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ゴールデンウィークはさらりと過ぎ、気づけば定期試験が近づいている。


僕は相変わらず社会科を除いて、授業について行くのがやっとだった。

高校生は一度経験しているものの、その頃の勉強の記憶なんて綺麗さっぱり忘れ、本場の学生の記憶力や理解力の凄さに改めて気づかされる。


試験のやばさを片山に伝えたら、時間が短いにも関わらず、片山選りすぐりの覚えるべき重要なことを教えてくれた。

おかげで何とかギリギリ、赤点は三教科だけにとどまった。

片山はいつも居眠りをしているはずなのに、全部の教科で平均は越えたわーと喜んでいる。


ゴールデンウィークやらテスト週間やらで気づけば五月は終わりに近づいていた。


「知ってるとは思うけど、次の学校行事は8月末に学校一大イベントの学校祭がある。二年生はクラスで劇をやるのが決まりで脚本や役者だけでなく、衣装や舞台、照明も必要だから。出来るだけ皆に何らかの仕事引き受けてほしい。考えておいてな」 


クラス委員長の議会で学校祭の話が出始めたのだろう。


委員長の藤城が前でハキハキと喋る。


「8月とか夏の大会あるんだけど、どうすればいい?」


「まあ、裏方でも良いから何か軽くでも手伝って。一応クラス行事だから」


 

『一応クラス行事だから』


この言葉は僕が現役の高校生の時に同じように当時の委員長から言われた言葉だった。

当時は体育祭で『応援合戦』というものをクラス全員によるクラス対抗でやるもんだから、当然僕は足を引っ張る。


下手ならまだしも練習自体に参加できないものだからクラス内でのヘイトは大きかった。

集団でやるから一人のミスは目立たないかと思いきや、そういう一人のずれが集団の出来映えを損ねると怒られた。

だから今回はクラス行事をほどほどにやるつもりだった。


アクツの作った空白を埋めるために、“歴史渡り”を知る人物を探す任務がある。


「片山は何をやるかもう決めてるのか?」


部活に入っていない片山だが行事ごとは積極的そうだな、と思い知ったので聞いてみる。


「そりゃあもちろん、自分の性格とは真逆な役をやりたいぞ。劇だからこそ俺らしさのない別人になりきりたい」 


「意味わからんけど具体的だな」 


片山自身、劇を楽しみにしているようだ。


「でも俺は脚本書きたくないから、脚本書く人にそういう役を作るよう頼み込もうかな」


当の脚本家決めは翌週の朝の時間に行われた。


既存の劇でも良いのだが、多数決により青春もののオリジナルをやることになった。

具体的なあらすじは脚本家に一任とのこと。


しかしそんな重役に立候補する人は誰もいなかった。


ストーリーは丸投げとは、クラスも無責任だなと思う。

逆に考えれば、脚本家が自由に考えられるってことだが。


クラス委員長の藤城は、こればっかりはやりたい人にやってほしいから待つ、ということでクラスに沈黙が流れ始める。

ペチペチっと隣で音がするので見ると、片山が時折自分の頬を叩いて眠気を追い払っているようだった。

空気が読めないのか、わざと読んでいないのか。



沈黙が10分を過ぎようというとき、意を決したかのように思い切り右手を挙げた人がいた。


それは僕の右隣の人。

河井さんだった。


おとなしめの印象だったから僕は驚いたのだが、クラスメイトたちは僕以上に驚いているようだった。


「じゃあ、脚本は河井さんに任せて良いかな?」 


藤城の心底嬉しそうな声が静かだった教室の空気を快活させる。


クラスの拍手はまばらだったが、藤城は安堵の表情を見せ、じゃあ決まりと言って黒板に名前を書いていく。

河井さんは、頑張りますとだけ言った。

僕が見たその横顔は凜としていた。



それ以降、監督兼クラス責任者はもちろん誰も立候補しなかったために藤城がやることになったのだが、それ以外の大道具監督、照明兼音響監督はすぐに決まった。

その他の細かな役決めは脚本ができあがってからということになった。


「頑張れ」 


僕が隣席だけに聞こえるくらいの声で伝えると河井さんは大きく頷く。

そして僕の方に顔を向けて、同じように耳打ちするような小さな声で、一応やりたいストーリーはなんとなく考えてあるから任せて、と言って少しだけ笑った。


少し緊張しているように見えた。

僕は無難に照明でもやろうかなと思った。

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