5. 幽霊の谷への道
幽霊の谷へは、馬車で半日ほど。ガルドとリリエは、ギルドが手配した簡素な馬車に揺られていた。馬車の荷台には、ガルドの巨大な盾とリリエの小さな薬草袋が並んでいる。
「ガルド、幽霊って…本当にいるのかな?」
リリエが少し不安そうに言う。彼女の手は、杖を握りしめている。
「さあな。幽霊だろうがモンスターだろうが、俺の盾で防ぐ。心配するな。」
ガルドは落ち着いた声で答えるが、内心では別の戦いが始まっていた。
(二人きりだ…。何か話さなきゃ。キールならこういう時、軽口で場を和ませるんだろ? でも、俺には…)
「リリエ、お前、ヒーラーになったのはなんでだ?」
思わず口をついて出た質問に、リリエが目を丸くする。
「え、急にどうしたの? うーん…私、昔、村で病気になった子を助けられなかったことがあって…。それで、癒しの魔法を学びたいって思ったの。誰かを守れる力、欲しかったんだ。」
リリエの声は少し遠く、でも温かかった。ガルドは彼女の横顔を見つめ、初めて知る過去に胸が締め付けられる。
「…立派だな。俺なんか、タンクになったのはただ頑丈だったからだ。」
ガルドが自嘲気味に言うと、リリエが首を振る。
「そんなことないよ! ガルドのタンクは、みんなの命を守ってる。…私の魔法だって、ガルドが前にいてくれるから、ちゃんと届けられるんだから。」
その言葉に、ガルドの胸が熱くなる。
(リリエ…お前、なんでそんなまっすぐなこと言うんだ…)
馬車が谷の入り口に着く頃、ガルドは小さな勇気を振り絞った。
「リリエ、今日、絶対守る。約束する。」
「うん、信じてるよ! 私も、ガルドを絶対癒すから!」
リリエの笑顔に、ガルドは心の中で叫んだ。
この笑顔、守るためなら、幽霊どころか魔王とも戦える…!