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03. 偽りと出逢いの結目祭 上

3話目です、どうぞ!

 学校から帰宅した柊亮は晩御飯やお風呂等を早々に済ませ、自分の部屋へ行きベッドに身体を投げ出していた。


 ぼーっとしていると柊亮のスマートフォンのバイブ音が鳴る。画面を確認するとメッセージアプリからの通知音であり、宛名は恵からで気付かない内に既に何通も送られてきていた様だった。


『さっきは本当にごめん』

『柊亮の気持ち考えられていなかったかも』

『ちゃんと謝りたい』

『柊亮、ちゃんと帰った?』

『大丈夫?』


 そこには恵が心配しているのが伝わる文面が何通も綴られていた。とりあえず『大丈夫、帰った。気にしていないから。また明日な』とそれだけ書いてメッセージアプリを閉じ、スマートフォンをベッドボードへ置く。


 正直今は恵とこれ以上話す気力は無い。先程よりは元気になったとはいえ、心の整理をしなければまた同じことを繰り返す可能性がある為だ。


 ――――――そんな"約束"自体なかったなんて事は無い。俺は覚えている。 


 しかし高校生にもなると幼き頃の記憶というものは曖昧な部分もあり、既に10年近く経ったこの思い出は、おぼろげな部分や欠け落ちてしまった記憶もある。


『"やくそく"だよ』


 だがあの時の言葉だけは、表情もその時の感情も、今も鮮明に脳裏に焼き付いている。

 それは柊亮にとって初めて感じた感情であり、あの日以上に自分の心を揺さぶられる様な出来事は無いからだ。


 ベッドから起き上がり、勉強机の引き出しからずっと大切に閉まっている【兎のストラップ】を取り出す。このストラップはヒナタから貰ったものであり、ヒナタと会った唯一の証拠品でもある。


 この【兎のストラップ】は結目祭(むすびめまつり)限定の結目神社(むすびめじんじゃ)の商品であり、毎年対の兎の色が異なるという事を中学校に上がってから柊亮はネットで調べて知った。


 本来この対になっていた【兎のストラップ】を二人で分け合った為、柊亮が【赤い耳の兎のストラップ】を、ヒナタは【青い耳の兎のストラップ】を持っている。


 そしてストラップにはこの赤い王冠のモチーフが付いた【玩具の指輪】が追加されている。指輪は元々付属していた物ではなく柊亮が中学生の頃、後から金具を足し取り付けた物であった。この指輪の対も当時の柊亮とヒナタで分け合ったものであった。


 互いが持っていたものを交換して作られた世界で一つだけのオリジナルストラップであり、他の人が同じものを持っていることは確実に無いだろう。


 ――――――今考えるとあの状況自体、普通じゃありえないシチュエーションなんだよな。



 柊亮はもう一度ベッドに寝転がり、【赤い耳の兎と指輪のストラップ】を眺めながら思い出す。

 あの初めて行った結目神社の結目祭(むすびめまつり)の事を。







 今から9年前、その日はとても蒸し暑い日だった。小学2年生でありまだ7歳の頃、初めて隣町の鈴塚町(すずづかちょう)で開催された結目祭へと柊亮は透と恵、その母親達と出掛ける事になった。


「うちの子、顔は可愛い系だと思ってたけれど……」

「こうやって見ると女の子3人に見えないこともないわね。名前は透子(とおこ)(しゅう)にすれば女の子にいるし良い感じじゃない?」

「なんならうちの恵より柊亮くんが一番女の子に見えるかも。うちの娘達のおさがりあって良かったわ~」


 その日、両親との約束を連日守らず更には家の物を壊し、本来着る筈だった浴衣を汚したという理由、更には恵のおねがい(2人の可愛い姿が見たいという願望)によって、柊亮と透は自分の母親達から女装をさせられていた。


 女装という罰を提示された際、柊亮と透が一番嫌がったのも執行された理由の一つでもあり、母親たちからすれば『少しはお淑やかさを身につけなさい(ただ段々母親たちの趣旨はお淑やかさを身につけろから、どれだけ息子たちを可愛くできるかに移行していた)』という意味合いもあった。


「意外にしゅーすけ似合うな」

「とおるに言われるのなんかやだ」

「2人ともかわいいよ!」


 今日の透は黄色のセパレートタイプの浴衣ドレスに黄緑色の帯で、柊亮は淡い桃色のセパレートタイプの浴衣ドレスに赤い帯。髪は2人とも部分付け毛に浴衣の色に合わせたヘアピンをあしらい、可愛らしいファッションとなっていた。この浴衣ドレスを用意したのは恵の母で、恵の姉達のおさがりであった。


 まだ性別を一見しただけでは分かりにくい年齢なこと、声や背格好、女装が似合っているのもあり、本人達を知る人以外からは本来の性別は理解されないであろう状況となっていた。


