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修羅場中ですが、なんかうるさい人がいる  作者: 雨の日


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2/2

修羅場中にギャルがいる風景



「ごめんなさい、お姉様…。でも私、サミュエル様の事が…」

ヨヨヨ、と泣き崩れるリリーを、ライラは冷めた目で見つめる。

どうせ、嘘泣きだ。

この子は何時もそうやって、何でも思い通りにしてきたのだ。


「リリー!」

人混みの中から、背の高い男性がリリーの名を呼びながら駆け寄ってきた。

ライラの婚約者のサミュエルである。


サミュエルは、泣き崩れているリリーの肩を抱き寄せ、ライラを睨みつけた。


「ライラ!またリリーをイジメているのか!?姉として恥ずかしくないのか!」


どうして、話も聞かずにライラが悪いと決めつけるのだろうか。


ライラは、フッと周りを見た。





ここは学園の食堂で、今はランチタイム。

たくさんの生徒が行き来する中で起きた突然の修羅場に、多くの生徒が足を止めてヒソヒソと様子を伺っている。


そして、その多くの瞳が、「悪いのはライラ。泣いているからリリーは被害者」と物語っていた。


ライラはため息をつき、一言。


「イジメてなどおりません。普通に話していたら、突然リリーが泣き始めたのです」

「そんな訳ないだろう!どこの世界に、普通に話している途中で突然泣き始める人間がいる!?理由があるに決まっている!」


サミュエルは大声でライラの主張を否定した。

この男は大声でないと言葉を発せないのかしら?と

ライラは思った。


「サミュエル様!お姉様の言う通りなのです。私とお姉様は、普通に話していただけですわ…。それで…お姉様が突然『最近、リリーはサミュエル様と仲良しなのね?』と私に尋ねてきて…。最近、サミュエル様と一緒にお出かけしたり、共に過ごす時間が多かったでしょう?それで、聞かれた時に…気持ちが溢れてしまったのです…。私、サミュエル様に惹かれているんだって…」


ウルウルと涙で濡れた瞳がサミュエルを見あげる。

その可憐な仕草に、ライラは内心拍手を送った。

見た目だけなら、姉の婚約者に惹かれてしまった叶わぬ恋をする悲恋の令嬢、といった所か。


実際には、『姉の物は私のもの。私の物も私のもの』と信じて疑わぬ図太い精神の持ち主であるというのに。

サミュエルとだって、ライラに届いた手紙を盗み見て、偶然を装いながら逢瀬を重ねているのを知っていた。

どうせ、その時に「お姉様に、意地悪されてるの…」とでも涙目で言ったのだろう。

愛らしいリリーを憎からず思っていたサミュエルの庇護欲をそそるように。


なので、先ほどランチを共にした時に尋ねたのだ。

ライラはリリーならいつもの様に『欲しくなったの。ちょうだい♡』とお願いすると思っていた。

まさか、泣き真似をするとは…何を企んでいるのやら…。




「あぁ!リリー!なんて健気なんだ!」


リリーの儚げ可憐仕草にヤラれたらしいサミュエルが感嘆の声を上げる。


「僕も、何を考えているか分からないライラより、義兄様と懐いてくれるリリーと過ごすうちに気づいてしまったんだ…」


そして、リリーの肩を強く抱き寄せライラに向き


「ライラ!お前との婚約は破棄だ!僕はリリーと新たに婚約を結ぶ!家同士の契約婚なら相手はどちらでもいいはずだからな!」


と声高く宣言した。


なるほど、最近流行りの演劇で見るやつだわ、とライラは思った。

リリーの事だ、流行りの演劇に自分を投影して、悲劇の主人公になりたかった、という所か。

タイミング良く現れたサミュエルを見るに、2人で共謀していたのだろうか。



それまでザワついていた食堂が静まり返る。

親の同意のない個人間の、しかも公衆での婚約破棄宣言など前代未聞である。

生徒たちの困惑が無言のなかで広がった。







「えっ!婚約破棄とかマジ!?初めて聞いたんですけどそのフレーズ!なになに!?ドラマの撮影とか!?ヤバくない!?写真撮っとこー!」


場違いなテンションの高い女の声に、生徒たちの視線が一点に集中した。


そこにいたのは、奇抜な格好の少女だった。

金と栗色の中間の様な明るい色の髪の毛と薄暗いブルー味を帯びた瞳。

それは、この国にもありふれた色合いである。

しかし、その瞳は黒いアイラインで太く囲まれ、まつ毛もバサバサと鳥の羽の如く盛られている。

着ている服も、学園のものと似ているようで少し違うデザインであり、なによりも、紳士なら目のやり場に困るほどに短いスカートで生足を太ももの中間から晒しているのだ。


その少女は、手のひらより少し大きめの薄い板をライラたち3人に向けている。

カシャカシャと、聞いたことのない音がする板を呆然と見ていたライラは、ハッとして少女に声をかけた。



「あの…?何をしてらっしゃるの?」


ライラの問いに、少女は板からライラに目線を向けた。


「あっ、サーセン。撮影邪魔ッスよね〜。えっ、ちなみにいつ放送のやつ?」

「撮影…?放送…?」

「なんか、婚約破棄ー!とか。やってたじゃん。あれ、なんか今流行りのは異世界系のやつだよね?」


そう言いながら、キョロキョロと周りを見回し

「あれ?カメラなくね?」

と言う少女にライラは何と答えていいかわからない。



「おい!そこのハレンチ女!僕たちの話に水を差すな!」


良くも悪くも空気の読めないサミュエルが、少女に怒鳴る。

相変わらず大声でしか話せないらしい。


「はぁ!?ハレンチ女ってウチのこと!?マジありえないんですけど、モラハラじゃね!?ちょっとイケメン俳優だし、推しちゃおっかなって思ってたけどやめるわ!マジサイテー野郎じゃん」


