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01. 君の面影を探して

初めての短編です。

どうぞ最後まで読んでいってください。

 ――――――俺にはずっと昔から探している人がいる。


 たった一度しか会ったことのない人物を何年も探していると周りに話せば、多分笑われてしまうだろう。実際幼馴染みには笑われたことがある位だ。


 だが仕方がない。

 あの日、俺はきっとその子に"心"を奪われてしまったのだから――――――。




 ◇




 4月8日、桜が舞う季節。鈴塚第一(すずづかだいいち)高校の始業式後の教室で橘 柊亮(たちばな しゅうすけ)はクラス分けされたばかりの新しい教室の机に肘をつき、気だるげに過ごしていた。


「お目当ての子は居そうか?」


 高2のクラス替えで一緒のクラスになった幼馴染み、是枝 透(くにえだ とおる)が話しかけてくる。


「分かんねぇ。名前位しか分かんねえし、そもそも同じ学校にいる保証もねぇし」

「それでも探してるなんてお前すげえな。もう10年近く昔の話だろ? その"ヒナタ君"って子と会ったの」

「……まあな」

「そういや貼り出されてた座席表に同じ名前はあったぞ」

「本当か」

「だが残念、お目当ての男の子じゃなく女子だ。しかも同学年ではちょっとした有名人」


 期待外れだなと肩を落とす柊亮を横目に、透は気にせず話を続ける。


結城 日向(ゆうき ひなた)さんって言うんだけど、同学年では有名になる位綺麗な子だ」

「見たことあるのか?」

「勿論! ちゃんと拝みに行った事があるとも」


 ちゃんととは何なのかと思いながらもそんな女性が同じ学年に居たのかと意外に思い、柊亮は透の話を少しは真面目に聞くことにした。暇つぶしの雑談兼、多少はクラスメイトの事を知っておいても良いだろう程度のノリではあるが、柊亮が話題に乗ってきたのが嬉しかった透はいつになく饒舌に語り始めた。


「今年一緒のクラスになれるなんて本当最高だよ」

「拝みたい放題ってか?」

「うん、美女がいるだけで学校に来たいと思える」

「何の話してるの?」

「げ、(めぐみ)か」

「げとは何よ、げとは」


 突如会話に入ってきた桜小路 恵(さくらこうじ めぐみ)に、思わず柊亮の本音が漏れる。柊亮、透、恵は小学校からの幼馴染みという名の腐れ縁であり、柊亮にとって透は親友、恵は少しおせっかいな部分もある唯一の女友達といった関係であった。


「もしかして結城さんの話でもしてたの?」

「なんで分かったの?」

「なんでって、クラスのあちこちでその話題しているんだもの」


 そこまでのレベルの有名人だったのかと、改めて柊亮は驚く。高校に通い始めて1年は経っている筈だが柊亮自身そういう噂の類いには全く興味がなかった為、全て右から左へ聞き流しており、知る筈もない話ではあった。


 ――――――結城 日向、ねぇ。"アイツ"と同じ名前の奴か……。


 柊亮の中で、【結城 日向】に対する興味が僅かに湧いた。それは普段クラスメイトや他人に興味関心のない柊亮にとって、唯一興味が湧いた相手という意味と同義だった。



「ほら、来たみたいよ」


 ガラリと教室の扉が開き、そっと教室に入ってきた少女にクラス全員の視線がいく。

 黒髪のセミロングヘアーの少女は、そういう見世物の様な扱いに慣れているのか、それか全く視線を意識していないのか、ペコリと軽く一礼して、気にせず自分の座席へと向かっていった。


 日向が窓側の一番後ろの座席に座ると、彼女と去年同級生だった男女がそそくさと挨拶をしに行く。その様子を伺いながら今年初めてクラスが一緒になり、お近づきになりたいクラスメイト達が順々に席へ押し寄せる。


「結城さん、おはよー。今年も宜しくね」

「おはよう、こちらこそ宜しくね」

「あ、あのぉ、初めまして!」

「はい、初めまして」


 にこりと微笑みを浮かべ一人一人に丁寧に挨拶をする彼女に、柊亮は尊敬の念を抱き始める。愛想が良いのか、群がるクラスメイトを嫌がりもせず相手をしているからだ。


「すっげぇな…あれ」

「去年もあんな感じだったみたいだよ、去年一組の恵梨香(えりか)ちゃんが言ってたもん」

「とりあえず俺らも挨拶行っとく?」

「いや、行かなくて良いだろ。もうチャイムなるぞ」


 教室にチャイムの音が響き、二組の担任である鈴木が急ぎ足で教室へとやってくる。全員に着席の指示を出し、ホームルームが始まる。勿論クラス替え後の最初のホームルームでやる事なんてどこのクラスでも同じで、担任の自己紹介から始まり出席番号順に1人ずつ立ち上がり軽い自己紹介と挨拶をする事になる。


「ホームルームを始める。とりあえずまずは自己紹介だな。俺はこの2組の担任になった鈴木だ。去年一緒だった生徒達も、今年からの生徒達も気軽に何かあったら頼ってくれ。こんな感じで次、出席番号順に挨拶してけ」


 次々と挨拶が進む中、透は爽やか青年感あるスポーツ男子アピールを、恵は持ち前の明るさとボランティア部の話題を出して周りの感心を集めていた。


 ――――――2人とも相変わらずすげぇな。俺には真似できん。


 本来自己紹介タイムとは、新しいクラスメイトと馴染む為の大切なイベントでもある。そこで友人を作りたければ趣味や好きなものの話等、興味関心を持たれやすい話題をセレクトするべきだ。だが、柊亮にとってはこういった目立つイベント事は嫌いな類の為、心底逃げたいイベントをどう上手くやり遂げるかしか考えていない。

