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ZEROから魅せる成り上がり  作者: 半目真鱈
第一章 異世界からの救世主
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第5話 メイサの絶望

 メイサの手持ちの魔物から技能を幾つか簒奪してから次の日に俺は新しく簒奪した技能を試してみるべく実験をしていた。それを見た満と英人が何を勘違いしたのか邪魔をしてきた。


「おい、お前もしかして誰かから技能を奪ったのか?それは人として最低の事だぞ、お前みたいな下種に騙され技能を奪われた人物が可哀そうだ」

「そぉだぜ小見門、ってかさぁお前座学とか聞いてなかったのかよ?技能はその人の生きた証だって、それ奪うとかお前人としてどうなんだよぉ」


 何を言っているんだ?こいつらは、まぁ昨日の今日でいきなり技能を使いだしたからと言ってそんな風に驚かなくてもいいのに...ウザイナァ


「うそぉ小見門君ってそんな事する人だったんだぁ」

「元の世界では大人しそうだったのにこっちの世界に来て調子乗ってるのかしら?」

「英人に満お前ら小見門のクソ野郎をぶっ飛ばせ」

「そうだそうだそんな他人の人生踏みにじるクソ野郎は死んだ方が良いに決まってる」

「お前みたいな奴は《《誰にも信用されずに死ねばいい》》」


 俺にとっては何の価値も無い雑音が聞こえる…あぁ煩イナァ…こいつら全員を今ここで潰してしまおうかなぁ


「信用をかけてくれる人が居る...」

「あぁ?声がボソボソしてて聞こえねぇぞ小見門ォ、テメェなんかを《《信じる奴なんて頭がイカレテルんじゃねぇかぁ》》?」

「もっとハッキリ喋ったらどうだ?そんな風に喋るから、この世界でもチームワークが取れないんだぞ、それに君一人が弱いせいで皆に不満が溜まっている。そこの所をどうにかして変えた方が良いぞ、そんなんだから《《君は誰にも信用されないんだ》》」


 此奴ら...俺が黙って聞いていればやれ「汚い真似使う奴は死ね」だとか「こんなのが救世主とか有り得ない」だとか「ってか俺この世界の昔話で簒奪の魔王の話あるけど此奴じゃね?」だとか「そうじゃんだったら魔王は殺さないと」とか「魔王を倒すのは救世主の役割だもんね」とかウジャウジャうっとおしいナァ...


 でも…でも…何より俺が怒ってるのは、たった一日と言えど俺を信じてくれた彼女たちの信用を侮辱されたことだ。俺が騙されてるだけかも知れない、完璧に殺すための罠かも知れない、でも魅了を掛けても許してくれて、信頼してくれた彼女たちの信頼を俺は信じる。その為に、俺は怒りのままに昨日得た力を―—


「はい、そこでストップ、それ以上の事は、あの計画が根本的に失敗するわ。それに私は君に感情に任せて力を振るう暴力装置になって欲しくないのよ。私は悠馬自身の意思で暴力を振るわせる為に力を与えたのよ。」

「…メイサ、か…ごめん。感情的になり過ぎた」

「良いのよ悠馬、感情とは人間の証明だもの。悲観する事は無いわ」


 メイサはその小さい体に似合わずに、まるで大海の如きの優しさをもって俺を抱きしめてくれた。それは、まるで母親に抱かれているかのようだった。俺は、それに抵抗することなく、心の底から安心して意識を手放した。


「今は良く眠りなね。悠馬」

「お嬢ちゃんは、知らないようだから言うけど、そいつは他人の人生の結晶たる技能を奪ったんだよ。そんな蛮行を俺は、俺たちは救世主として許すわけにはいかない、だから小見門悠馬を渡すんだお嬢ちゃん」

「騒々しいわねぇ…」


 驚いた…私自身でも心の底から驚いた。だって、私はこんなにも感情を表に出して、怒ることが出来るんだって事が分かったからだ。そもそもこの世界の被害者である彼ら異世界人の事は、最初から知っていた。それに彼らに対してどのような処置をするかまで王国派の考えは私に伝わっていた。


「本当に騒々しいのよ…この子が、悠馬が起きちゃうから、せっかく今は安心して眠ってるんだし。」


 でも…だからとしてもこれは無いでしょ、彼ら被害者に対しては、私は皆に等しく憐憫の感情を持っていた。でもある真夜中に会った一人の青年に対して向ける感情が変わった。


「この世界は弱肉強食、強い者が全てを取り、弱者は死ぬまで奪われる。それが絶対の常識でありこの世界のルールなのよ」


 私は悠馬に対する時の声より、何トーンも低く言葉を綴り始める。アルが魅了されたのはその日の内に分かった。でも、それでも何もしなかった。アルは昔から私のの娘みたいなもので、私の大切な同僚で、何時も一人の男を愛して、その先で老衰で死んで欲しいと願った子だ。


「そう...例え幼子であってもそれは変わらずに敷かれるこの世界に置いて絶対のルールよ。」


 そんな彼女が魅了されて、あまつさえ暗殺者<雌猫めいびょう>の代名詞でもある固有技能を奪われたのだ。私は怒った。激怒した。だって、アルは負けたから、私が介入する筋合いはない、出来る事は何も無かった。それが、この世界の絶対の法則だから。


「そんな折にアルに声を掛けられてね。これ幸いにと私が魅了されてもこの子を殺せるように待機していたのよ」


 でも、それは全くと言って良い程に失敗した。この世の法則である弱肉強食のルールを覆して彼女にかけた魅了を解いた。それに、聞いたらその魅了も不完全だったではないか。あぁだからこそ


