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神社で怪しげな男と会ってからも、僕の日常は何ら変わったことはなかった。

しかし変化はいつだって急に起こる。


僕はある日、朝目が覚めると日付が二日とんでいた。

デジタル時計で確認した。

スマートフォンで確認した。

新聞で。テレビで。


現実は日付が二日とんでいた。

外に出てスーパーに掲げられた本日の特売広告を。駅前の電子モニターを。確認しに行く。


事実は変わらない。

空白の二日間だ。


春休みの僕に生活支障はなかったが、どうやら寝過ごしたみたいだった。

しかし寝過ごすにしても。二日も寝るなんて初めてだった。

もしや体のどこかが悪いのではと疑う程だが、体調はいたっていつも通りで目覚めもスッキリしている。

寝過ぎたことによる倦怠感はまるで無い。


それでも丸二日間も寝るなんて不可能ではないのかと、別の可能性を考えてみる。


ということは、…… 何か超常現象が起きて時間が飛んだとか。

テレビ番組が好きそうな嘘かホントかわからない話だなと思った。

しかしなぜ?


『世界が僕をだまそうとしている』などと思うほど、僕の思考回路はぶっ壊れていない。

頬をつねる。まだ冷たい水道水を顔に容赦なく浴びせる。

それでも二日飛んでいるのは変わらぬ事実らしかった。


なぜニュースになっていないのだろうか。

人々は洗脳されていて、僕だけがその事実に気づいているとか?

ばかばかしい。

しかし本当に僕だけが真実を知っているとしたら………… 。

僕はこれからどうすればいいのだろうか。



右往左往していた頃、内閣府宮内庁の所属を名乗る男が僕の家を訪ねたことで、これら諸々の疑問は解決する。

宮内庁とはいえ、袴では無く黒いスーツだった。

仕事ができそうな雰囲気を漂わせた男で、またしてもおかしな人に目をつけられたのかと疑ってみる。

「二日も寝過ごした、とか思ってたりします?」

僕が日付について混乱していることをなぜか知っているらしい。


話があると言うことなので、考え、迷った末にその男を居間に上げた。


「君が阿久津君に逢ったのですね」


「アクツ君とは?」


「ああ、黒髪のやる気なさそうな男です。彼は君に何か言いましたか?」


一瞬、あの男にもちゃんと名前があったのだなと思った。

別に疑っていたわけではないが、しっかりとこの世に存在する人物だったらしい。


あの男に何か言われた気もするが奇妙な印象が強すぎて、逆に何を言われたのか覚えていない。


「そもそもこれって、どういうことですか? 何で二日も日付が飛んでいるのに、なぜ誰も気にせず、普通に生活ができているのですか?」


まあまあと僕をなだめるように広げた両手を軽く上下させて、にっこりと微笑んでくる。

吸い込まれるような黒いスーツはシワも毛玉すら一つもないくらい清潔だった。


「自分はこの仕事が初めてですので、うまく説明できるか分かりませんが。まずは落ち着いて聞いてください。世界が二日飛んだのではありません。君が丸二日間寝ていたのです。」



………… ありえない。


明日世界が滅ぶと言われたくらいに。

僕の驚いた様子にその男は幾分満足そうに声を上げて上品に笑う。

僕が一番初めに思いついたことをさも事実かのように話して笑う。

そんなこの男が少し癪だった。


「君は日本史がどうやって正しく伝わってきているか。疑問に思ったことはありますか? 恐らく阿久津君が選んだ君ならきっとあるはずです。本当に聖徳太子は十人の話を同時に聞けたのか。歴史の陰に隠れてしまった功績者はいるのではないか。そもそも歴史なんて虚偽かもしれない。とか。ありますよね。歴史を読み解くに当たって、昔の冷たい書物を解析しているとでも思っていましたか? それは少し違います。書物じゃなくて実際は人伝いなのです。過去から現代に渡る正しい歴史を脈々と受け伝えている者がいるのです。温かいでしょ」


「……温かいかどうかはさておいて。そんな話、僕は聞いたことないけど」


「聞いたことがないのは当たり前です。なにせ、ごくごく一部の人間にしか知らされていない事実ですから。歴史の中には、社会通念と異なっていたり、表向きには明かしたくない事実であったり。国家機密のものもありますからね」


「それを僕に言ってもいいんですか?」


僕は行く先の不穏な空気を感じ取り、不安を露わにする。

しかし身体で怯えつつも、内心は話の続きを早く聞きたいと思ってしまったことがどうやら態度に出ていたらしい。


男は僕を見て意味ありげに微笑み、一つ深呼吸して話の前に意図的に(タメ)を作る。

僕はこれ以上感情が表情に出ないように、はやる気持ちを抑えながら男の言動をじっと見ていた。


「…… 。君は鋭いのですね。その人知れず秘密裏に歴史を伝える者というのが阿久津君であり、君なのです。君の身辺調査は軽くしました。あまり人付き内の多くない君には適性があるようでしたので」


「…… 人付き合いが多くないことが適正なんですか?」


少し馬鹿にされたような気がして、僕は食いつくように言葉を発する。


「そうですね。それに君の寿命、ひいては体質が変わったはずです。今からそこのところは詳しく話させていただきますので。阿久津君が君を次に選んだのです。これから長い付き合いになるでしょうし、どうぞよろしくお願いしますね」


おっとそうでした、まずは名乗っておきます。

そう言って男は上品な紙質の名刺を差し出す。


ーー内閣府宮内庁管轄下、特別歴史伝承保安官 山本直哉ーー


こうして僕は何やらよく分からない出来事に巻き込まれ、怪しげな連中に目をつけられた。


ついでによく分からない者になってしまったらしい。

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