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ドラゴンファング 反逆の騎士は姫の膝枕で目覚め、世界に復讐する  作者: 雪乃 霜鳥
一章 反逆の騎士 ウィル・ハワード
4/7

私のご主人様

 正義は僕の手の中にある――

 ウィルは頭の片隅で、自分ではないような強気な物言いに、恐ろしさを覚えた。けれど、手に握っている剣の輝きが、ウィルの思考を鈍らせた。剣はウィルを認めるように光り輝いていたし、ウィルはその輝きに魅入られていた。

「ウィル!」

 切なげな叫び声に顔をあげると、アンバー姫の紫色の瞳と目が合った。ぐん、と意識が吸い込まれ、その瞳の中の、母なるドラゴンが、ウィルの真意を見極めようとのぞき込んでいる気がして、ウィルは息を呑む。そしてウィルは、魅入られたまま剣を振った。

「ああああああああ!」

 テオの斬撃は、ウィルの剣戟によって打ち消され、テオの身体が後ろに吹き飛ぶ。そこで、ウィルは驚きで正気に返った。

「わ、テオ先輩、すみません!」

「ウィル!」

「わぁ! アンバー姫! な、な、何を!」

 何をなさるのです、という言葉が、頭から吹き飛ぶ。アンバー姫が、飛びついて、もとい、抱き着いてきている。テオへの心配も当然吹き飛んだ。

「ウィル、貴方が、使い手だったのですね。貴方が、私のご主人様! やっと会えました!」

 花のような香りが、ウィルの鼻孔をくすぐる。

 使い手? 自分が?

 ――アンバー姫の、ご主人様?

 アンバー姫が、腕に力を込めたのか、身体が蛇に巻き付かれたかのように苦しくなる。可憐な少女の姿をしているが、ドラゴンである。ドラゴンの腕力で身体を掴まれては、このまま圧死してしまいそうだ。

「アンバー姫! って、ウィル、何してんだよ」

 襲撃時、いつの間にか外で応戦していたらしいロバートが、小屋の中に入ってくるなりげんなりとした。

「いや、誤解だって! アンバー姫、お手をお放しくださいませんか?」

「嫌!」

「えっ」

 およそ淑女である姫からは発せられることのない、幼女のような拒否に、ウィルとロバートは狼狽した。ここまで常に冷静沈着で、一国の姫として、剣の守り手として使命を背負い、凛とした姿を見せていたアンバー姫が、正直な気持ちをさらけ出している。

 顔をあげたアンバー姫の瞳は、涙で濡れていた。涙はキラキラと宝石が零れていくように紅潮した頬を滴って、ウィルの胸を高鳴らせる。世界にはドラゴン教なるものがあり、ドラゴンに心酔し崇める人々がいるが、この泣き顔を見てしまっては、違う意味で心酔してしまうだろうな、と、場違いなことがウィルの頭をよぎる。

「嫌です、私はずっと求めていたのです。この剣の使い手を、私のご主人様を!」

「は? ご主人様?」

 口だけではなく、明らかな侮蔑を含んだロバートの視線が、ウィルを貫く。疲労からか翳りが見えてるだけに、余計迫力があった。

「外道に落ちるだけでは飽き足らず、クズに成り下がったか」

「外道とクズって、一緒じゃない? いや、それより姫、ご容赦ください」

 ドラゴンとは言え少女の柔らかな身体が――密着している。

「嫌です、ダメです、傍にいてください、ご主人様」

「アンバー姫……」

 憧れの麗しく、可憐な姫に涙を流しながらここまで求められては、ウィルも強く主張する事が出来ない。どうやってこの腕から逃れようか考えようとしたところ、アンバー姫がすっと腕の拘束を解いた。

 アンバー姫は、ウィルと距離をとると、数秒、覚悟を決めるかのように瞼を閉じた。アンバー姫の手中には、いつの間にか剣を取り戻している。

「アンバー姫?」

 名前を呼んだのは、ウィルだったのか、ロバートだったのか。アンバー姫が剣を振りかぶったその瞬間、ウィルの意識は消えた。

「ウィル、怖がりなこのドラゴンを、どうかお許しください」

 ウィルを剣で貫いたアンバー姫は、切ない声で呟く。

 ――どうか受け入れて。この運命を。

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