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05. 放課後のお出かけ

5話目です、どうぞ!

今回からもう1人の主人公パートです。

 その日は学校終わりに他校に行った友達とショッピングモールにて買い物の約束をしていた。待ち合わせをしたショッピングモール内の本屋で本を眺める制服姿の親友・芽衣(めい)を見つけ、日向は後ろから脅かす様にそっと背後に近付く。


「――――――ばあっ!」

「わっ!? びっくりしたわぁ」

「あははっ、ごめんごめん。久々だからつい」

「全くもう、ひなったら」


 日向と芽衣は小学校、中学校では一緒の学校に通っていた。小学校の頃から放課後や休日に一緒に遊んだり、勉強を教えあったり、お互いの相談事も気軽に相談出来る様な仲であった。高校生になり違う学校へ通う様になったが、今でも時々こうやって時間を合わせ会う大切な存在だ。


「とりあえず移動しようか」

「うん。それでなんだっけ? 今日見たいものあるって聞いてたけど」

「こっちこっち~」


 芽衣に案内され向かった先は期間限定の特設コーナーで男女それぞれの浴衣や帯、下駄やバッグ等の夏祭り関連の衣服を販売をしていた。


「学校の授業で浴衣が必要になってさ。でも浴衣なんてもう何年も着てないし持ってないから買わなきゃいけなくなってね。折角ひなといるなら今日選びたいなと思って」

「成程ね、了解。似合うの探す」

「助かるわ~」


 特設コーナーには色とりどりの浴衣が何十着も飾られている。男性物の数から考えれば女性物はその倍以上の品数が飾られており、そこから好きな物を探すのは1人では骨が折れる作業である。


 日向は芽衣に希望を聞いてから浴衣を探し始める。


「とりあえず色とか柄とか希望ある?」

「んー。あんま目立たないやつ、派手じゃない柄で。色の好みはいつも通り」

「芽衣、これとか好きそう」

「おー、いいね。そういう感じの好き。でも学校用だしもう少し渋めなのも見たいかも」


 日向がセレクトしたのは抹茶色をした生地に白い小菊の模様の入った浴衣であった。


「もしくはこういうのとか?」

「あ、それも好き。これはどう?」

「似合うね」


 新たに紺色の生地に白百合の模様が入った浴衣と、ベージュの生地に金魚の模様が入った浴衣。どれも芽衣が好む少し落ち着いた色やデザインのものを見比べる。他にもダークネイビーの生地に白い椿の模様の入った浴衣や、白い生地に青い菊の模様が入った浴衣も候補に挙がる。


「うーん。どれかな、悩む」

「好きなのと学校で着るのだと違う感じ?」

「そうそう。今の学校女子校だし変に目立つの嫌なんだよねぇ」


 芽衣が通う高校はこの辺りでは名の知れた女子校であり、クラスによっては女同士の嫉妬やひがみが凄いのだと聞いたのを日向は思い出す。


「せめてひなが居てくれたら、もう少し気楽なんだけどね~」

「あははっ、私もそう思っているよ」

「ひなも相変わらず、あんま仲良い子いないの?」


 芽衣は日向が中学生の頃、クラスに仲が良い子が少なかった事を知っている。本来見た目や性格面でクラスで目立つ存在の彼女に友達が少ない理由は、友人付き合いより家族を優先し誘いを断っていた為だった。その事を芽衣は知っていたし、日向自身もそれを理解した上で家族を優先していた。別々の高校に通う様になって近くに居れなくなってしまってからは、寂しい思いをしているのではないかと芽衣は特に日向の学校での様子を気にかけていた。


 だからこそ、芽衣にとって大切な親友である日向からの返しは思いもよらないものであった。


「うーん……あ、でも今年は仲良い子できたよ」

「ええっ!!!?」


 驚きのあまり声が大きくなり、『しぃーっ』と日向に注意をされる。


「去年はほら、弟の(りく)がまだ小学生で、嵐兄(あらしにい)が大学で一番忙しそうにしてたから家の事結構やらなきゃいけなかったけど、今年は陸も中学校に上がって、嵐兄が大学3年になって余裕出たみたいで家の事最近は結構やってくれるんだよね。お陰で虹兄(こうにい)も私もやっとちょっと余裕出来たかなって感じ」

「相変わらず仲良し家族だね」

「うん。そういうのもあって最近は前よりは自分の時間も出来て、クラスの友達とたまに寄り道して帰ったりもしてるよ」


 日向の家庭事情や家族想いな性格を知る芽衣からすれば、友達と放課後に寄り道をしているイメージはほぼ無い。その時間があれば基本は家の事をやりたいタイプである。ましてや中学時代の様にまた、付き合いの悪い奴と陰口を言われていないかとすら心配していた為、その話には驚きを通り越して喜びすらあった。