「だからこそこの子を...悠馬を信じたんだ。そして今日、この日に、もしかしたら他の子も悠馬みたいな感じなんじゃないかと思っていた。」


 でも、結果は違った。王国派閥が彼らにかけた精神魔法は、本当に簡単な思考干渉だった。例えるならその人のAと言う考えに、新たにBと言う選択肢を追加するだけの簡素なもの。それこそ自分の意思がちゃんとあれば、こんな無様な結果を晒すことも無い筈だった。


 まぁ悠馬が言っていた冷夏先生って人は、ある程度は己の信念を持って行動しているんだろうけどね。本当に悠馬以外の子もこうなんじゃないかなって、思っていたんだけどこうなるとはね。


 実を言うと悠馬に対して、始めてあった日の夜にこいつ等に掛かっている精神魔法より、余程強力な思考誘導の魔法を掛けていた。怒り、激怒し、己の我欲を持って行動するように、最初に一目見たときに魔法をかけた。


「でもこの子は違った、この子は…悠馬は違ったんだよ。お前たちの様なただ楽な選択肢を突き付けられただけで、簡単に靡くような奴じゃなかった。だからこそ私は信用した。力を授けた。良いかお前たち悠馬の操る技能は私が、私の意思で与えたものだ。断じて奪った物ではない」


 目頭が熱くなる。これは涙だ。そんなにも悲しいものなのか?


「違う奪った。」

「こいつはクズだ」

「奪った奪った」

「魔王だ殺せ」

「違うって言ってるだろう。私は、私の意思でこの子に力を与えた。それは誰にも否定することは出来ない…これは私の意思だ。」


 私は、最早泣くことを抑えることが出来なかった。そんなにも楽な道に転がり落ちるのか?こんなにもこの子を殺したいのか?こんないも世界は彼に冷たいのか?


「違うんだよお嬢さん、そいつは君を洗脳しているんだ。そしてある事無いこと言わせられてるんだ。それに例え君の意思で与えたものでもそれは奪った物だ。断じて許されて良いわけじゃない。良いかい、この中でクズなのはそいつ、小見門悠馬だけだ。君は何も悪くないから、こっちにおいで」


「違う…違うんだよ。クズなのは私たちだ。私たちの世界の問題を、異世界の人間に任せるんだ。だから…だから、君たちが私に対して、怒りを向けようとも、復讐心を抱こうとも、憎悪を向けようとも、私はそれを受け入れる、それが義務だ。君たち異世界の住人を、この世界の問題に巻き込んだこの世界の住人として、私たちが背負うべき最低限度の責任だ。」

「何を言ってるんだ?だってソイツはその人々の人生を奪った。」

「そうだ最低の人間だ」

「死ねばいい」

「お前を信じる者はいない」

「消えろ」

「お前なんて存在する価値は無い」

「お前なんて言う存在がいるからこの世界に救世主として呼ばれたんだ」

「そうだお前が悪い」

「お前が俺たちの人生を壊した」

「責任を取れ」

「死ね」

「お前は倒されるべき存在だ」

「小見門悠馬は魔王である」

「魔王は殺さないと」

「俺らは救世主だ」

「世界を救う義務がある」


 私たちに向かって石が投げられる、魔法が飛んでくる、剣が振られる、殴られる。蹴られる、呪いを掛けられる。


 それら全てを防ぎ冷静に魔法を構築する。それは此処数分の記憶の完全消去だ。最後に彼らを再び見ても…何だ、何なのだこれは…


「魔法が解除されている…だと」


 魔法の痕跡を探しても思考干渉の魔法はつい数日前には解けている事が分かった。何だ?これは?私は間違っていた?私の気持ちは間違いだった?


「あぁ…私の憐憫は間違っていたのか?私の罪悪感は間違っていたのか?私の希望は間違っていたのか?私の…この君たちに報いたいという気持ちは間違っていたのか?」


 叫んだ。ひたすらに叫びながら私は自問する。


「分からない、全てが分からなくなった。君たちに対する感情は間違いだったのか?——でも、それでも、この子に対する信頼は本物だ。それだけは間違いない。断言できる。でも…異世界は…こんなにも―—」

「何を訳の分からない事を言ってるのか分かんねぇけどよぉ…俺たちは救世主なんだぜ、魔王を滅ぼしてこの世界の人類に希望を持たせないとダメなんだよ。だから…なぁ分かるだろ?」

「助けを乞えよ」

「身を捧げても世界を救いたいと宣言しろよ」




「あぁ…君たちの異世界は…とても醜いモノなのだろう…そうなのだな、だとしたら、とても醜いモノを見た。故に忘れろ。記憶に残すな。この感情を消させてくれ―—」


 私は、その言葉を吐いた瞬間に、記憶の完全消去を実行して、悠馬の部屋に転移した。そして、彼をベットの上に寝かせると、その汗だらけの額を優しく撫で始めた。


「悠馬…アンタが私たちから勝ち得た信頼は、アンタの中でそれ程までに大きかったものなのね。そして…私の君への執着は、こんなにも大きなモノだったのか。」


 私は一人で自問する。この選択は間違いだった。あの場で助けなければ地獄になっていた。どうして他の皆は狂っていたのか?それらは全てがどうでも良い


「今は、悠馬が無事で居てくれれば、其れでいい」


 私は悠馬が起きるまでゆっくりと優しく撫で続けた。あの地獄は私だけが覚えていればいい他の皆は忘れていればいい。でも、願うならば…


「悠馬の未来に幸がありますように、そして彼らに救いがありますように」


 私は、悠馬が起きるまでただひたすらに撫で続けた。この時だけは後悔を忘れさせてくれる。


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