 特に柊亮は元々女の子の様に可愛らしい顔をしており、身長も低かった為、実の母からも『女の子を産んでいたらこんな子だったのかしら』と言われる程、見た目だけならば完璧な女の子となっていた。だが見た目はどれだけ可愛らしく女の子の様に見えても中身は男の子の為、行動や言葉遣いは変わっていない。


「スカートってまじでスースーするな」

「でも暑いし楽かも」

「なんだか、あんたたち似合いすぎててイヤだわ」


 2人の男子がスカートというものを初めて履いた感想は至ってシンプルなものだった。裾を掴みバサバサと扇ぐ様に内側に風を送り込もうとしている透と、涼しさに感動している柊亮の姿に、同じセパレートタイプの赤色の浴衣ドレスに桃色の帯をした恵が複雑そうな感情を口にする。


「なんじゃそりゃ」

「はいはい、今日はみんな良い子にして付いてきてね」

「あんた達、今日は大人しくするのよー」


 3人は元気良く返事をし、母達に付いていく。


「わーー!! 広いね!」

「近所のおまつりより大きいね!」

「金魚すくいとかチョコバナナもあるな!」


 幼い柊亮達は隣町である鈴塚町(すずづかちょう)へ訪れた事もなかったが、大規模な祭りへと来たのも初めての事だった。

 今まで近所の小さな公園やスーパーの駐車場で行われる様な小規模な祭りにしか参加した事がなかったが、今年は小学校に上がって2年生になった事や母親同士の予定も合い、隣町の大きな祭りである結目祭(むすびめまつり)に連れてきてもらったのである。


「チョコバナナ食べたい、ママ買って~」

「はいはい。でも食べやすいカップのやつね」

「おれ、焼きそばとたこ焼き食べたい」

「透はどっちかにしなさい」

「お母さん、フランクフルト食べたい」

「なら母さんも食べようかな」


 お祭りの定番商品である焼きそばやたこ焼き、お好み焼き等の主食系に、焼き鳥やフランクフルト等の串焼き、わたあめやフルーツ飴、チョコバナナ等のデザート系など、様々な料理の出店。ヨーヨーすくいや金魚すくい、三角くじ等の定番の遊べる出店に、お面屋に型抜き、輪投げや射的等の沢山の屋台が表参通沿いに出店している。

 今まで柊亮達が行った事のある祭りより規模が大きく出店数も多い為、子供達のテンションは一気に上がる。食べ物の後は遊ぶものへ一直線に向かい走り出す。


「ねえ、あっちにヨーヨーすくいある!」

「恵、走らないでっ」

「おれクジやりたい!」

「透も1人で行かないのっ」

「おれもくじ行く!」

「あ、あたしも行く!」

「3人とも待ってっ」


 楽しいことを目の前にした彼らは母親達の制止を聞かず、人混みの隙間を抜けるように一斉に走り出す。

 目指すは少し遠くに見えるくじ引きの屋台。


「おじさん、これやりたい!」

「1回200円だよ」


 各々身に着けている小さなポシェットから財布を取り出す。今日はお小遣い制で、各々遊ぶ分のお金は事前に貰い財布に入っていた。財布から200円を取り出し、くじ引き屋のおじさんへ手渡す。


「ほら、1人1個ずつ順番に取りな」

「わーい!」

「次おれ引く!」


 恵が一番最初に引き、次に透が引き、最後に柊亮が箱の中から1枚引く。中を確認すると恵と透の紙には8等、柊亮の紙には9等と書いてあった。


「どれどれ、8等と9等な。8等はこっちで、9等の景品はあっちだ」


 8等の景品コーナーにはぬいぐるみやキャラクターものの文房具や玩具が並んでおり、恵はキャラクターもののぬいぐるみを選び、透は子供用のけん玉を選んだ。


 8等の横にある9等の景品コーナーから貰えるのは、お菓子かストラップであった。ポテトチップスやグミ、飴やラムネ等はサイズや選ぶものによって貰える個数が変わるシステムで、ストラップを選ぶとおまけの飴1個が付いていた。柊亮は迷った末、王冠モチーフの指輪が色違いで2つ付いたストラップにした。


