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13 ゲイン・ショット

 俺はさらにテーブルに近づき、そこに座っていた男の目の前に立った。

 近くにいた別の男と話し込んでいた男は、俺が現れたことに気づき会話を中断して俺に視線を向ける。

 値踏みするような視線は、俺の服装や人相から商談相手としてふさわしいか確認しているといったところか。


「何だいあんた。もしかして、あんたもこのカードを狙ってるのか?」


 品定めは終わったようだ。先ほど会話を交わしていた男に手を上げ簡単に取引の終了を告げると、テーブルに肘をかけて俺の方に身体を向け座りなおした。

 俺の方が商談相手にふさわしいと判断されたようだ。

 だが生憎、俺は男の言う様に《星6》のカードが欲しいわけではない。

 欲しいとすればその周りにあるカードだ。その中には俺のよく知る配下の魔族たちの姿もあった。

 だが彼らの名前が書かれたカードは複数枚あり、どれも一定レベルの魔力の気を感じる。

 あの女神の言った通り、水晶板は確かに複製され大量に作られているようだ。

 この中にはオリジナルはない可能性が高い。

 しかしこのパンドラだけは明らかに違う気配を感じる。


「いや、だがそのパンドラというカードには興味がある」

「それは狙ってるってことと同じだと思うが⋯⋯まあいい。俺の名はゲイン・ショット。別の町から来たバイヤーってやつだ。よろしく」


 そう言って手を差し出す男。情報を得るためだ。友好的に接しておいて損はないか。

 俺もそう判断し、その手を握り返す。


「で、俺とこのカードにどんな用件だ?俺はこの後もあちこちに呼ばれててな。なるべく早く済ませてくれると助かる」


 呼ばれている理由は十中八九このパンドラの件だろうな。

 複数の引相手と取引し、一番いい条件を出した相手に譲る。バイヤーのやり方は今も昔も変わらないようだな。


「俺が要求するのは情報だ。そして、そこにあるカードを何枚か譲ってくれればそれでいい」

「そりゃ気になる話だな。俺のような奴が、あんたみたいな身なりの人間から情報をくれなんて言われることは滅多にない」


 取引はすれど、奴はあくまでバイヤー。仕事柄裏の情報を手にすることはあるのかもしれないが、情報屋ではないのだから当然だろう。

 俺は何も裏社会の秘密を求めているわけではない。だからそのような専門家の手を借りる必要はない。

 むしろ俺にとってはカードを所持するこのバイヤーこそが情報屋といえよう。

 俺の知りたい情報をこの男は持っている。

 それはこの男でなくともいいのかもしれないが、今が絶好の機会だ。

 この機は逃さない。

 ただ、問題は⋯⋯

 俺はテーブルを取り囲む観客たちに視線をやる。


「気になるか?」


 さりげなくしたつもりだったが、気づいていたようだ。

 聞かれて困るという程ではないが、あまり俺が『HELLCLOUD』について探っていることが広まるのも面倒だ。

 俺は視線で肯定の意を伝えると、ゲインはふっと笑い周囲の男たちに向かって声を上げた。


「こちらの旦那が商談相手になってくれるみたいだ。だからお前らには売れねーよ、悪いな」


 とても悪びれのある様子ではなかったが、男たちはそれで納得したようだ。

 残念そうに文句を言いながらも渋々離れていく。

 自分に売ってくれるとははなから期待していなかったのかもしれないな。

 

「また掘り出し物が見つかったら教えてくれよーゲイン!」

「ああ、分かってるさ」


 と手を振り、手慣れた様子で返していく。

 あっという間にテーブルには俺とこのゲインという名の男二人だけになった。


「さ、あんたも座りな。何か頼むか?」

「いや、必要ない」


 先ほど昼飯を済ませたところだ。ゲインの提案を断ると、ゲインは近くにいた店員を呼び止めて自分の分だけを注文した。

 俺も着席し、店員が離れたところを見計らい本題に入らせてもらうことにする。


「俺が知りたいことは三つだ。貴様が持つカードは何処で手に入れたものなのか、これらのカードはオリジナルなのか、そしてどうやってオリジナルとそれ以外を見分けているのかだ」


 相手に情報を求める際の基本は、相手に自分の知りたい事を簡潔に伝える事、そして相手に自分の価値を理解させる事だとかつて交渉役を担っていた幹部は言っていた。

 現に、この男は俺のことをただの庶民ではなく上流階級の人間だと思っているから奴らを引き下がらせこの場を用意した。

 

「何処で手に入れた⋯⋯か。残念だがその質問には答えられないな」


 俺はその理由を問う。


「簡単な事だ。金儲けのためさ。俺はあちこちを渡り歩いてカードの取引をしているが、カードの仕入れ先を見つけるのは楽じゃない。特に、このパンドラみたいな市場で超高額な取引をされるようなカードが手に入る場所なんてのはな。もしその存在が広まっちまえば、大勢の奴らがそこへ群がってくる。ようは俺だけにカードを渡して貰いたいからあんまり目を付けられちまうと困るって訳よ。ああ、言っとくが、いくら金を積まれたからって無理だぜ?これは俺だけの秘密だ」


 商売の邪魔をされては困るから言えないという事か。

 この手のバイヤーだけあって金に貪欲であるのは違いないが、少なくとも考えてはいるようだな。


「そんな質問してくるってことはあんた初心者だろ? 仕入れ先自体は教えられねえが、仕入れる方法なら教えてやれる。初心者には耳よりな情報だと思うぜ? 後、他の二つの質問に関しても答えられる」


 身を乗り出してニヤリと笑みを浮かべるゲイン。

 やはり初心者を表に出していく方がこういう相手には優位に働くようだ。

 こちらが何も知らないと思って要求意外の事にも答えてくれる。

 事実、俺はゲームに関しては無知そのものなのだがな。


「方法はいくつかあるが、まあ一般的なのは店で買うことだな」

「店? カードは店で売っているのか?」

「ああ。この町にはないが、他所に行けば『HELLCLOUD』のカードだけを取り扱ってる専門店なんかもある。専門店だけあってカードの種類も豊富だ。かなり初期のカードも売ってたりするから、連日多くのゲームファンがこぞって訪れる」


 専門店が作られる程の人気か⋯⋯。一体その専門店の規模がどれ程なのかは予測ができないが、もしかすると想定以上に目的を達成するのは困難かもしれないな。


「そこにオリジナルも置いているのか?」

「置いてる場合もある。だが、オリジナルはレア中のレアものだ。あんたの質問の中にパンドラがオリジナルかってのがあったろ?このパンドラなんかが良い例だ」


 ゲインはパンドラのカードを手に取り俺に見せる。


「《混沌の死主パンドラ》。つい最近発表されたばかりの新カード。あんまり大きな声じゃ言えないが、これはそのオリジナルだ」


 金色に枠と虹色のホログラムが明かりを受けて煌めく。

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