蝗は草原を駆ける
スキル名を修正
◇
帰宅後、彼はすぐさまVRのシステムを起動した。
それは新規プレイヤーである蠢のことを驚かせるためであった。
昆虫マニア、同時に結構なゲーマーでもある彼は発売直後からこのゲームをプレイしており、現在は第三の街・ヘラクレスにいる。
そのため初期地点である「蓼虫忘辛の森」まで戻らなければならない。
全速力で駆け、戦闘中の「ライラック」を見つける。何故プレイヤーネームを知っているのか、それはVTECアカウントでフレンドになっているからである。このゲームではVTECアカウントのフレンドが、ゲームのフレンドにも登録されるのだ。
気付かれぬようスキル【草擬態】で近くに潜み、タイミングを見計らう。
今だ、とスキルを解除し、突如目の前に現れる……!
◆
「ぶべぉ」
「あっ……」
「……いきなり殴りかかる奴があるか!」
「ってなんだ、お前かよ。どうした?口から黒い液体出さねーのか?」
「体までバッタじゃねーっつーの!」
虫好きじゃないと伝わらない高度なネタだった…。バッタはストレスを受けると(諸説有り)、黒い液体…実を言うとゲロを出すのだが、それを知っているのはバッタを捕まえようとした人くらいだろう。
それにしても急に出てくるもんだから間違えて殴ってしまった。そこは謝った方がいいか?
「あーでも、殴っちゃってゴメンネ?」
「許す」
「へぇ、許すなんて珍しいじゃん」
「あ〜?僕は31レベなんですけど〜?」
「よせよせ、PKするとめんどくさいぞ?」
「チッ」
このゲームではPKすると死亡時にアイテム全ロスト、且つモンスターとの戦闘中、ステータスが半減するというまさに泣き面に蜂状態になる。つまり、一度PKすると最早プレイヤーとしか戦えなくなるのである。そのためPKerは実質モンスターのようなものだ。
「実は…ここに来たのは半分が驚かせるためで、半分がある事実を伝えるためだ」
「…ある事実?」
「ああ。まず虫を捕獲するには特別な道具が必要なんだ」
「まだテイムしたいとか言ってないんだけど」
「顔に出てる、それはもうくっきりと」
「あーそうかい、続きをどうぞ」
「む…で、その道具は多分第四の街・トロピクスポットにある」
「多分?」
「餌が発見された」
成る程、餌があるならテイムもできるだろう、ということか。
「僕も虫はテイムしたいわけで、それは君も同じ筈だ……じゃあ、ここは協力しないかぁい?」
いや、まだレベル3なのに!?
「良いレベリングスポットを見つけちゃってね」
くっ、手は打ってあったか。
「わかった。協力するよ…」
という訳で、開始早々蝗の手伝いをすることになった。
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