14. 静かな夜と心の告白
その夜、ガルドはギルドの屋上に一人でいた。ルナリスの街の灯りが瞬く中、星空が広がっている。彼の心は、今日の出来事――瘴気結晶、リリエの秘密、自身の過去――でざわついていた。
石の手すりを握り、指が白くなる。「守るのが俺の仕事だ。なのに、なんでリリエのことになると、こんな…弱気になるんだ?」
背後で軽い足音が響く。振り返ると、リリエが小さなランタンを持って立っていた。ローブが月光に輝き、まるで夜の精霊のようだ。
「ガルド? やっぱりここにいた。」
リリエの声は柔らかく、ガルドの心を落ち着かせる。
「…心配かけて悪かった。ちょっと、頭冷やしたかっただけだ。」
ガルドは体をずらし、居心地悪そうに呟く。
リリエはランタンを石に置き、そばに立つ。「帰ってから、なんか静かだったから…。私、さっき、秘密の話、ちょっとだけしたけど…ガルドが自分の過去を話してくれたみたいに、私も少し、話したいなって。」
ガルドの心臓が跳ねる。「リリエ、俺に借りなんてねえ。待つって言っただろ。」
「うん、知ってる。でも…話したいの。」
リリエは深呼吸し、指を絡ませる。「私の癒しの魔法…ただ学んだものじゃないの。子どもの頃、死にそうな病気にかかったことがあって…。誰も助けられないって言われた夜、変な光が現れたの。言葉のない声みたいなものが、私にこの力をくれた。でも、同時に…私、変わったんだ。」
「変わった?」
ガルドの声は慎重だ。
リリエが頷く。「うまく説明できないけど…時々、自分のじゃない気持ちや痛みを感じるの。あの谷の幽霊とか、今日の結晶の悲しみとか。私の魔法、なんか…古いものと繋がってる気がする。それが怖いんだ。だって、何を求められてるのか、わからないから。」
ガルドは黙って聞く。彼女の言葉は、彼が村を失った日の無力感を呼び起こす。だが、それ以上に、リリエをこの「何か」から守りたいという衝動が湧く。
「リリエ…それ、一人で背負うには重すぎる。」
ガルドはようやく口を開く。「でも、お前は一人じゃねえ。俺たちがいる。…俺がいる。どんな力だろうと、一緒に解き明かす。約束する。」
リリエの目が潤み、でも笑顔が広がる。「ありがとう、ガルド。…ほんと、ガルドって、優しいね。」
二人はしばらく、夜の静けさに身を委ねる。ガルドはもっと言いたい――リリエの存在が、自分をただの壁じゃなく、もっと人間らしくしてくれるって。でも、言葉は喉に詰まる。代わりに、彼は不器用に彼女の肩に手を置く。軽く、でもしっかり。
リリエは引かず、ほんの少し身を寄せる。その小さな温もりに、ガルドの心は戦場より激しく鼓動する。