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第陸話『水虎』

 川辺や湖など、淡水に息を潜める悪戯者、それが水虎という物の怪である。

 数ある怪異の分布に置いて、この物の怪はかなり生物に近い。

 実態もあり触れることも出来、食べるものも川魚が主食であったりする。

 普段は数体仲間がおり、たまに川へ遊びに来た人間を、気まぐれに溺れさせたりちょっかいをかける性質をしているため、信心深い人々には、川に住まう精霊のような扱いを受けている場合もあった。

 よく言われるのが「川へ夕方に、ましてや一人で行ってはいけないよ。水虎が来て、水の中に沈められてしまうからね」という、祖父や祖母が孫に向かって語る民間伝承だ。

 貯水池の小さな祠も、神に祈る祭壇というよりは、人々に危害を加えないよう、物の怪を鎮める意味の方が強いのかも知れない。


「オレ、仲間、モウズット昔カライナイ。仲間、人間サラウ。殺ス。ダカラ、人間ノ王サマ、怒ッテ、仲間タイジシテ、追イ出シタ。オレ、人間スキ。ゼッタイ殺スシナイ。王様、信ジテクレタ。オレ、湧キ水マモル。コレ、約束ゼッタイ」


 水虎は必死に大きな獣の手を使い、燦浄に人を襲わない、稀有な存在であると、己を紹介して見せた。


「なるほど? 王様とは、ひょっとして、初代琰王の事でしょうか?」


 不器用にもその名を聞くと、水虎は嬉しそうに牙を見せながらにやあっと笑っているような顔を見せる。


「ウン、カッコ良イ強イ、公平デ、優シカッタ」

「仲間を追い出されたのにですか?」

「オレ、人間スキ。殺ス、ヨクナイカラ、オレ、仲間ハズレ」


 つまりこの物の怪は、通常の物の怪とは逸脱した、異端であったらしい。

 寧ろ仲間を失った事よりも、ここに条件付きで留まることを許してくれた、大琰王への絶対的忠義があるように見受けられる。


「なぜそんなに人間が好きなのです?」


 つい興味がそそられ、燦浄は穏やかに尋ねた。


「人間スゴイ。土カラ野菜ツクル、水車面白イ、色々オモイツク。観察、タノシイ。アト……アト……最近、"蕎麦"クレル子来ル。愛シイ、可愛イ、イイ子タチ」

「えっ、蕎麦と仰いましたか?! しかも子"たち"と?!」


 燦浄が思わず詰め寄ると、水虎は慌てたようにこくこくと頷いて見せる。


「仙人サマ、杏杏(キョウキョウ)知ッテル?」


 随分と親しい蕎麦屋の娘の呼び方から、確かな情報が手繰れると踏んだ燦浄は、躊躇いもせず水虎の獣の手を握っていた。


「ええ、今丁度探しているのです。友人の男の子も知っていたりしませんか?」

「モチロン! オレ、タスケテ欲シイ、ソノ子!」


 水虎もつい相手の手を握り返しそうになり、自身の爪の危うさに気づきぱっと手を離す。

 その様子を見た燦浄に、もはやこの生き物が人を害する想像など出来ようもなかった。

 そして、手を離した時に気づく。

 先ほど握った手とは逆の手に、小さな布が巻かれていることに。


「それは、たしか……」


 燦浄は記憶の中で、揺れる少女の髪型を思い出す。

 間違いない、二つに結んでいた布の片方である。

 思い返せば、宿の窓枠には血痕が付着していた。

 どうやらあれは水虎本人の流血であったらしい。

 心優しい杏花が、せめてもの止血に、可愛い薄紅色のこれを巻いてやったのだろう。


「佑佑、ワルイ人間ニ殺サレカケタ。オレ、小川ノボッテココマデ逃ガシタ。アッチ、アッチ」


 水虎は貯水池の壁面、深水の中程を向いて自身の後方を指差す。

 そこにはどうやら水虎の寝ぐらなのか、横穴が空いているらしい。

 しかしそれよりも気になったのは――。


