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08. 秘密の思い出と約束 下

8話目です、どうぞ!

 日向は1人面白いものはないかと沢山の屋台を眺めながら歩く。


 お小遣いはポケットの中にある小さな財布に入っているが、お金を使って買ったり遊ばなくても祭りという非日常的空間なだけで日向は楽しめた。だが、折角の冒険だ。


 ――――――公園の方も行ってみよ。どうせ待ち合わせあっちの方だし。


 屋台が並ぶ道から離れ、街灯の灯りのある道沿いを歩き結目神社(むすびめじんじゃ)に隣接する鈴塚森林(すずづかりしんりん)公園へと向かう。


 ――――――夜の公園に1人。なんかしずかでワクワクする。


 日向が1人で夜の公園へと訪れたのは初めての事であった。先程までの煌びやかで賑々(にぎにぎ)しい雰囲気とは打って変わり、暗く夜の静寂を味わう為の空間へと変化する。日中の公園を利用する者たちの明るい声は遠のき、セミや鈴虫の鳴き声は響く様に聞こえる。この自然らしい静けさもまた日向にとって非日常的な空間であった。


 夜の公園を見て・聞いて・感じて・歩いて楽しむ。幼い頃から感受性の高かった日向にとっては、最高の楽しみ方だった。


 何処かにまだ自分が見た事がない風景はないだろうかと歩いていると、何処からか鳴き声が聞こえた。


「ふぇぅ……ひっく……うぅ…………」

「……きみ、まいご?」







 地面に座ったまま泣きじゃくる子供に話しかける。


「ぐすっ……うぅ…………。友だち、いな……っく……なっちゃったぁ……」

「泣かないで? いっしょに探そ?」


 暗がりで見つけたのは泣いている淡い桃色の浴衣ドレスを着た"女の子"だった。

 中々泣き止んでくれないその子に、日向は必死に言葉を絞り出し慰める。


 ――――――どうしよう、えーっと、あ。いつも虹兄が言ってくれる様な言葉がいいかな。


「せっかくかわいいゆかた着てるのに、泣いてるのもったいないよ。きみ、なまえは?」

「……しゅーだよ」


 手を差し伸べしゅーを立ち上がらせ、怪我をしていないか確認する。幸い膝を擦りむいた程度で血は出ていなかった為か、誰かに会えたという安堵感からか、しゅーが泣き止むのは思ったよりも早かった。


「ならしゅーちゃんだね」

「きみは?」

「ヒナタだよ」


 擦ったせいで赤くなった目元で此方を見つめてくる姿は、何処か弟の陸の様で日向は放っておけなくなってしまい、一緒に友達を探すこととなった。話を聞いているとしゅーは隣町から来た子である事が判明した。


「しゅーちゃん、この町の子じゃないの?」

「うん、となり町からきたよ。お祭りがあるってきいて」

「あー、だからか。こっちは神社じゃなくて公園だし、この時間にこっちの道は暗くなるんだよ」


 日頃きょうだいで遊びに来る場所であり、街灯がある場所や暗くて危険な場所は母や兄達から聞いていて知っている為、この辺りに詳しい日向からすれば1人で夜に訪れた事はなくとも、通って安心な道が何処だかは分かる。実際、しゅー出会った場所も夜になると街灯が少なく暗いと教わった場所であった。


「そうだったんだ」

「この公園と神社、慣れてないと暗いとどこだかわからないよね」

「木いっぱいで暗いんだもん、ここ」

「大丈夫、入口のトリイの方まで案内するね」


 日向はしゅーの手を引き、表参道へと繋がる鳥居へと案内する。最初は少し不安げに歩いていたしゅーも何気ない会話をする内に安心したのか、途中からは日向の横を歩いていた。その頃にはお互い打ち解け、友達となっていた。


「ここまで来れば明るいよ」


 日向としゅーは街灯のある場所へ辿り着く。先程までは街灯の少ない暗がりの道だった為、横を歩くしゅーの顔はあまりはっきり見えていなかったが、街灯の明かりに照らされた横顔はとても可愛らしい顔をしており、愛らしいという言葉が似合う少女の様な顔立ちをしていた。


 ――――――すごく可愛い子だなぁ。


 視線に気付いたのか此方を見つめるしゅーと日向の視線が合う。大きなくりっとした黒い瞳に、林檎のように染まった赤い頬。何処か無邪気さを感じる愛らしい見た目をしたしゅーに日向が心を奪われていると、当の本人から思わぬ言葉をかけられる。


