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14 造られた存在

「オリジナルカードは世界に一つしかない。だからこそ入手が困難でその分市場価値も高い。

複製の《星6》カードよりも《星3》のオリジナルカードの方が高値で売れるくらいにはな」


 稀少価値は金銭的価値に繋がる。その常識は種族が異なるとはいえ理解できる感覚だ。


「つまり、このパンドラというカードはレア度に加え、オリジナル故に価値が跳ね上がっていると」

「そういうことだ。しかもただでさえ発売直後で話題沸騰中のカードなんだ。何が何でも手に入れたいって奴らはごまんといる。良い値を付けてくれるってならあんたにこのカードを譲ってもいいぜ」


 取り戻すべき最優先は我が軍勢の魔族達。そして傘下の魔族。次に一般の魔族たちだ。

 この男から入手経路を聞き出せなければ、このパンドラが何処からやって来た魔族なのかは分からない。

 質問を間違えたか⋯⋯。

 いや、待て⋯⋯?


「先ほどパンドラは発売直後と言ったな?」

「ん? あぁ、言ったが⋯⋯それがどうかしたのか?」

「他に新しく発売されたカードはあるか?」


 俺の疑問が正しければ⋯⋯人類は俺の想定以上に進化し、そして恐ろしい術を手に入れていることになる。


「⋯⋯あるけどよ、ちょっと待て」


 困惑したまま椅子の上に置いていた革製のバッグをゴソゴソと探り始める。


「ほら、これが先週発売されたばかりの第七弾新カードパック、『迷境への旅路』だ」


 切れ目の付いたツヤのある袋を五枚ほど取り出しテーブルの上に広げる。

 袋は既に開いているようだ。

 遠慮なく中のカードを見させてもらう。

 一枚の袋⋯⋯ゲインの言葉を借りるなら一パックにつき五枚のカードが入っているようだ。

 全て取り出し広げる。

 広げたカードを流し見て、そして疑問は確信へと変わった。

 

「やはりな⋯⋯」

「??」


 呟いた俺に対し、何が何だか分からないといった様子で首を傾げているゲイン。

 ゲインだけでなく、少なくともこの場では俺にしか分からない事なのだから困惑するのは当然だろうな。

 だがこの男の前で俺が気づいた事を言う訳にはいかない。


「第一弾のカードパックは持っているか?」

「第一弾だって? 残念だが今は持ってない。何でそんなこと聞くんだ?」

「ならば第一段のパックにあったカードの名前をいくつか教えろ」


 ゲインの質問を無視し、俺がそう尋ねると、眉を寄せながらもゲインは記憶を辿るように、その名前を上げていく。


「確か⋯⋯《水の精霊ウィリデーネ》、《精鋭兵ランペス》、《英明なる秘書官ジリス》なんかがあったか⋯⋯。あの頃は《星5》が最高レアだったんだよなー。でも今でも使ってるやつはよく見かけるな。中でも《遙かの終焉ミリディウム 》は今だに最強格扱いされてる」

 

 間違いない。同胞たちの名前だ。その後も思い出せる限りのカードを上げて貰ったが、その多くは我が軍に所属する魔族たちの名で、知らない魔族の名は一体か二体ほどしかなかった。

 これでハッキリしたな。

 魔族は造られている。

 元々魔術水晶板に改造を加え複製をすることで生み出された『HELLCLOUD』。

 だから当然カードの元は水晶板の中に封印された魔族たちだ。

 だがそれだけではなかった。

 いや、人間共にすれば、奴らも魔族そのものなのだろう。

 ゲームのために利用された魔族。そしてゲームのために新たに生み出された魔族がいるということだ。

 その証拠がこのパックだ。

 俺はテーブルの上に並べられた名も知らぬ魔族たちのカードを見る。

 中には俺の知る魔族の名もある。だがそれは少数だ。その多くは《混沌の死主パンドラ》を始めとする人工魔族。

 ⋯⋯人間と言うものはどこまで愚かな生き物なのか。


 ギリギリと拳を握りしめる。

 怒りで頭がおかしくなりそうだった。全くふざけている。

 魔族を遊びの道具にするだけでは飽き足らず、遊びのために魔族を一から造るなど!

 冒涜だ。

 人間共はかつて俺たちに人権や尊厳を訴えてきた。

 何故こんな酷い事が出来るのか、何故平和を壊してくるのかと。

 それが今度は自分たちが魔族を思うままに利用している。

 それこそ尊厳の欠片もない方法で。


 ああ⋯⋯やはり、相容れないのだ。

 人間と魔族が交わることは永遠にない。

 どちらかが栄えればどちらかが滅ぶ。そうでなければどちらかが滅ぶまで争う。

 そういう道しか残されていないのだ。

 そして、そういう道を選ぶことを人間は選んだのだ。

 『HELLCLOUD』というゲームを証として。


「おっ、旨そーだな」


 呑気にもゲインは運ばれて来た注文の品に嬉々とした声を上げる。


「んーっ、旨いなーコレ!」


 ⋯⋯はなから和解などという選択肢は存在しなかったのだ。

 力こそが強さの証明。『HELLCLOUD』だけでは足らない。

 我が同胞たちを取り戻し、人間の世界ごと再び支配下においてやるのだ。

 今度は生ぬるい手は使わない。徹底的に、恐怖のどん底に落としてやる。


「あーそうだ。オリジナルを見分ける方法だったな。これは簡単だぜ。カードってのは元々この世界を支配していたまお⋯⋯」


 テーブルを叩き、突然立ち上がった俺にゲインは驚いたように固まった。

 ゲインだけではない。声を掻き消す程に響いた大きな音に周囲の視線が集まり、途端にしんと静まり返る。

 後から思えば、今の俺は冷静さを欠いていたのかもしれない。

 自分でも理解していた。

 でも抑えきれない怒りが限界に達していた。

 残念で仕方がなかった。

 許せなかった。

 今の俺はどんな顔をしているのだろうか。

 そういえば、俺の顔はまだ見たことがなかったな。

 人間としての自分。忌まわしき、人間となってしまった醜い、自分の⋯⋯


「お、おいあんたどうしちまったんだよ?」


 ゲインは動揺しているようだった。

 目の前にはカード。同胞たちの名前が書かれたカードがある。

 そこで俺は名案を思い付いた。何故今まで気が付かなかったのだろうと不思議に思うぐらい、簡単な事だったというのに。今の今まで考えすらしなかった。

 俺はテーブルの上に広げられたカードに手をかざす。

 オリジナルとそれ以外を見分ける方法?

 この男に聞くまでもなかった。

 封印を解けばいいのだ。

 元々このカードは俺が放った水晶板からできているのだ。

 俺ならば造作もなくこの封印を解くことが出来る。


 右の手の平に魔力を込める。

 冷たさと暖かさが同時に来る独特の感覚がする。

 

「おいっ、あんた一体何を⋯⋯!」


 無駄だ。誰が何を言おうと、止まることはない。

 魔力が結集し、淡い光を放ち始める。

 さぁ、再び始めるのだ。魔族の世界を────!


「あるじ様?」


 光が露散した。かざした手の平に触れたのは小さく細い手だった。

 それと同時に、俺の耳に飛び込んできたのは、幼い少女の声だった。

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