16. 鉄鉱山脈への出発
ルナリスの街は、朝霧に包まれていた。ギルド『星屑の剣』の前には、鉄鉱山脈に向かう冒険者たちの馬車が並ぶ。ガルドのパーティー――ガルド、リリエ、キール、ミラ――は、荷物を詰め込み、緊張と期待の入り混じった空気の中で準備を進めていた。
ガルドは巨大な盾を馬車に固定し、鎧のベルトを締める。セリナの言葉――「魔王軍の残党が動き出している」――が頭を離れない。だが、それ以上に、リリエの秘密が気になる。彼女の魔法が何か大きなものと繋がっているなら、この任務はただの調査ではないかもしれない。
「ガルド、荷物、こんなに持って大丈夫? 重そう…」
リリエが心配そうに近づく。白いローブに小さな薬草袋を提げ、彼女の金髪が朝日で輝く。
「このくらい、いつも通りだ。リリエこそ、魔力の準備はいいか?」
ガルドの声は落ち着いているが、彼女の疲れた目を見逃さない。
「うん、ちゃんと休んだから! ガルドの傷、絶対癒すからね!」
リリエが拳を握って笑う。その純粋さに、ガルドの心が少し軽くなる。
「よぉ、恋人同士の朝イチャ、終わった? 馬車出るぞ!」
キールが赤いローブを翻し、ニヤニヤしながら割り込む。
「キール、黙れ。…準備はできてるか?」
ガルドが睨む。
「バッチリ! 俺の炎魔法で、魔王軍だろうが焼き尽くすぜ!」
キールが杖を振り回すと、ミラが呆れた顔で現れる。
「キール、杖振り回すのやめて。馬車燃やす気? ガルド、リリエ、準備OK?」
ミラの弓が肩にかけられ、黒髪のポニーテールが揺れる。
「うん、いつでも! みんなでなら、怖くないよ!」
リリエが明るく答える。
馬車が動き出し、鉄鉱山脈への旅が始まった。だが、ガルドの胸には、なぜか不穏な予感が広がっていた。