第4話 勝ち得た信頼
「魅了解除」
「…えっ」
「………あっあぁ」
二人は心底分からないと言った表情で俺を見つめてきた。まぁここだったら魅了する流れだろうけど、何か気分が変わったと言うよりも、何か吹っ切れたと言った表現が正しいと思っている。
「…実はアルメートに一つ嘘を付いてた。実はまだ終わってなかったんだよね。魅了、確か85位だったかな?ゴメンね。咄嗟にとは言え魅了の魔眼をかけて」
「えっえぇ…でももしかしたら裏切るかも知れないよ。それに私は最初に貴方を魅了しようとしたからそんなゴメンんって謝られる筋は無いのに、それにもしも今ここで私が魅了された逆恨みで貴方を殺したらどうしてたの?」
アルメートさんは心のそこから困惑しているのが見て取れた。まぁその気持ちも分かる。だってこのまま魅了したままだったら完全に従順な駒が出来たのに、それを自分から辞めるのだから困惑するのも無理はない。
「その時は俺の見る目が無かったまでだよ…それに今まで俺自身可笑しかったのかも知れない…だって本来の俺はこんな風に他人の人権を平気で踏みにじれる様な人間じゃなかった。俺はどこにでもいる普通の男子高校生だった。でももしかしたら異世界で浮かれてたのかも知れない…どんなことがあっても、それこそ君が俺を殺しに来たとしても俺は君に仕返しをした。その時点で俺にも罪はあるから」
「そんな…そんな…あなたはバカです。大バカ者です。話には聞きましたけど、貴方の世界の人間はそんなにもバカばっかりなんですか?そんな優しさはこの世界じゃ通用しないんですよ」
彼女の説得もある意味...というかこの世界においては本当に正しいことを言っているのであろう事は簡単に分かる。でもそれでも何故か分からないけどこの人たちを信じてみたくなったから
「うん…俺もそれは実感している。それはこの数日で分かってるつもりだから。それにこの世界に来た影響なのかな?君たちや冷夏先生のように大事だと思った人間だけでも俺は大切にしたいんだ。」
これは俺の心のそこからの本心だった。この世界に来てから俺が大事だと思った人間だけでも大切にしたいという思考が今になって浮き出てきた。だからそんな俺自身を信じたくなったからこうして魅了を解いた。
「そんなの可笑しいです…この世界は貴方の世界と違うんですよ。血と裏切りと死に満ちた世界なんです。そんな、そんな世界で貴方は何で私を信じるんですか?」
「俺が信じたいと思ったから」
俺は自分が考えていることを素直に喋り、アルメートも涙を零しながら俺に喋りかけてくれた。どうにも俺はこの世界に来て良くも悪くも変わったらしい、今までの俺はこんなにも人を大切にする様な聖人君子じゃない筈なんだけどなぁ
それから時間にして約30分位だろうか?アルメートは涙を流し、俺はそんな彼女を抱きしめるという無言の時間が続いた。
「それでそろそろ良いかしら?」
「あぁゴメンね頬っておいて、それで魅了についてはしない事にしたよ」
「そうなら私も安心して身を任せられるわね」
「それってどういう意味?」
「こう言う事よ」
そんな事を言いながら彼女の足元から出てきたのは、悪魔の如き風貌をした一体の魔物だった。俺みたいな弱者にも分かるけど、この魔物はおそらく今まで見てきたどの人間よりも格段に強い。そんな化物の如きオーラを放つ魔物を彼女は愛おしそうに撫でながら説明を始めた。
「この子は私が飼ってる中でもトップクラスのシャドウデーモンよ。もしも私が魅了されたら貴方たちごと抹殺するよう命令してたの、それで見ての通りに、貴方は私から信用を勝ち取った。それにアルの魅了が不完全だったことも驚きよ…ホントに貴方はバカね」
