10. 遺跡への旅とガルドの記憶
パーティーは馬車で遺跡に向かった。森の道は狭く、木々の間から差し込む陽光が馬車を揺らす。ガルドは盾を膝に置き、リリエの隣に座っていた。キールとミラは馬車の後ろで、トランプで賭け事をしている。
「リリエ、遺跡の話、セリナから何か聞いてるか?」
ガルドが口を開く。少しでも彼女と話したい、という気持ちが自分でも驚くほど強い。
「うん、セリナさん、こう言ってた。『その遺跡は、昔、魔王軍が封印された場所かもしれない』って。瘴気が関係してるなら…何か、大きな力が動いてるのかも。」
リリエの声は少し不安げだ。彼女の手が、薬草袋の紐をぎゅっと握る。
「…魔王軍、か。俺たちが生まれる前の話だろ。けど、瘴気は本物だった。油断できねえな。」
ガルドの言葉に、リリエが頷く。
「ガルド、もし魔王軍が本当に復活したら…怖いよね。でも、ガルドがいるから、私、頑張れる気がする。」
「…リリエ。」
ガルドは彼女の真剣な瞳を見て、胸が熱くなる。だが、同時に、遠い記憶が蘇る。
◇◆◇◆
それは、ガルドがまだ冒険者になる前のこと。山間の小さな村で、彼はただの鍛冶屋の息子だった。だが、ある日、村を魔獣の群れが襲った。ガルドは、家族を守ろうと父親の作った盾を手に戦ったが、力不足だった。村は壊滅し、両親は彼を庇って死に、ガルドは深い傷を負った。
「俺は…守れなかった。」
あの日の後、ガルドはタンクになることを誓った。誰かを失う痛みを二度と味わわないために。彼は感情を押し殺し、ただの「壁」として生きることを選んだ。
◇◆◇◆
「ガルド? 大丈夫?」
リリエの声で、ガルドは我に返る。彼女の心配そうな顔が、すぐ近くにある。
「ああ、…ちょっと考え事だ。気にすんな。」
「うそ。ガルド、なんか悲しそうな顔してた。…私、ヒーラーだから、体の傷だけじゃなくて、心の傷もわかるよ?」
リリエの言葉に、ガルドは息を呑む。
(心の傷…。こいつ、なんでこんなまっすぐ…)
「リリエ、俺は…」
ガルドが言葉を続けようとした時、キールが叫んだ。
「おっと、馬車止まった! 到着だぜ、遺跡の入り口!」