 『友人はその内作れば良い、作れればの話ではあるがそれで良い』が、いつも柊亮が自分の言い分を正当化させる為に使う大義名分である。


「次、橘」

「えーっと。橘 柊亮です。部活はしてないです。得意な教科は特にないです。趣味はゲームか昼寝です、宜しくお願いします」


 サクッと早口に自己紹介をし、サッと素早く席へ座る。愛想が悪いと言われようが構わない、早く終わらせたかったのだ。担任の鈴木は感想がてらに『もう少し声張って挨拶しろ』と言ってきたが、これでも柊亮は一応全員に聞こえる位の声で話していたと心の中で文句を言い返す。やり直しはしたくないからだ。


 順々に挨拶をしていき、話題の人物の番となる。


「次、結城」

「結城 日向です。部活はしていません。得意科目はどちらかと言えば文系です。趣味は料理と読書です。これから宜しくお願いします」



 ――――――声が透き通っていて綺麗だな。


 先程とは違い他者の声が殆どしないお陰か、はっきりと聞こえる日向の落ち着いた声色に、率直な感想は耳障りが良く綺麗だという事だった。この声で美人(あの見た目)で料理や読書が趣味だと言うのなら、年頃の男子からしたら理想の二次元の嫁に近いのではないだろうかと柊亮は内心思う。


 ――――――俺が探しているヒナタも美少年とかに成長しているんだろうか……。それともイケメン系か。マッチョは嫌だな、夢が壊れる。


 成長した美少年ヒナタを想像し幸せな気持ちだったが、うっかり想像してしまったマッチョ妄想により、一瞬で幸せな気持ちは何処かへ行き、ぶわりと全身に鳥肌が立った。


 気付けば柊亮が妄想を膨らませている間にも担任の話は進み、ホームルームを終えようとしていた。


「全員問題起こさず、仲良くするんだぞ」


 全員の自己紹介が終え、ある程度の今後の予定や注意事項についての説明や、配布物が配られる。そして担任からの締めの言葉をもって、柊亮にとって苦痛だったホームルームが終了し、その日は帰宅となった。







 2年生の1学期の授業が始まり、とある日の授業の出来事だった。授業による班決めの際、何となく幼馴染みで固まっていると不意に日向が声をかけてきた。


「1人空きがあるなら、班に交ぜてもらってもいいですか?」

「え、勿論だよ!」

「透と柊亮が良ければ、私もOKだよ」

「柊亮は?」

「……まあ、良いんじゃね? 1人足りないし」

「ありがとうございます」


 4人でグループを作れと言われたが、柊亮達は3人で固まっていた為1枠空いていた。柊亮としては誰かグループから漏れた人が出たら埋まるだろうと思ってた1枠に、まさかの人物が挙手してきて驚きだった。


「結城さん、そんなかしこまった感じじゃなくて気軽に話してよ」

「そうそう、もっと親しくなりたいし」

「ならこれからはそうするね」


 恵や透の要望により、日向の話し方が砕けた言葉遣いへ変わる。


「あたしの事は恵って呼んで。結城さんはいつも周りから何て呼ばれてるの?」

「私は名字以外だと、ひなが一番多いかな」

「ならひなちゃんって呼んでいい? 俺は透で宜しく!」

「あたしもひなちゃんって呼びたい! 柊亮はどうする?」

「俺!? 俺は別に……」

「橘くんの好きに呼んでくれて大丈夫だよ」

「……分かった、考えとく。俺の事は柊亮でいいよ」


 普段なら同学年の女子の名前など幼馴染みの恵以外基本呼ばないが、すぐ決断が出来なかった為その場を誤魔化した。


 ――――――"ヒナタ(アイツ)"の名前と同じだからだろうか、少しだけ呼びたくなってしまったのは。



「おい、いつまでもペチャクチャ喋っていないで、さっさと課題に取り組め」


 班の様子を見に来た科学教師に軽く叱られ、急いで4人で課題を進めることにした。


 課題をこなしながら、正面に座る日向の顔を見る。ぱっと見でも優しい雰囲気が伝わりそうな少し垂れ目な目元に長い睫毛、ちょこんとある小さな鼻にプルッと潤いを感じる紅い唇。可愛いと綺麗が両立している、全体的に整った顔立ちだなとじっと眺める。ふとノートに向かっていた筈の視線が柊亮と合い、少し心配そうな顔をする。


「柊亮くん、何かあった?」

「あ、いやっ……すまん。ただ見てただけだ」

「ほほう? 柊亮、ひなちゃんに見惚れてたのか?」

「ちげぇし!!」

「うわっ、図星!?」

「そこ、騒がしいぞ! 静かに課題をやれっ!!」


 否定の言葉を繰り出す前に科学教師から叱られ、柊亮は不満げに口を尖らせ課題と向き合う。確かに見惚れていたのもあるが、他人に言われるのは恥ずかしくて否定したくなる。窺う様にちらりと正面を見ると、当の見られてた本人はクスッと小さく笑っていた。


「笑うなよ……」

「ふふっ、ごめんね」


 笑いを堪えながらふにゃりと顔の緩んだ笑顔を向けるその姿が、柊亮の過去の記憶と重なる。


 ――――――"ヒナタ(アイツ)"もこんな緩んだ笑顔をしていて、男の子なのに可愛いと思ったな。



 不意に重なる面影に、柊亮は益々日向を意識していく様になった。

2話目をお楽しみに!

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