「おかしじゃなくていいの?」

「うん、これカッコいい」

「しゅーすけ、そういうの好きだよな」


 この頃の柊亮は王冠や星等のデザインを好み、筆箱や服にそのモチーフが入っていたら絶対それを選び好んで使う子であった。


「このドラゴンとかカッコいいと思うんだけど」

「それ、とおるの好みじゃん」

「ううん、これがいい」


 2つの銀色の指輪は、それぞれ赤と青の色の王冠の形をしたモチーフが付いていた。


 ――――――どっちもかっこいいじゃん! お宝にしよ。


 柊亮は指輪のストラップを眺めた後、身に着けていたポシェットへそっと閉まった。


「次どうする?」

「あっちのヨーヨー取ろうぜ」

「あたしもほしい!」

「――――――あんた達、走り出すなって言ったでしょうが!」

「いっでぇっ!!!!」


 追いついた透の母により、透は拳骨を食らう。透は痛さのあまり、拳骨をもらった頭を手で押さえ、うずくまる。


「はぁ……はぁ……はしゃぐのは良いけど、走り出さないでほしいわ」

「ごめんなさぁい」

「貴方達、良い子にできないんならもう帰るわよ?」

「「「それはやだ!!!!」」」

「じゃあ母さん達と約束して? 絶対1人でどこかに行かない事。せめて3人で一緒に行くこと。どこか行きたい時は母さん達に伝える事。いい?」

「「「はーい!!」」」


 走って追いかけてきた母達にお説教をされた柊亮達は大人しく従う事にした。それからは母の誰か1人が交代で3人に付き合い一緒に屋台へと向かっていたが、最終的には行き先を伝えて子供達3人で屋台に行き、母達が座るテーブル席へと戻るという流れになった。


「あの子達本当に元気ねぇ……」

「あたしもちょっとクタクタ。お腹も空いたし何か食べましょ」

「そうね。柊亮、透くん、恵ちゃん、私達このテーブルの所にいるから、必ずここに戻ってきてね」

「遅くても花火が鳴ったらここに帰ってきなさいね。花火が終わるまでに帰ってこなかった悪い子には、後でお仕置きだからね」

「後、あまり遠くには行かないように。お小遣いも無くさないようにね」

「「「はーい!!」」」


 体力的に休憩したい母親達とは違い、子供達は未だ元気が有り余っている。もっと遊ぼうとわたあめやフルーツ飴、型抜きや輪投げ等、何にお金を使うか考えながら屋台を見て歩く。小学校2年生のお小遣いには限りがある為だ。


「あたしやっぱりわたあめかな。とおるは?」

「おれはわなげしたい」

「おれ、フルーツあめ食べたい」


 各々やりたい事が違ったが、母親の言いつけ通り3人で順番に屋台を回った。母達を怒らせると怖いのを身をもって知っているのもあり、3人は喧嘩せずに近い屋台から行き、食べ物を買い、輪投げや型抜きをして遊んだ。

 お小遣いをある程度使い、柊亮たちは暇を持て余す。母達の元へと戻る様に3人で歩く中、折角ならと透が新しい遊びの提案をする。


「なあ、かくれんぼしね? まだ花火の時間じゃねえし」

「お母さん達、もどれって言ってたよ?」

「つまんねぇじゃん。まだ遊べるのに」

「たしかに」

「まあそうだけど」

「かくれんぼでもしようぜ」


 よくこの3人は何処で遊ぶでも定期的にかくれんぼをしていた。鬼ごっこは透が足が速く勝負にならないが、かくれんぼの隠れる技術は3人ともほぼ同じレベルだった為である。


「いいね、やろ」

「しゅうすけまで乗り気なの?」

「ならめぐみだけ先帰ってもいいぞ」

「いやよ、やるわよ! 仲間外れにしないでよ」

「じゃあ決まりだな」


 最初は母達の元へ戻る事を提案していた恵も、誘惑に負け参加表明する。結局いつもこの3人が揃えば、こっそり悪い遊びをし始める。そして最後にはバレて母達に怒られるまでがセットの流れでもあるが、それでも気にせず遊ぶのがこの3人である。


「時間は花火の始まる時間まで。鬼はじゃんけんで決めよう」

「花火が終わるまでに見つからなかったやつは、母ちゃんたちのとこ集合な!」

「おっけー」

「わかった」


 ルールが決まったところで、鬼を決める為のじゃんけんをする。じゃんけんに負け、柊亮が鬼に決まる。


「じゃあ10数えるね」


 柊亮は近場の木に顔を向け、目を瞑り数え始める。


 ――――――1、2、3、4、5、6、7、8、9、10っと。


 目を開け振り返り、透と恵を探す。屋台の灯りがある場所を中心に巡り、隠れられそうな場所を探す。非日常の光景でのかくれんぼはある意味冒険の様で、柊亮は捜し歩くだけで楽しくなる。


 ――――――どこ行ったんだろ、2人共。


 どこを探しても見当たらず、柊亮は探す場所を変えることにした。屋台が並ぶ表参道から離れ、街灯の灯りのある道沿いを探し歩く。



 柊亮は気付かぬ内に結目神社に隣接する鈴塚森林(すずづかしんりん)公園に迷い込み、公園の中でも外れの方へと向かっていた。

3話は過去編、9年前の結目祭の話でした。

昔は浴衣ドレスって無かったなと書きながら思っていました。


次回ついにヒナタが登場します、4話目をお楽しみに!

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