2. 初めてのクエストと心の揺れ
その日のクエストは、ルナリス近郊の森で暴れる『鉄牙の猪』の討伐だった。猪といっても、普通の獣ではない。体長3メートル、牙は鋼のように硬く、突進すれば岩すら砕く魔獣だ。
森の奥、木々がざわめく中、パーティーはいつものフォーメーションを取る。ガルドが最前線で盾を構え、ミラが木の上から弓を放ち、キールが後方から炎の魔法を詠唱。リリエは少し離れた位置で、癒しの魔法の準備をする。
「来るぞ!」
ガルドが叫ぶと、地面を揺らして鉄牙の猪が突進してきた。その牙がガルドの盾に激突し、甲高い金属音が響く。
「うおっ、重い…! けど、こんなの慣れっこだ!」ガルドは踏ん張り、猪の突進を正面で受け止める。
「ガルド、ナイス! ミラ、撃って!」
キールが叫びながら、火球を猪の背中に叩き込む。
ミラの矢が猪の目を狙い、鋭い音を立てて命中。猪が咆哮を上げ、動きが鈍る。ガルドはその隙に盾で猪の頭を叩き、地面に叩きつけた。
「リリエ、俺は大丈夫だ! 魔力温存しろ!」
ガルドが振り返らずに叫ぶ。
「でも、ガルドの腕、血が…!」
リリエが心配そうに手を伸ばす。
「このくらい、かすり傷だ! お前は自分の安全を―」
その瞬間、猪が最後の力を振り絞って跳ね上がり、ガルドに突っ込んできた。ガルドは咄嗟に盾を構えるが、衝撃で後ろに吹き飛ばされる。
「ガルド!」
リリエが叫び、癒しの魔法を放つ。柔らかな光がガルドを包み、傷がみるみる癒えていく。
「…サンキュ、リリエ。」ガルドは立ち上がり、猪に止めを刺した。
戦闘後、パーティーは森の清流で休憩を取った。キールは「いや~、ガルドのタンクっぷり、相変わらずバッチリ!」と笑い、ミラは「リリエのヒールがなかったら、ガルド、今頃猪の餌だね」とからかう。
リリエはガルドの隣に座り、腕の傷を改めて確認する。「ガルド、無茶しないでね。私、ガルドがそんな傷だらけになるの…心が痛むよ。」
その言葉に、ガルドの心は大きく揺れた。
(リリエが…俺を心配? いや、ヒーラーとして当然だろ。…でも、なんでこんなに胸が熱いんだ?)