表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドラゴンファング 反逆の騎士は姫の膝枕で目覚め、世界に復讐する  作者: 雪乃 霜鳥
一章 反逆の騎士 ウィル・ハワード
3/7

正義の証明

「アンバー姫、ご説明は後の方がよろしいかと。ウィル、追手だぞ」

 説明を放棄し窓際を見つめていたロバートが、不穏な事実を口にする。

「追手、って、俺が国家反逆罪を犯したから?」

「そうだ」

「ちなみに、僕は何をしたの?」

「貴方は私を……」

 ガシャン、という音と共に、ドアが蹴破られ、剣戟がウィルとアンバー姫に襲い掛かる。ウィルは痛む身体で反応し、腰にある剣に手をかけたが、ウィルの手は目当ての剣を握ることは出来なかった。剣がなかったのだ。咄嗟に残っていた鞘を盾にして、アンバー姫を守るようにして剣戟を躱す。

「ウィル・ハワード! 死ね!」

「うわっ」

 相手は先輩騎士だった。見たことがある、も何も、任務初日に頑張れよ、と送り出してくれた先輩だった。名前は確か、テオだ。テオ先輩。ウィルと同じ金髪が特徴の、いかにも年上らしく落ち着いた頼れる先輩だった。その先輩騎士が、恐ろしい形相でウィルを殺そうと目をぎらつかせている。

 国家反逆罪を犯したなら、まず投降を命じられそうなものだが、目の前の騎士はウィルの命を狙って剣を振っている。

「テオ先輩! 話し合いましょう! うわ、危ない!」

 テオの剣先がウィルの鼻先を掠めそうになり、後ろに下がる。アンバー姫を守ろうにも、実力差がある相手に、ウィルはたじろいだ。その隙をテオが見逃すはずがなく、容赦のない剣戟がウィルの眼前に迫る。しかし、ウィルに届く前に、その剣は細い腕によって弾かれた。

「あ、アンバー姫!」

 目の前に飛び出してきた白銀の髪に、誰に守られたのかウィルは理解した。絹のように柔らかな白銀の髪をさらりと揺らし、ウィルとテオの間に入る。

 アンバー姫の肌は、柔いように見えて、ドラゴンの鱗と同じ強度をもっていた。岩にぶつかれば岩を砕き、灼熱のマグマも、鋭利な氷さえも弾いてみせる究極の肢体。加えて剣の守護者であるアンバー姫は、守られる姫ではない。騎士顔負けの剣の使い手でもある。そのことをテオとウィルは思い出し、息を呑む。目の前の可憐な白銀の女の子は、その身に秘めた力を、その身が負った使命を、忘れたことはないと言うように堂々と立っていた。

「アンバー姫、お退きください」

 テオがアンバー姫の異様な雰囲気に気圧されながらも声を絞り出す。

「今のウィルを、殺してはいけないと思います。私の牙が、そう疼くのです」

「何故、反逆者を庇うのです。ウィル・ハワードが、貴女様に何をしたのか、俺たちに何をしたのか、貴女様はご存知のはずです」

 そのまま説明してほしい、とウィルは思った。けれども、テオのこの言葉のどこが引っ掛かったのか、ウィルの胸の内から怒りが湧き上がってくる。説明されずとも、「僕は知っている」と身体が叫んでいるようだ。

「城にお戻りください、アンバー姫。貴女様であれば、そこのウィル・ハワードなぞ造作もないはず。もう一度聞きます、何故、反逆者を庇うのです」

「……私の命は、ドラゴンの牙から作られたこの剣の、『剣の使い手』を選び、『剣の使い手』に付き従う為にあります。私はホワイトドラゴン。正義を全うする剣の持ち手を探さなければなりません」

「それは承知しております。ですから、我々の国は騎士を集い、その使い手にふさわしい人物を育成しております」

「いいえ、根本が間違っているのです。強いだけ、忠誠心があるだけでもいけません。そこに正義がなければ」

 我々は正義を全うしようとしています!とテオが叫んだが、アンバー姫は首を振った。

「分かりました、では、テオ、貴方に機会を与えます。貴方が正義かどうか、剣で証明してみてください」

「よ、よろしいのですか?」

 狼狽えるテオをよそに、アンバー姫が両手を胸のあたりで何かを包むように構えると、そこから白銀の光をまとって剣が現れる。アンバー姫と同じ白銀の剣。この世のモノとも思えない白銀に輝く剣は、プリズムを発している。

 アンバー姫がその剣を手渡すようにテオの前に運ぶが、テオが剣を掴むことはなかった。まるでその剣の実態がないかのように、テオは触れることができない。

「テオ、貴方に正義はないようです。私は……」

 アンバー姫が何かを言いかけたが、横から伸びてきた手に言葉を失った。その手は確かに、剣を掴んだ。

「何故、ウィル、貴方が。()()()()()()()()()()()、貴方が――」

 ウィルは突然始まった剣の選定にたじろいだはずだった。これでテオが『剣の使い手』に選ばれれば、ウィルはここで断罪されるだろう。しかし、ウィルは恐ろしさを凌ぐ目の前の白銀に輝きに、今度こそ魅了されていた。剣に手が伸びたのだ。ウィルは魅了されたまま呟いた。

「国家反逆罪? 正義は僕の手の中にある」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