プロローグ:タンクの心得
ガルドにとって、「タンク」とはただの役割ではない。それは生き方であり、誓いだった。
冒険者ギルド「星屑の剣」の一員として、彼はどんな危険なクエストでも最前線に立つ。巨大な盾を構え、モンスターの爪や魔法の炎を受け止め、仲間を守る。それがタンクの仕事だ。傷だらけのフルプレートアーマー、2メートルの巨体、ゴーレムのような無表情――すべてが「動く城塞」と呼ばれる彼の象徴だった。
だが、ガルドの心には、誰も知らない脆い部分があった。
「ガルド、いつもありがとう! ほら、傷だらけだよ、じっとしてて!」
その声は、ギルドのヒーラー、リリエのものだ。彼女の癒しの魔法が放たれるたび、ガルドの傷は消え、痛みは和らぐ。だが、同時に彼の心は別の痛みで締め付けられる。
(リリエ…お前の笑顔、俺には眩しすぎるんだ…)
リリエは、まるで森の精霊のような少女。金髪は陽光を浴びて輝き、エメラルドグリーンの瞳は優しさで満ちている。彼女の魔法は命を救い、彼女の笑顔は心を癒す。ギルドの誰もが、彼女を「星屑の剣の光」と呼んだ。
ガルドは知っていた。タンクは壁であり、感情を押し殺して仲間を守る存在だ。恋愛なんて、鉄壁の盾には不要なもの。なのに、リリエの笑顔を見るたび、彼の心はまるで新米冒険者のように震えてしまう。
「タンクでも、ヒーラーを想っていいのか…?」
その問いは、ガルドの胸に重くのしかかっていた。