言ってることの半分も理解できないが、サミュエルの失礼な物言いに憤慨してる少女。


「だいたいさぁ、婚約破棄ってことは、こっちのキレイ系のオネーサンと婚約してたって事でしょ!?それで、こっちの可愛い系の女の子と浮気して、逆ギレして婚約破棄ー!とか、マジありえなくね?」


少女の反撃にサミュエルは顔を赤くして反論する。


「浮気などしていない!リリーは、僕を将来の兄と慕ってくれているんだ!それで、たまたま街で出会って行動を共にするうちに惹かれあって…そう!僕とリリーは結ばれる運命だっただけだ!出会う順番が違っていただけ!」


「いや、フツーに浮気だし。しかも何?今の話だと可愛い系女子は、キレイ系オネーサンの妹なの?えっ、姉妹に手出すとかマジで引く。フツーにキモい」


顔を引きつらせ、ヤバくね?、と言いながら後ずさる少女にライラは何故か胸がスッキリする。

周囲も、確かに…?、と再びザワめきを取り戻し始めていた。


「ひどいわ!貴方もしかして、お姉様の雇った嫌がらせをする人なの?」


周囲の空気が劣勢と見た、こちらも空気の読めないリリーが発言する。


「何それ?嫌がらせする為にウチが雇われたとか心外なんですけど。ウチ、お金の為に人いじめたりとかしねーし」


サミュエルにドン引きしていた少女が、再びリリーに向き直り憤慨顔で言葉を続ける。


「だいたいさぁ。お姉ちゃんの婚約者って、分かってたんだよね?それで、好きになっちゃうとかさぁ…。まあ、百歩譲ってよ?あったとしても!我慢しろよって話。ってか、ウチもお姉いるけどさぁ。お姉のカレシとか、マジで無いから。マジ昔からお姉のお下がりばっかりで嫌になってんのに、男までお下がりとか、無いわ〜(笑)」


嘲るようにリリーを見て笑う少女


「なっ!?お下がりですって!?」

「お下がりじゃん。しかも、平気で浮気する不良品だし?ウチなら願い下げ物件だわ、マジで」


リリーは思いもしなかった発言に顔を赤くする。

ライラは笑いを堪えるのに必死だった。


リリーは昔から、ライラの物を欲しがる癖に、お下がりとして与えられる物は断固として拒否していた。

奪うのと施されるのは違うらしい。



「ってかさぁ。姉の物を欲しがるブリッ子妹と頭空っぽ婚約者とかさ。王道なんだし、もっとこう…オリジナリティーないとウケなくね?あっ、それか、ここまではテンプレで、今からストーリー始まるのか!じゃあ、オネーサンが主役なんだね!」


少女はそう言ってライラの方を向いた。

「頑張ってね、オネーサン!オネーサンめっちゃ美人だし、絶対超売れるよ!クズ男ぶっ飛ばして、ザマァ展開期待してるよ!放送楽しみにしてる!」


 


ふと気づくと、少女の姿はなかった。


ザワザワと喧騒の中で生徒たちは散っていく。

「サミュエル様には失望しましたわ」

「リリーさんって、男性にはか弱い態度ですり寄るよね」

「ライラ嬢は、逆に幸運かもしれないね。不誠実な男性を伴侶にしなくてすむ」

「サミュエル氏とリリー嬢はお似合いの様子だね。もちろん悪い意味で」


喧騒の中で聞こえる言葉達は、どうやらサミュエルとリリーを醜聞のターゲットにしたらしい。


「なっ、なんで…?」

「こんなはずでは…」


浅はかな謀りが裏目に出て、今後肩身の狭い思いをするだろうリリーとサミュエルが狼狽える様に身を寄せ合う。


「婚約破棄の件、了承しました。帰宅後、それぞれの両親に報告しましょう。それでは」


ライラはそう言って2人に背を向ける。


「まっ、待ってくれ!ライラ!」

「お姉様!このままでは、私たち誤解されたままだわ!」


そんな2人の声が聞こえた気がするが、ライラは気にせず歩みを進める。



『じゃあ、オネーサンが主役なんだね!』



あの不思議な少女の言葉が胸に残っている。

この世界の主役、ではないかもしれない。

でも少なくとも、私の人生の主役は私なのだ。


(胸を張って、主演して見せるわ。私の人生だもの)


力強く、ライラは人生のステージを歩き続ける決意を胸にした。





「やーまーざーきー」

ポスッ、と頭に軽い衝撃を受け、由香は顔を上げた。

目の前に呆れた顔の数学教師が立っている。


「授業中に堂々と昼寝とはなぁ…」

先生の言葉に、隣の席の結がクスクス笑う。


「えっ、サーセン。でもセンセー!プールの授業の後の数学とか拷問じゃね?寝ようと思って寝たわけじゃないしぃー。気づいたら寝てたって言うかぁー。結も笑うなし!」

「はいはい。もう寝るなよ〜。じゃあ、次の問題は…」


何とかお叱りを回避し、由香は結に軽いケリを入れる。

何となく変な夢をみた気がするが、もうそんな事は思考の中から消えていっていた。






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