「ひーくん、すごくカッコイイね」


 かっこいいと言われ日向は驚く。確かに現在の日向の容姿は中性的顔立ちと男物の服装をしている為、屋台の店主に性別を間違えられる位には"男の子"であった。だが目の前の可愛らしい少女からかっこいいとまで言われる程、"兄の様なかっこいい男の子"に見えているとは思ってもいなかった為だ。


「え、ありがとう。しゅーちゃんもとってもかわいいよ」


 驚きはあったが日向としては格好良いは兄達の様で羨ましく嬉しい言葉だった為、褒められたお礼とばかりにしゅーを褒め返す。本心からの言葉だったからか、その言葉を聞いたしゅーは繋いでいない左手で顔を隠した。


「しゅーちゃん、どうしたの?」

「なんでもない!」

「なんで顔隠してるの? みせて?」

「うぅ……」


 急に顔を隠したしゅーを心配しどうしたかと尋ねる。日向が不安げに見つめていると、しゅーは少しずつ顔を覆う左手を下げていった。視界に現れたのは顔を真っ赤にし恥ずかしがるしゅーの顔で、その表情をもっと見たくなった日向は気付けば今にも鼻先がくっつきそうな程の至近距離で覗いていた。


「ち、近いよっ」

「あははっ、ごめん」

「もう……!」

「しゅーちゃん、やっぱりかわいいね」


 ――――――少しすねたしゅーちゃんも何だか可愛い。


 日向の口角は緩み、ふにゃりとした緩んだ笑顔になる。何故か目の前のしゅーも日向を見つめながら固まっていて、その瞳や姿に魅せられ日向は目が離せなくなる。日向の心臓は少し早く鼓動し、お互い見つめあったままただ時間だけが過ぎる。


 まるで時間が止まってしまったかの様なその空間に、遠くからドーンと大きな爆発音が鳴り響く。


「あ、みて。花火だよっ」

「わあ~!!」


 大きな爆発音により我に返った日向は音の鳴る方を指さす。赤・青・緑・黄・紫・金・銀。生い茂る木々の隙間から、色とりどりの花火が空に咲く。日向はすぐそばの池の近くにあるベンチへしゅーを連れ、横並びに座る。


「しゅーちゃんにだけトクベツに教えてあげるけどここね、花火がすっごくキレイに見えるの」

「ほんとだ!!」

「お気に入りなんだ」


 結目祭の夜に少し離れた川で上がる打ち上げ花火。近くで見たい人は川沿いに行き、結目祭を楽しむ者達はその場で楽しむ為居らず、更に灯りが少ないという点でも鈴塚森林公園は意外な穴場スポットであった。


 結城家はよく結目祭を堪能した後、この公園に来て花火をを眺め楽しんでおり、その中でもこの池の近くのベンチは池に花火が反射し、生い茂る木々がフレームの様に花火を囲う為、日向のお気に入りの場所だった。


「ひーくん、ありがと」

「この場所は2人だけのひみつね?」

「うん!」


 ――――――家族は知っているけれど他の人に教えたことないから、2人だけのひみつで間違いないよね。しゅーちゃんは特別だもん。


 そっと日向が差し出す小指にしゅーが小指を絡ませ、約束を交わす。家族と交わすようないつもの"約束"という言葉が、しゅーと交わすと思うと特別な約束の様に感じ、日向は胸が(おど)る。


 ――――――"しゅーちゃんと2人だけの約束"、かあ。


「あ、あれなんだろっ」

「ハートかな? みて、あっちは星だよ」


 菊や牡丹に(かむろ)、ハートや蝶等の可愛らしい型物かたもの等が、順に夜空を彩る。2人で夜空を見上げながら、あれは何だろうと指を指し、あれが綺麗だ、これが自分は好きだと語り合った。


 その時のしゅーの横顔が、何故か日向にはとても愛おしく見えた。何故しゅーといるとドキドキしたり、胸の奥がポカポカと温かい気持ちになるかも分からないまま、その時間はあっという間に過ぎていく。


 終わりを告げる締めの大輪の花火が空に咲き、幕が閉じる。


「おわっちゃった」

「そうだね」

「あーあ、ずっと続けばいいのに。もうもどらないと」


 寂しそうに言うしゅーと同じ気持ちだったが、その気持ちを隠すように日向は明るく振る舞う。日向にもしゅーにも、待っている家族や友人がいるのだ。12時の鐘が鳴ればシンデレラの魔法がとけてしまう様に、大輪の花火と共に2人の時間にも終わりが訪れた。