「よかった~! ひなにやっとちゃんとまともな友達出来て、私は嬉しいよ!」

「どんな立場だよっ」


 日向は笑いながらツッコミを入れる。だが、日向自身も放課後を一緒に帰る様な友人が出来るなどとは考えていなかった為、芽衣の気持ちは理解できる。


「で、どんな子?」

「とりあえず浴衣選んでからね。このままじゃ一生決まらなさそうだし」

「はっ……確かに。なら浴衣買ったらお茶しよ~」


 目を輝かせ話に食いつく芽衣を制し、一度話を浴衣選びへと戻す。最終的に芽衣が選んだ浴衣は白い生地に青い菊の模様が入った浴衣と紺色の帯と下駄であった。選んだ理由を日向が尋ねると『だってこれならひなと出かけても可愛いじゃん?』との事だった。


 その日のレジは混んでおり時間がかかりそうだった為、商品をカゴに入れレジに並ぶ芽衣を待つ間、日向は近くの雑貨屋を見に行こうと歩いていた。


 ――――――あ、柊亮くんだ。…………何かあったのかな。


 日向が思い詰めた様に辛そうな顔をし、暗い雰囲気を纏いながら歩く柊亮を見かけたのはその時だった。そんな彼の姿を見て放っておけなくなり、日向は思わず声をかけた。


「あれ、柊亮くん。どうしたの?」







 ――――――偉そうなこと言っちゃったかな。


 柊亮の相談を聞き別れた後、日向は急ぎ芽衣が待つ珈琲チェーン店に向かった。レジでアイスのカフェオレを頼み受け取った日向は、辺りを見渡し待たせてしまった芽衣を探す。窓側の席には買い物が終わり、スマートフォンを弄りながら待つ芽衣の姿があった。


「ごめん、待たせて」

「ううん。こっちこそレジで待たせてた訳だし気にしないで。誰か知り合いでも居たの?」

「うん、さっき話していた高校の友達がいてちょっと話してたの。なんか大丈夫かなって顔して歩いてて放っておけなくって」

「相変わらず優しいね、ひなは」


 日向の性格上、一度でも放っておけないと思った時はすぐ手を差し伸べるタイプなことを付き合いの長い芽衣は知っている。


「それでどんな子なの? その子。男? 女?」

「今会ったのは男子だよ。最近仲良い子の一人で、普段はちょっと無口なタイプかな?」

「ほほう。詳しく詳しく」


 芽衣が知る限り、日向から男の子の話題が出たことはほぼ無い。家族以外の男性の話はクリスマスやバレンタイン等のイベント前に告白されている話は聞くがその程度のレベルの話のみだった為、芽衣はキラキラと目を輝かせ問いただす。


「うーん、詳しくと言われても……。柊亮くんって言って、ちょっと不器用だけど優しい人だよ。同じクラスの子で身長は男性にしては低めかな。部活に入ってなくて、帰りが一緒になった時は途中まで一緒に帰っているんだ」


 柊亮の事を説明しようとするが、彼を説明するには一言では足りないなと話していて日向は思う。無口な様だけど2人きりだと結構話そうとしてくれる事、基本的に目立つのが嫌いな事、気遣い屋な事、普段はぶっきらぼうな所もあるけれど親しい友達にはとても優しい事も。きっとこの短い説明だけでは伝わらないであろう。


 ――――――ちょっと気になっている人だって事は芽衣にはまだ黙っておこ。まだちょっと気になるなってだけだし。


「日向が特定の誰かと帰っているの珍しいね。中学は私がいたけどさ」

「その柊亮くんの幼馴染のメンバーと仲が良いんだよね。透くんと恵ちゃんって言って、二人は部活に入っているから、毎日一緒に帰れる訳じゃないけどこの4人で帰るのも楽しいから好きなんだ」


 日向は高校1年生の間は特定の誰かと学校帰り一緒に帰るという事をしていなかった。正しく言えば最初の1ヵ月の間は誘われる事はあったのだが、日向が家族や家の事で断る事が多い為、断る内に誘われなくなっていったのである。別に日向としては『まあ別に良いか』としか思ってはいなかったが、2年に上がりまさかそんな日向にも気にせず誘ってくれ、一緒に帰る友人が出来るとは思っていなかった。


