17. リリエの過去と魔法の影
鉄鉱山脈への道は険しい。岩だらけの山道、冷たい風、時折聞こえる魔獣の遠吠え。馬車は揺れ、パーティーは2日目の夜、狭い谷間でキャンプを張った。
焚き火を囲み、キールが干し肉を齧りながら喋る。「なぁ、鉄鉱山脈って、昔、魔王軍の要塞があったんだろ? なんか、ロマンあるよな! 隠された宝とか、呪われた剣とか出てこねえかな?」
「宝より、生きて帰る方が大事でしょ。瘴気の話、本気でヤバそうなんだから。」
ミラがキールを睨む。
ガルドは黙って焚き火を見つめ、リリエは膝を抱えて座る。彼女の目は、炎の揺らめきを追うように遠い。
「リリエ、寒くねえか? 毛布やるぞ。」
ガルドが自分の毛布を差し出す。
「え、ううん、大丈夫! でも…ありがとう、ガルド。」
リリエが微笑むが、その声は少し弱い。ガルドは彼女の様子に気づく。
「…なんか、変だな。お前、昨日から考え込んでる。話せるなら、話してみろ。」
リリエが一瞬目を逸らし、ため息をつく。「…うん。実は、この山脈に来てから、なんか…変な感じがするの。私の魔法、いつもよりざわついてるっていうか…。」
「ざわついてる?」
ガルドが眉を寄せる。キールとミラも会話に耳を傾ける。
リリエがゆっくり話し始める。「私、前に話したよね。子どもの頃、病気で死にかけて、変な光に魔法を貰ったって。あの時の光…この山脈に近づいてから、また感じるの。遠くで、誰かが呼んでるみたいな…。怖いんだ。」
彼女の声は震え、ガルドの胸が締め付けられる。彼女の過去――その詳細を聞くのは初めてだ。
「リリエ、その光…どんなだった?」
ガルドの声は低く、慎重だ。
リリエが目を閉じる。「…覚えてるのは、青白い光。暖かくて、でも、どこか冷たい感じ。声はなかったけど、頭の中に直接響いてきた。『生きなさい。癒しなさい』って。それで目が覚めたら、病気は治ってて、癒しの魔法が使えたの。でも…その光、ただの奇跡じゃなかった。時々、夢で見るんだ。光の奥に、なんか…暗い影があるの。」
「暗い影?」
ミラが身を乗り出す。
「うん。…はっきり見えないけど、怖い。まるで、私の魔法を監視してるみたい。この山脈に来てから、その影が近くなった気がする。」
リリエが体を縮こませる。ガルドは彼女の肩に手を置く。
「リリエ、どんな影だろうと、俺がぶっ潰す。お前の魔法が何と繋がってても、お前は俺たちのヒーラーだ。それで十分だ。」
「ガルド…」
リリエの目が潤む。
キールが咳払いする。「おっと、感動的だけどさ、リリエちゃん、その影って、魔王軍と関係あるんじゃね? 瘴気とか、なんか似てる雰囲気するし。」
「キール、軽々しく言うな。…でも、可能性はある。」
ガルドがキールを睨む。
「ごめん、リリエ、怖がらせた! でも、俺の炎魔法で、どんな影も焼き尽くすから!」
キールがウィンクする。
ミラが笑う。「キール、ほんと口だけは達者ね。リリエ、ガルドがいるんだから、安心しなよ。あいつ、壁以上に頑固だから。」
リリエが小さく笑う。「うん…みんな、ありがとう。ほんと、みんながいるから、怖くても頑張れる。」