バーチェル・レンジャー その5
◇
「…………私は何をすればいいの?」
アスロラは一人そこに立っていた。
カワセミが橋にいるアリを殲滅し、グラパー、リオ、モーセはその他のアリを倒している。
しかしバフ役のアスロラは、一度バフをかけてしまうと出番がなくなってしまう。もちろん効果時間が終わったらかけ直すのだが、如何せん優秀すぎるために、効果時間が二十分ととても長いのだ。
グラパーももう特攻しないので【フローティング】をかける必要もなくなり、彼女は二十分間暇を弄ぶことになっていた。
「もう! 兄さんが暴れすぎるからやることないじゃん!」
「なんか……あれを見ると僕達のやってることがちっぽけに感じるな」
「同感。ボクなんて罠を仕掛けてるだけだしね」
「まだあれでスキル一個でしょ? もうあの人だけでいいんじゃない?」
橋以外から来るアリを対処していた三人の目線の先には、アリ達を豪快にふっとばすオオムカデの姿が。
本来ならグラパーとリオも橋の上のアリを倒しに行くはずだったが、リーダーが強すぎるのでモーセの手伝いをしに来たのだ。
「最初がPvEイベントで良かったと思うよ」
「そうだね……もしPvPなら間違いなくリーダーが勝つもんね……」
カワセミは誰よりも最前線で戦っていた。それ故に、誰よりも早くそれに気付いた。
―――アリの数が明らかに減っている。
先程まで地面を埋めつくしていたアリの軍勢は、今は地面の色が分かるぐらいに減少している。
それぐらい倒したから、といえばその通りかも知れないが、今回は違った。
戻るアリが居る。
ムカデの状態では喋れないので、勿体ないが一度スキルを解除する。
「何か来る! 備えろ!」
カワセミの予感は的中した。しかし、それは予想していたものとは異なっていた。
「おいおい……ただの兵アリだと思ったんだがな」
それは長さでこそオオムカデのほうが長いが、高さでは圧倒的に劣っていた。
それは白く、肥大した腹部を持っており、その周囲には黒い大顎を持つアリが大勢いた。
それは謂わば軍隊蟻の根幹、軍隊蟻の祖であった。
「女王だ! 女王が来たぞぉぉ!」
◆
「総員、突撃〜!」
兵アリに向かって働きアリが一斉に突撃する。
兵アリは少し躊躇いつつ、大顎で噛みついて応戦する。
働きアリは兵アリの脚に噛みつき、動きを止めようとする。
兵アリはこのアリ達が敵だと割り切ったのか、体を大きく揺らし働きアリを吹き飛ばす。
「ん、このアリってライラックがテイムした判定なんだねぇ」
「一応、捕まえたのはライラックだからな」
「あ! あのでかいアリに攻撃を集中したせいでこっちにアリが来てますよ!?」
「なんだって―――うおっ!?」
不意を突かれたライズが、少しばかり宙に浮いた。
ライズは後ずさりつつ着地する。
「大丈夫ぅ?」
「ああ。あんまり喰らわなかった」
「じゃあでかいのはライラックさんに任せて、こっちは普通のをやりましょう!」
「そうだ……な!」
ライズが振り上げたのは……スレッジハンマー。
そのまま振り下ろし、目の前にいたアリは頭部がぺしゃんこになって倒れた。
「よし、じゃあ俺もぼちぼち行きますかぁー」
レイズは双剣を取り出し、一歩踏み出す。
向かってきたアリの突進を避け、素早く頭部と胸部の細い部分を二連撃。頭が落ち、そのまま消失する。
「あ、私は生産職なので戦えないです……」
「そっか……もしかして鍛冶職?」
「はい」
「へぇ〜、いいこと聞いちゃった」
「?」
―――一方ライラックは。
「【偽装展開:蜻蛉切】!!」
楽しい楽しいスキルと魔法のお披露目の時間だァ!くたばれ兵アリィ!
「いきなり全開で行くぜ!【絶対零度】【レインフォースメント・マジック】【アンリミテッド・ソーサリー】!!」
「喰らえ新魔法……【【【【【レイジング・ブリザード】】】】】!!!」
【レインフォースメント・マジック】で十秒間魔法攻撃の威力が三倍、
【アンリミテッド・ソーサリー】で二十秒間魔法のリキャストタイムが0に。
そして【レイジング・ブリザード】は本来なら消費MP100の大技で、効果は氷の礫を多数生成、礫が対象を旋回しながら追尾し攻撃するというもの。これが【絶対零度】と組み合わさり、さらに連続発動をしようものなら……
「!?!?!?」
二十秒が経過し、スキルの効果が切れる。そこには……
地面には霜が降り、周囲には冷気が立ち込め、そして氷で雁字搦めになった兵アリの姿があった。
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