 ――――――4人で帰るのは楽しいんだけど、柊亮くんと2人で帰るのは落ち着くんだよね。


 嬉しそうに語る日向を見て、芽衣も嬉しくなる。親友に自分以外の親しい友達が出来るのは喜ばしい事だ。


「良いじゃん~。ひなが楽しそうで私は嬉しいよ」

「あははっ。ありがと、芽衣。いつも心配してくれて」

「親友なんだから当たり前でしょ」

「流石親友」


 自慢げに言う芽衣に、ふにゃりと日向は笑みを浮かべる。


「話は戻るけど、なんでシュウスケくん、だっけ。その子、そんなヤバそうな顔して歩いてたの?」

「あー……うーんとね――――――」


 日向は先程柊亮と会い。何があったのかを話す。


「ふーん。"約束"ねぇ……」

「いつとは聞いてないけど、昔誰かとした約束の事で悩んでたみたい」

「そういえば、ひなも昔約束の話してたよね」

「あ、うん。小学校の頃の結目祭(むすびめまつり)の話でしょ」


 過去に日向は芽衣にのみ結目祭であった出来事の話をした事がある。母以外の家族には語っていないその時した"約束"の話も、芽衣にのみ伝えていた。


「今年ももうすぐその時期でしょ?」

「もうすぐだね」

「結目祭行かないの?」

「うーんどうだろ。行けるかな……」


 去年1番上の兄はその時期残業続きで忙しく、2番目の兄は学業とバイトで忙しく、弟の陸はその日寝込んでいた為、日向が1人で看病していた事を思い出す。あの"約束"をした日から、日向は様々な事情で結目祭へ行けていない。今年はどうなるのか等、正直その時になってみないと分からない。


「行けたらでも行っておいでよ。もしかしたら約束の相手来るかもよ?」

「でもそれこそ9年も昔の話だよ? 流石に居ない気がする……」


 ――――――とても可愛い"しゅーちゃん"との大切な"約束"。だけどもうあの日から9年も経ってしまったんだよな……。


 何処か諦めている様な悲し気な表情で笑う日向に芽衣は励ましの言葉をかける。


「大丈夫だって! もしかしたら来るかも、位のテンションで行けば良いんだからさっ」

「ふふっ、確かに。相手が来るにしろ来ないにしろ信じるのは自由だもんね」

「そうそう。居なかったら居なかったで、昔の思い出だったって事で良いじゃん? それか巡り合わせが悪かったとか、運ってやつだよ。きっと」

「確かにそうだね。さっき同じ様な事柊亮くんに言って励ましたんだけど、自分の事だとついマイナスに考えちゃった」


 日向がどれだけ努力をして今の平穏な生活をしているか知っている芽衣は、ポジティブな言葉を紡ぐ。きっと日向は9年前の約束でも守れていない自分を責めている。だからこそ彼女の優しい心を守るように、そっと勇気を与える様に笑顔で返す。


「あーあ、私がその日行けたらな~。ひなと行くのに」

「宿泊学習だっけ? 頑張って」

「くぅぅ~! その後の夏祭りは一緒に行こ」

「うん、行こ。その時は浴衣選び付き合ってね?」

「勿論、喜んで!」


 芽衣と日向は新しい約束を結び、その日は解散となった。1人で歩く帰り道、日向はスマートフォンのメッセージアプリで次男・嵐に連絡を取る。


『これから帰る。何か寄るとこある?』

『無いから早く帰ってこい。晩飯はカレー』

『了解』


 スマートフォンの画面を閉じ鞄へしまい、今晩のカレーを想像しながら歩く。次男の作るカレーはきょうだいの中で1番美味しいのである。


 ――――――コンビニ寄って食後のデザートでも買って帰ろうかな。シュークリームかエクレアにしようかな。あ、アイスも捨てがたい。


 勿論、きょうだい全員が好きなデザートを買うのが前提である。楽しげに食後のデザートを検討する中、ふと夕暮れに染まる空を見る。


 ――――――今年の結目祭の日、嵐兄バイト休みだったりしないかな。帰ったら聞いてみるか。



 淡い期待を抱きながら、日向はコンビニに寄ってから大好きなきょうだいが待つ家へと帰宅した。

5話はもう1人の主人公である日向パート、2話目の日向側の話でした。


新キャラ・芽衣ちゃんと日向の会話は書いていても楽しかったです。

最近の浴衣売り場ってワクワクしますよね、沢山の種類の浴衣や帯があって。柄も豊富で。

見ているだけで楽しい場所な気がします。


次回も日向編続きます、6話目をお楽しみに!

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