「まさか、佑信くんのお父上様を害した者と遭遇したのですか?!」

「ソウ……父、無念。オレ、マモレナカッタ……佑佑、カワイソウ。ゴメンナサイ」


 しょんぼりと項垂れる水虎に同情し、燦浄は優しく頭を撫でてやった。

 あまりにも健気であったからに他ならない。


「アナタたった一人で傷まで負って……人里に降りるのも勇気がいったことでしょうに。謝る必要はありません。私はアナタに感謝しますよ。さあ、二人はそろって一緒にいるのでしょう? そちらに案内願えますか?」


 水虎は理解を得た嬉しさに、再びこくこくと頷き、水の中に手招く。


『燦浄様、私はついていけそうにありません。どうか子供たちに、その姿がばれぬよう、ご尽力くださいませ! 水虎殿、そなたも他言無用ですよ?!』


 いきなり念を飛ばされた水虎は、ぎょっとして地上側にいる白鷺を見上げた。


「そう脅さないで上げてください。ああ、大丈夫ですよ。彼らは私の仲間です。訳あって地上に遣わされたので、この姿は人には見せられないのです――ところで」


 燦浄は振り返り、若い娘の遺体を気にかける。


「……今すぐには運び出せそうにありませんね。子供たちの前に晒すわけにも行きませんし、せめて草蓆(くさむしろ)のようなものがあれば、あとで牛車に乗せられるのですが」

「探シテミル。今ハ水、元ニモドス。死体傷ムノ遅クナル。仙人サマ、先、子タチ会ウ」

「分かりました。水中から行くのですか?」


 そう尋ねると、一応地上側からも穴蔵に通じているのだそうだが、そちらはそれこそ幼い子供くらいしか入れぬぎりぎりの入り口であるらしい。


 ――佑信の身長は確か四尺くらいでしたかね。それでぎりぎりとなると、いくら現世の紫水の姿に戻っても、なかなか難しそうです。


 流石に小柄とはいえ成人男性であるあの身体は五尺はある。

 詰まってしまっては助けに行くどころの話ではない。


「仕方がありません。紫水に戻れば自然と水への術は解けるでしょう。その瞬間、私を穴蔵へ引っ張って貰えますか?」

「ワカッタ!」

『そ、そんな乱暴な方法で大丈夫でしょうか……』


 尹たちの心配を他所に、早速燦浄は再び仁神白璧に念じた。


『力よ、再び石へ転じ身を潜めよ。人の名、凱瑜紫水へと戻したまえ』


 指輪の石は、今度は白い光を淡く放ったかと思えば、また円盤状へ変形する。すると、額、喉、鳩尾、丹田(たんでん)など、あらゆる場所から神通力を集約し、逆回転しながら内へと納めていく。

 気付けばあっという間に小柄な旅人紫水に戻っていたが、同時にどおっと割られていた水が、もとの位置へと降りかかってくる。


「急グ!」

「うぶっ?!」


 紫水を小脇に抱えた水虎は、物凄い速さで水中を泳ぎ、押し寄せた水流も手伝い、勢いよく例の横穴へと吸い込まれていった。


『燦浄様! 燦浄様!』


 何度か尹たちは心配して念を飛ばすが、返事はない。


『大丈夫でしょうか……やはりこの身体では些か不便というもの。今度遣主様にご相談をさせていただかなくては』


 手持ち無沙汰となった尹たちは、一先ず地上にもあるという、子供しか入れない出入口とやらを探してみることにするのだった。


 ***


 港へ着いた星鸞は、馬首の向きはそのままに辺りを見渡した。


「すまん、少し良いか?」

「へ?」


 長い足で裾を蹴り上げ、馬から颯爽と降り立った謎の貴公子に、網の繕いをしていた漁師が呆けた声を出す。


「この辺りに子供や変わった人物など来なかったか?」

「はあ……変わった人何てのはあんた以上のは見ないね。だが、子供は来ていないかと、捕吏(ほり)さん達も同じく訪ねて来たよ。もちろんあっしは知りませんぜと答えてやったがね」


