


 玄関の前では、斎藤一家が全員揃っていた。さすがはダンジョンで、それぞれの頭上に名前と肩書きが浮かんでいる。


 父・一徹(いってつ)。ダンジョンマスター。見た目はこれまで通りの気の弱そうなさえないおじさんだが、よく見ると薄くなった頭部に角が二本生えている。


 母・香奈子(かなこ)。サキュバス。初見ではドエロイお姉さんだひゃっほうと思ったが、母であることを知った時の俺の気持ちを300文字で述べよ。


 祖父・大治郎(だいじろう)。サイクロプス。ガリガリで歩くこともままならなかったじいちゃんが、単眼の筋肉モリモリの巨人になり、口の端から「フシュー」と息を吐きながら殺気立っている。


 妹・三香(みか)。メデューサ。引きこもりの末に伸びに伸びた髪が全て蛇になっている。何それ怖い。


 そして俺、創也。もちろんただの人間である。


 これは突如としてダンジョンとなってしまったこと以外は普通の家族の、ごくありふれた愛の物語である。多分。

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