「行こっか、お友だちきっと探してるよ」

「ん……」


 差し出した、2人は再び鳥居を目指し歩く。この道を真っ直ぐ行けば目的地の鳥居へと辿り着く。刻々と2人の別れの時が近付いていた。


「しゅーー! どこ!?」

「いるなら返事してー!」

「どこーー?」


 鳥居が近付き人通りが増える中、その奥の屋台が立ち並ぶ場所で声を張り、名前を呼ぶ姿が日向達の目に映る。数人の大人の女性としゅーと同い年位の子供達がしゅーを探している様だった。その姿を見たしゅーが少し安心した様な表情を浮かべる。


「あ、お母さん達!」

「見つかってよかったね。じゃあもう行くね」


 ――――――無事に見つかったみたいだし、急いで待ち合わせの場所に戻らないと。にぃにぃ達に心配されちゃう。



 繋いだ手を離し、去ろうとする日向の手をしゅーはぎゅっと強く握った。


「ひーくんと離れるのやだ……まだ一緒にいたいし遊びたいよ……」

「ごめん、もう戻らないといけないんだ。だからこれ代わりにあげるよ」


 日向はポケットの中から兄達と一緒に授かった【結目うさぎ】のストラップを取り出す。袋の中から【赤い耳の兎のストラップ】を取り出し、しゅーへ手渡す。


「ウサギさん……? かわいい」

「このお祭りのきねんのウサギさんなんだって。赤と青の子だから赤い子を約束の証にあげる」


 【青い耳の兎のストラップ】を日向はお揃いだと見せる様に持つ。


「やく……そく…………?」

「うん、またこのお祭りで会うための約束。さっき花火見た場所でまた会お?」


 先程一緒に花火を見た池の前のベンチで会おうと日向は提案する。


「花火の時間に?」

「うん、花火の時間」

「わかった。なら代わりにこれあげる」


 ごそごそとしゅーはポシェットの中から何かを取り出し、自分の手に乗せる。それは赤と青の色違いの王冠のモチーフが付いた【玩具の指輪】で、しゅーは【青の玩具の指輪】の方を日向に渡す。


「ゆびわ?」

「うん、お気に入りのゆびわ。だからウサギさんとこうかんしよ。約束の証に。このゆびわも赤と青でおそろいだからひーくんってすぐわかるかなって」

「これでしゅーちゃんのことも、まちがえることないね。大切にするね」

「お……しゅーも大事にするね」


 "しゅーのお気に入り"を貰い、日向は嬉しくなる。互いのお気に入りを交換する儀式は、互いを同じくらい大切に想っている様な気がしたからだ。


「それじゃあ、ゆびきりしよ。やくそくだよ」

「やくそく」


 約束の指切りを終え、日向はじゃあねと言って人混みの中へ振り返らず小走りする。既に兄達との約束の時間を過ぎてしまっている為、振り返る暇もない。走って約束の鳥居へと向かう。


「はぁ……はぁ……ご、めん、にぃにぃ。遅くなって!」

「どこ行ってたんだよ! 心配したぞ!!」

「ひーちゃん、無事でよかったよ」


 既にその場で待っていた兄達に日向は慌てて謝罪する。


「心配かけてごめんなさい。花火見てたら遅くなっちゃった」

「無事なら良いんだけれど、心配するから今度からは気を付けてね?」

「うん」

「もう少しで探しに行こうかと思ってたぜ」


 心配をかけた事は申し訳ないと思いながらも、日向の脳裏に浮かぶのは先程のしゅーとの思い出だった。流石にこれ以上心配をかけたくないのと自分だけの思い出にしたかった為、兄達には屋台を見て周っていて遅くなったことにした。


 ――――――来年また会えるかな?



 日向は翌年の再開を夢見ていた。

8話は過去編、9年前の結目祭の日向パート後編でした。


幼い日向の冒険話でもあり、しゅーちゃんとの出会いの回でもありました。

今回の話は4話目の柊亮視点とは同じ内容な部分もあったり、日向視点の部分も表現しています。

楽しんで頂けたでしょうか?


翌年の日向は何をしていたのか……

少しだけ暗い話になってしまうかもしれませんが次回をお楽しみに!

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