 捕吏が動いていると言うことは、亭長からしっかり事件の伝達が行われ、調査段階に入ったということだ。

 漁師の言い様からして、わりにしつこく聞かれたのであろう。

 なにやらうんざりしている様子に、星鸞は少し引っ掛かりを覚えた。


「捕吏が子供を? 今朝出た遺体の話はしていないのか?」

「ああ、そっちも聞いたよ。水守の旦那だろ? 坊やが一人になっちまったって話していたよ。保護下に置きたいと話していたね。どうも話しぶりから、立場の上の人が養子にでもしてやろうってんじゃないかね? 温情深いこった」


 保護下に置くのまでは分かるが、もう既に養子先まで決まっているというのだろうか。

 さらに星鸞の腑に落ちない。


「犯人捜しを優先せずにか?」

「当然そっちもやってはいるんだろうが、別にあっしは疑われてなんかいませんぜ?」


 この証言だけで、犯人捜しの手を抜いているとは断定出来ないが、どうにも優先順位が星鸞の予想とは真逆である。


 ――この漁師の見立てが本当なら、捕吏の仕事からはやや逸脱している。人情深いというならそうなのかもしれないが……今の捜査状況が少し気になるな。


 それならば鎮衛所あたりに行ってみるのが妥当であろうか。

 紫水が言っていた、他の行方不明者の有無も分かるであろうと踏み、星鸞は踵を返しかけ立ち止まる。


「突然悪かったな。出来れば妙なものが海に浮いていたりしないか、注意しておいてもらえると助かる」


 対して適当に相槌を打つ漁師に、あまり頼りには出来そうにないなと内心思いつつ、再び星鸞は馬に跨がる。


「旦那も気の毒な人だよ」


 ぽつりと、漁師の独り言が背に投げ掛けられた。


「ここ最近、ずうっと海を眺めていたことが度々あって、なんぞ考えごとだろうとは思っていたが、まさかねぇ」

「何か心当たりでも?」

「さあね。ただ男やもめで坊主っ子一人抱えて、悩み事なんかあったって、打ち明ける相手なんかもいなかったんだろう」


 切なげに語る漁師は、かつて水守が座っていたであろう堤防をちらりと見てから、これ以上話せるようなことはないとばかりに、また網の繕いに戻った。


「そうか……どうも感謝する。失礼」


 馬首を巡らせる青年に向け、漁師は振り向かないままひらひらと手を振った。


 一路鎮衛所へ向かう途中、水守が倒れていた(どぶ)を眺めれば、既にそこからは人だかりが消えていた。

 蓋はしっかりと閉じられていることから、胥吏(しょり)が遺体を安置場所へ移動させ、場の洗浄も終えたようである。

 今となっては遺体が引き上げられた時の騒ぎが、まるで嘘だったかのようだ。

 さすがに祭りの期間中とはいえ、このような事件があったのでは、今年はそのまま静かに終えてしまうのかもしれない。


「折角水守が苦労し点検の末、開催に漕ぎ着けたのだろうに……皮肉なものだ」


 星鸞はぼそりと溢しつつ今朝を思い出す。

 人だかりの頭上から見た程度ではあったが、水守の顔はしっかりと判別がつき、目立った外傷は特に見受けられなかったように思う。

 下手をすれば、死体からは何も犯人の痕跡らしきものは見て取れないかも知れない。


 ――出来ればもう一度しっかり見ておきたいが……安置所にまた馬の時と同じ手を使うのは避けたいな。


 考えながら自然と胸の合わせ目を抑え、下にある板状の固さに舌打った。


 ――便利に使ってしまえば不利が回ってくる……全く使いどころに困る。


 とにかくまずは鎮衛所である。

 過去の行方不明者の人相書きが貼り出されていないかを調べなくてはならない。

 馬を走らせ鎮衛所の石造りの壁を辿ると、木製の扉の前で門番が暇そうに欠伸をして突っ立っていた。