「それじゃあ…」
「えぇ信用と盟約をしてあげる。私こそが暗部組織<ドールズ>において殲滅戦最強、通り名を<一人戦争>であるこの私メイサが貴方を完璧に信用してあげるわ」
「あぁ…頼もしいよ。それと信用してくれてありがと」
「えぇ個人的にも貴方は好ましい人間よ。敵に対して一切の容赦もない男らしさがあったら、恋人にもなったかも知れないわね…それじゃあアルも帰るよ。これから計画を聞かせてもらわなくちゃ行けないから、それじゃあお休みなさいね悠馬」
「それでは私も帰りますねそれじゃあまた明日よろしくお願いしますね。あなた…あっ…とぉゆっ悠馬様」
「うん、アルメートとメイサもお休み」
それから俺は部屋に帰って、眠りに就いた。でもこの日はこの世界に来てから妙に落ち着く眠りだった。
その次の日も俺たちは特訓で俺自身もやっと全ステータスを30にまで伸ばすことに成功した。そこに一人の悪意が来た。
竜童満だった。こいつはつい数日前にやっと固有技能の使い方をマスターして、かなり調子が良いようで、俺にも声をかけた来たみたいだ。肩に回される右手にはビッシリと鱗が生えていて、その手が人外の物であることが察せられる。
「よぉ無駄な努力ご苦労さまだなぁ小見門よぉ、ってかさぁお前って俺たちの肉壁になる位しか役割無いんじゃねぇの?」
「ちょっと満さんこの人全ステータスが30しか無いんですから満さんが力入れたら直ぐに折れるんですから手加減しないと」
「そうですよそうですよ、それにこいつのステータスじゃ肉壁どころかただの足手まといにしかなりませんよ」
「確かにそうだなってかよぉこの俺が態々構ってやったんだからちったぁ喜べよなぁ小見門よぉ」
此奴らのバカさ加減もいい加減イライラしてくる。それに俺の本質はステータスじゃない、簒奪の技能による無限ともいえる手札を保持できることだ。
「確かにそうだね...ゴメンね弱くて」
「そうだぞぉお前が弱いからこの俺が態々仲間外れにならないように声をかけてやったんだからなぁ」
彼はセリフを最後まで言うと思いっきり、でも一応殺さないように手加減をしながら俺の腹を殴ってきた。今日のこの日は先生に介抱されながら夜になり、俺は部屋の中で読書をしていた。
コンコン
「こんばんは俺に何か用?メイサ」
「えぇ昨日聞いた話では悠馬貴方は自己強化の手段が欲しいようね」
「まぁね。だって今の状態だったら計画の際に足止めも出来ずに死にかねないし、その先でも普通に死にかねないからね。」
「そうそれなら良かったわ。ちょっと部屋に入るわね。」
「あぁ分かった。それじゃあいらっしゃい」
「それで、悠馬の強化方法だけど、こいつらを使っていいわ」
そうして足元から現れたのは狼にスケルトンに昨日のシャドウデーモンだった。
「悠馬は一体につき一つの技能しか奪えないって聞いたから、何体か用意したわこの中の魔物は昨日の子とは違って、名前も付けてない捨て駒だから悠馬の強化に役立てて貰えば嬉しいわ」
「それじゃあありがとう…それじゃあこの技能を奪うよ」
名前 小見門・悠馬
職業 無し
種族 人間
体力 30/30
気力 30/30
魔力 30/30
攻撃力 30
防御力 30
魔法力 30
抵抗力 30
速度力 30
固有技能 簒奪
簒奪技能
鑑定.魅了の魔眼.影操作.剛爪.剛牙.剣術.槍術.弓術
「本当にありがとうメイサ君には本当に助けてもらってる。今のもそして今度の迷宮でも」
「別に…アルが信じた悠馬を信じてるだけだから勘違いしないでね。それじゃあお休みなさいね悠馬」
それからその日は遅くまでスキルの使い方を把握してから就寝した。