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12 ☆6のカード

「何だ? アンタも気になってるのか?」


 近づいてきた俺に気づいた男の一人が尋ねてきた。


「あぁ。あまりに盛り上がっているようなのでな。何をそんなに騒いでいる?」


 すると、今だ興奮冷めきらぬ様子の男がテーブルの上のカードを指さす。

 

「そこの奴が超レアカードを手に入れたんだってよ! ホント羨ましいぜ!」


 チョウ⋯⋯レア⋯⋯? 何だそれは。

 肩越しにテーブルを覗き見る。

 どうやらこの男たちが盛り上がっているのは、複数あるカードのうち、真ん中にあったカードについてのようだ。

 カードには黒色のゴスロリ衣装に身を包んだ少女のイラストが描かれている。その少女は、灰色の髪を縦ロールに結い上げ、蠱惑的な微笑みを浮かべている。

 カード名は《混沌の死主パンドラ》。

 知らない名だ。俺が魔王として君臨した300年の間にも、それ以前にもこのような名と姿の魔族には出会ったこともないし、耳にしたこともない。

 どういうことだ?

 『HELLCLOUD』は俺の放った水晶板から作られたカードだったはずだ。

 気づかないうちに、この魔族も封印していた⋯⋯ということか?

 いや、封印越しでも分かる魔力の気⋯⋯これほどの魔族の存在を俺が知らなかったなんてことが有りえるのか?

 次々に押し寄せる不可解な点に自問する。

 しかし考えられるどの答えもただの可能性でしかない。

 真実を見つけるためにはやはり情報が必要だ。


「うおっ!?マジかよっ、《星6》の超レアカード!」

「おい一体どこで手に入れたんだよ!? 教えてくれ!」


 いつの間にか騒ぎを聞きつけた人間たちで周囲はちょっとした人だかりができていた。

 

「そのチョウレアはそんなに凄いカードなのか?」

「凄いってそりゃそうだろ、あんた知らないのか?」


 その口ぶりからするに、少なくともカード所有者にとっては常識レベルの話らしい。

 興奮しながらまくしたてながらカードの素晴らしさについて説明される。

 あまりにも早口かつよく分からない表現が多かったが、聞き取れた所々から推察するに、つまりはこういうことのようだ。

 つまり、この『混沌の死主パンドラ』というカードは最高レア《星6》のカードで、その中でもなかなか入手できない珍しいカードということらしい。

 あの女神は俺に頼み事をしておいて肝心なルールについては教えてはくれなかったからな。

 人間の身体の機能なんかを教える暇があるのなら、もっと有益な情報を寄越して貰いたかったものだ。

 まあ今更言ったところで手遅れだがな。


「《星6》の存在を知らないってことはあんた、カード収集者じゃないのか」


 そう言って肩を降ろす男。何故俺がガッカリされなければならないんだ。

 

「この町ではゲームが禁止されているのに何故カードを集める必要がある?」


 『HELLCLOUD』はカードを使い魔族を召喚して戦わせるゲームだ。

 ゲームもできないのにカードを持っていても意味はない。

 腐った林檎や壊れた時計に価値がないように、使用する場のないカードになんの価値があるのか。

 魔族たちの統率者であった俺ならともかく、少なくとも人間たちは魔族たちに仲間意識などは持っていないはずだ。

 それとも、路地裏のあの男のように大切な思い出だと言いだすのだろうか。

 しかし、この場にいる人間たちにとっては違うらしい。


「何言ってんだよ、集めるのが楽しいんじゃないか。低レアならともかく、パンドラみたいな高レアは手に入りにくい。だからこそゲットした時の喜びは半端じゃない。今だって、皆興奮してるだろ?自分のカードじゃないってのに」


 我が同胞たちを勝手にランク付けした上、収集を楽しむなど、到底許し難い。

 だが⋯⋯そう言う男の瞳には熱が込められていた。まるで少年のような曇りのない輝きがそこには見える。

 魔族を隷属化していた金の亡者共とは違う⋯⋯打算的な狡猾さはない。あるのはただ純粋な輝きだけだった。


「この町の古臭い年寄り共はいつまでも魔族の恐怖やら勇者の英雄伝やらを説いて一向にゲームを許可しちゃくれねえ。だからこの町は勇者様が守ってくれた頃のまんまで時が止まってるんだ。でもそれもいつかは変わる。だからこそ、来たるべき『HELLCLOUD』解禁の日のためにも強いカードを集めておかないとな」


 どうやらこの町でのゲーム禁止に賛同しているのは上の人間と一部の年寄りだけのようだ。

 反対派の若者たちの中にはゲームしたさに外の町に移住する者もいるのだそう。


「まあカードを集める理由は人それぞれだ。中には高額で売るために高レアカードを求める奴もいる。あんたこの町の奴じゃなさそうだし、他の町なら禁止されてないとこも多い。興味があるならやってみたらどうだ?」


 なんとこの男は過去に一度旅行に行った際に、ゲームをしたことがあるそうだ。

 「楽しいぞー『HELLCLOUD』は」と俺にだけ聞こえる声で耳打ちする。

 奴らにとって、『HELLCLOUD』はただのお遊びではないということか。

 人間たちをそこまで魅了するゲーム。

 いくら説明されようと俺にはその理由がさっぱり分からんがな。

 だが、やはり見に来てよかった。

 少なくとも『HELLCLOUD』が町の多くの人間たちの間では好意的な印象を持たれていること、そしてカードにはレア度というものが存在し、そのレア度によって市場価値や入手の難易度も異なるということが分かった。

 そして何よりもの収穫は⋯⋯。

 俺はテーブルの上にある一枚のカードを見る。

 《星3》や《星4》のカードが並ぶ中、そのカードは枠が金色なだけでなく、特別なホログラムも施されているようで、虹色に輝いていた。

 《混沌の死主パンドラ》——俺の知らない魔族。

 この魔族が一体何者なのか知る必要がある。

 そして、俺の知らない魔族が何故封印水晶板が元になっているカードに封印されているのか、その答えを。

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