18. 誤解と小さな亀裂
翌朝、パーティーは山脈の奥へ進む。道はさらに険しくなり、瘴気の匂いが強くなる。ガルドは先頭で盾を構え、リリエを後ろに置く。だが、リリエの様子が気になる。彼女は杖を握りしめ、時折、空を見つめる。
「リリエ、なんか感じるか?」
ガルドが振り返る。
「うん…瘴気が濃い。なんか、頭が重い感じ…。」
リリエが額を押さえる。
「無理すんな。魔力温存しろ。敵が出たら、俺が全部受ける。」
ガルドの声は力強いが、リリエが小さく首を振る。
「ガルド、いつも守ってくれてありがとう。でも…私、もっと強くなりたい。ガルドにばかり頼ってたら、ダメだよね。」
その言葉に、ガルドが一瞬固まる。
「…お前、十分強い。俺には、お前の魔法がなきゃ戦えねえ。」
「でも、私、ガルドみたいに、誰かを直接守れない。…もっと、みんなの力になりたいの。」
リリエの目は真剣だ。ガルドは彼女の決意を感じ、だが、どこか不安がよぎる。
その時、キールが叫ぶ。
「おっと、敵襲! 前方、瘴気モンスター!」
岩場から、瘴気をまとった巨大な熊型魔獣『ミアズマベア』が現れる。体長4メートル、爪は黒く光り、咆哮が谷を震わせる。
「全員、戦闘準備! リリエ、後ろ!」
ガルドが盾を構え、ミアズマベアの突進を受け止める。衝撃で地面が砕け、ガルドの腕に傷が走る。
「ガルド、傷! すぐ癒す!」
リリエが癒しの魔法を放つが、瘴気の影響で魔力が乱れ、光が弱い。
「リリエ、無理すんな! キール、ミラ、攻撃だ!」
ガルドが叫ぶ。
「了解! ファイアストーム!」
キールが炎の嵐を放ち、ミアズマベアの毛皮を焼く。
「目、狙うよ!」
ミラの矢が熊の目を貫き、動きを鈍らせる。だが、瘴気が濃くなり、リリエが膝をつく。
「リリエ!」
ガルドが振り返るが、ミアズマベアの爪が彼の背を狙う。リリエが咄嗟に「聖なる守護」を唱え、バリアでガルドを守るが、魔力の消耗で倒れそうになる。
「リリエ、下がれ! お前が倒れたら、俺たちは…!」
ガルドの声に、リリエが叫び返す。
「ガルド、私、役に立ちたいの! 守られてばかりじゃ…!」
その言葉が、ガルドの心に刺さる。彼女を守りたいのに、彼女は自分の力を証明しようとしている。そのすれ違いが、戦闘の混乱を増す。
キールの炎とミラの矢でミアズマベアを倒し、瘴気が薄れる。ガルドはリリエに駆け寄る。
「リリエ、無茶すんな。…お前がいなきゃ、俺たちはダメなんだ。」
「ガルド…ごめん。…でも、私、もっと強くなりたい。」
リリエの目は涙で濡れている。ガルドは言葉に詰まり、ただ彼女の肩を握る。