「すまない、行方不明者を探している。何か情報は来ていないか?」

「ああ? 誰だお前」


 目尻を湿らせたまま受け答える呑気な門番に、現状との深刻さの落差があまりにあるため、星鸞は肩を落としそうになる。


「捕吏たちも動いている状況だぞ? 聞いていないのか?」

「んやぁ? 俺は寝泊まりで、順繰りに交代している週だから、この時期は外のことには疎いんだ。今午前のやつと交代したばかりだしな」


 確かに死体の処理には役人である胥吏があたるのだから、機会がなければ溝の死体についても触れる用はないだろう。


「しかし特に変なやつが来たら止めろなど、注意はされていないか?」


 間を置いて、門番は声を出して笑った。


「兄ちゃん以上に変なのは今のところ来てないからなぁ!」


 いよいよ星鸞は本当に肩を落とす。

 港町であり食料供給の要の一つであるこの地域が、これで本当に日々守られているのだろうかと不安にもなる。

 だが、一門番程度の個人を見ただけでそれを判断するのも早計であろう。

 気を取り直して、改めて質問することにした。


「まあ、この際色々と端折(はしょ)るが、人を探しているので、人相書きなど情報が来ていないかを知りたいんだ」

「ん~、ここ最近だとこの娘一人だぞ。ほれ」


 娘と聞いて、杏花の父が早速人探しの依頼を頼み込んだのだろうかと思いもしたが、門番が背にしていた壁の窪みに置いてあった板を渡され、別人であることはすぐに分かった。

 板に描かれた顔は、なかなかに器量の良い素朴で優しそうな若い娘であった。

 歳は杏花より十は上であろうか。

 真っ直ぐな黒髪を片方の肩に一本に纏め流している。

 少し凝った花の形の簪をしていることから、商家あたりの出自であろうか。

 記されている日付を見ると、五日ほど前に居なくなったようだ。


「祭りの準備期間で皆浮かれていたから、居なくなったのに気づくのも遅れたんだろうな。まったくそれらしい報告は来ていないぞ。結婚を約束していた相手が居たってのに気の毒だよなぁ」


 名前は楊蘭(ようらん)。両親の名義で捜索依頼が出されている。


「確かに気の毒だが、その結婚の約束をした男と言うのは?」

「それが大きな声じゃ言えないんだが……」


 門番はどちらかというと、行方不明者への同情というよりは、暇を潰す良い話し相手が見つかった事に高揚しているようだ。

 こそこそと耳を貸せと手招きする顔が、そう物語っている。


「娘の好い人ってのが、実は郡太子様の息子でな。しかし直ぐに代わりの女との婚約を取り付けたらしい。それも中央貴族のご令嬢だって噂だ」

「それは……あまり気持ちが良い話ではないな。この楊家の娘はまだ見つかっていないだけだろう? 生死も確かめぬ内にか?」

「中央政権への足掛かりにもなるからな。上手い話に時に任せて乗ったんだろう。当の息子は、今は随分家に籠っていると聞いたな」


 一応息子はそれなりの傷心を受けているのだろうか。

 何にしろ、こちらが探している子供ら二人とは接点のない話のようであった。


「なるほど。ともかく今町の子供が二名行方不明だ。人攫いが横行しているなら気を引き締めて見張ってくれ」

「えっ、本当かい? 嫌だねぇ……」


 噂好きの門番は「南東の野蛮人が紛れてたら事だな」などとぶつくさ口にするあたり、漸く危機感が少し芽生えたと見える。


「手がかりがないようなので、これにて失礼する」


 星鸞は再び馬を走らせた。

 気になっていた遺体の状態を確かめるためであったが、安置所が設置されている役場付近につくと、ゆるゆると脚を止める。


 ――水守の遺体を見たいなどと、どう理由付けしていいものやら。佑信から託かったことに……いや、流石に本人がいないのに怪しいか?


