目覚めたらお姫様に膝枕されている
心臓が高鳴っている。
チラリ、と右横に並んだ二人に目を動かす。僕の性格を知っている二人は、僕の緊張を察したのか、アイコンタクトを送ってきた。
「ウィル! 前を向いて、堂々と。私達は今からこの国の騎士よ」
女の子の鋭い視線はなぜこうも男の身を竦ませるのか。
すでに緊張で体がカチコチの僕の体が、ミアの鋭い視線に射抜かれる。しかし、涼しい顔を見せているミアも、緊張しているのか剣を掲げる手が震えていた。昔から見栄っ張りなところは変わっていない。
「ウィル、ミア、深呼吸、深呼吸」
隣に並ぶ同じく幼馴染のエヴァンが、そんなミアの圧を振り落とすように、剣を胸に掲げながら肩を上下させた。優等生のエヴァンは人前に立つことは慣れているので、微笑みを携える余裕があるから羨ましい。
――大丈夫、僕は一人じゃない。エヴァンと、ミアがいる。三人一緒だ。
息を吐くと、真っ白な息が出ては消える。ヒンヤリとした空気が喉を冷やした。火照った頬も、ゼロ度の温度に冷やされていく。
向かい合っている城から、マントを翻しながらこの国の王が出てくる。大衆は視線を騎士から王に移し、その後ろに続いて出てきた白銀の姫の美しさに、誰もが感嘆の息を吐いた。
雪景色に溶け込みそうな白い肌に、白銀の長い髪。白いドレスが、一層に姫の白さを引き立てる。
アンバー姫は世界で唯一の、世界を守る剣の守護者。ドラゴンの牙から作られた剣を、『剣の使い手』を選び、付き従うために生まれた祖ドラゴンから産まれたホワイトドラゴン。
六人の騎士の任命式は、華々しく行われた。雪化粧された山々がそびえ、雲が空を覆う日がほとんどのこの雪国で、雲の切れ間から青空が覗く。まるで祝福しているような光の下で、六人の騎士達は群衆の歓声の中、剣を掲げた。
「白銀が穢れることのない平和な国へ」
ウィルは待ち焦がれたこの時を、殉職した父を想いながら誓い
「いにしえをうち壊す改革を」
ミアは新たな時代を望みながら、意志を叩きつけ
「不正のない秩序ある国へ」
エヴァンは誠実さと秩序が国に幸福をもたらすと信じ
「愛する者が結ばれる国へ」
ロバートは身分の差をなくし愛を歌うために
「弱いものが虐げられない国へ」
コリンは飢餓や暴力を嘆き
「心の安寧を守る信仰を」
オリビアは創生主たるドラゴンの信仰で心の安寧を祈る
待ち焦がれた、騎士になった。幼馴染のエヴァンと、ミアと三人で騎士になる夢を叶えたんだ。二人がいれば大丈夫。三人で、僕らは名を馳せてみせる。
見ていて父さん、父さんが守った平和を守り、国の未来を作っていくから。
――あれ、背中が痛い。頭も、痛い。首筋が痛む。
「ウィル!!」
身体の痛みで目が覚める。瞬間、目に飛び込んだのは、煌めく白銀と、雪のように白い肌を映えさせる美しい青紫の瞳だった。その瞳の輝きに、思わず吸い込まれそうになる。見下ろされている。誰かはすぐに分かった。
「アンバー姫!?」
反射的に起き上がろうとすると、電流が走ったみたいに、背中から首へ痛みが上がってきた。あまりの衝撃に、悲鳴が裏返る。体中が痛い。頭だけは柔らかなものの上に乗っている。それがアンバー姫の膝で、膝枕をされていることを理解するのに時間はかからなかった。
――まずいだろ!動けよ僕の体!
なぜ、騎士になりたての、身分も勲章も得ていない自分を、一国の姫が膝枕をしているのか。
身体が痛い理由も、混乱してうまく記憶を辿れない。任命式の日に遠目から憧れを抱きながら見ていた姿。決して今の自分では、宝石のように輝く瞳には映らない。そう思いつつも、いつか、この姫から剣を授かれたら。そう夢をみていた。それがなんだ?剣ではなく膝枕を授かっている。