 何となく馬はそのあたりの木に停め、そろりそろりと安置所の建物付近に歩み寄る。

 すると、木造の小屋の中から口許に布巾を覆った男たちが、引戸を開け二人で出て来た。

 星鸞は思わず建物の角に素早く隠れ、二人の会話に耳をそばだてる。


「いやはや……傷の処理より汚物洗浄に手間取りましたな」

「何しろ下水に突っ伏していたのだから無理もない。家内も世話になっていると話すくらい、仕事真面目な男だったから、こんな死に様はなんともやるせないな」

「上水の水守がよりによって肥取り屋に発見されるなんて、死んでも死にきれんでしょうなぁ」


 内容から彼らは検死を担当する仵作(ふさく)たちであろう。

 ちらりと除き見れば、一人は肝の座った五十代前半、もう一人は少し頼り無さそうな細身だ。


「巷では殺人といった噂が流れていて穏やかじゃないですね」

「うむ、だから我々が呼ばれたわけだが、致命傷になるような傷は一切なかった。溝に転がったかすり傷程度だ」


 やはり自分もそうだと思ったと、内心で頷く星鸞は、引き続き専門職の言葉に耳を傾ける。


「となると、やはり泥酔ですかね?」

「腹が膨らんでいたから相当量だったかも知れんな。無理に飲んだか飲まされたか……」


 話を聞きながら、子供が家で一人で待っているというのに、父親が後先考えず、そんなに飲み明かすだろうかと、星鸞の頭には疑問符が浮かぶ。


「何れにしろ窒息死だ。事件性はないように思うが、俺たちはとにかく胥吏殿に報告するのが役目だ。個人的な解釈は抜きに、ありのままを報告すべきだろう」

「はい、先生」


 どうやら町医者とその助手と言ったところか、役人から要請を受け派遣されたのだろう。

 二人はそそくさとその場を後にした。


 ――これは、今なら行けるか?


 きょろきょろと他に人は居ないかを確かめると、星鸞はそっと引戸を開け、佑信の父である水守と対面する。

 既に顔には白い布がかけられ、体も綺麗な着物に着替えさせられていたので、一先ず確認のため優しく顔の布を捲った。

 その青ざめ落ち窪んだ顔を見下ろし、星鸞はぐっと唇を噛むと、静かに両手を合わせた。


「無念であったな親父殿。だが何よりも佑信のため、俺は真相に辿り着いてみせるからな」


 最小限の声量で誓いの言葉を立て、星鸞は遺体の備品が纏められた机に目を落とす。

 大したものは所持している訳もなく、だが、財布が置かれているあたりを見るに、物取りの犯行ではないことだけは分かる。

 試しにそっと財布の紐を解き中身を改めると、そこには幾つかの銭と、銀色に鈍く光る簪が入っていた。


 ――奥方の形見か何かか?


 じっと見つめていると、星鸞ははたと気づく。


 ――この花の意匠、まさか先ほどの……?


 人相書きが正しければ、それは行方不明者、楊蘭のしていた簪にそっくりであったのだ。


「なぜ佑信の父がこんなものを……」


 急に接点を持ち始めた両者に困惑が隠せず、思わず声が漏れたとき、外から足音が近づいてくる。


「ん? おい、誰かいるのか?!」


 引戸が少し開いていたのか、胥吏を連れ戻って来た仵作が異変に気づいた。

 星鸞はつい舌打つ。


 ――見つかったら言い訳が面倒だっ!


 幸い換気用の窓は大きく、木の棒で押し上げ開いていたので、そこから勢い良く外へと飛び出し、転がるように逃げていく。

 小屋に慌てて入って来た仵作たちが見たものは、ただ情けなくきいきいと蝶番が音を立て、窓板が揺れる光景だけであった。

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